140:レオナルドと二人で
これから向かうレストランは、珍しい野菜料理が中心のお店。
ならば。
黄色のパプリカをイメージし、黄色とオレンジ色を混ぜ合わせたような色合いの生地のドレスを選んだ。金糸でオーバースカートに施された刺繍は、何と麦の穂。見事に意匠化されており、それが麦だとは言われないと分からないだろう。
髪は、サイドポニーテールでまとめた。
レオナルドは白シャツに、卵色に近いアイボリーのベストとズボン、ターコイズブルーのタイと、なんだか私のドレスの色にあわせたくれたような装いで、嬉しくなってしまう。
「さて。時間はたっぷりある。だから馬車で向かうのもいいだろう。でも今回、王宮付きの魔術師レオナルドとしてお店へ向かうのだから……馬車での登場では味気ないよね」
つまりは魔法で瞬時に移動ということ。
そこは時短になるので賛成だった。
そのことを伝えると「ではパトリシア、少し早いけれど行こうか」そうレオナルドは応じ、私達は――そのお店の入口に到着していた。
「え、ここがお店なのですか?」
「そうらしいね。よく見るとここに、お店の名前が書かれた看板がある」
確かに手作り感満載の、木目を生かした看板が、入口のドアのそばに吊るされている。そしてこの建物、一見するともう、農家の母屋という感じだ。
そばでニワトリが地面をついばみ、ヤギが「メェェェ……」と鳴く声も聞こえている。さらに周囲は牧草地が広がり、畑もある。本当に農家にしか思えない。
だが扉をノックすると「いらっしゃいませ!」と、お店らしい応答をされたが、その女性は見るからに農婦。でもよく見ると肌艶の良さ、所作の美しさから本物の農婦ではないと理解する。
予約も何もしていないが、ルカの名前を告げると……。
「お、お父様、た、大変です! 大変です~!」
水色のワンピースに白のエプロンの女性がパニックになり、父親を呼ぶ。コック帽を被った男性と女性そっくりの中年の女性、白い調理服姿の青年が厨房から出てきた。
どうやら家族経営のお店らしい。
王宮付きの魔術師レオナルドがお店に来たことに、店を切り盛りする家族一同がパニックになり、それが落ち着いてからようやく席に案内された。
案内された席は窓際で、そこに座ると、窓からはのどかな牧草地帯が見えている。今の季節、牧草は青々と生い茂り、建物ばかりの王都を見慣れている身には、清々しく感じた。
「お、お昼はランチのコース、一択でございますが、よろしいですか?」
水色のワンピースに白のエプロンの女性……このお店の長女に尋ねられ、レオナルドは「勿論ですよ」と優美に微笑む。すると長女は明らかに腰が砕けそうになり、そばのテーブルに手をついてなんとか体を支えている。
そんな長女に代わり、長男がサービスですとシードルを出してくれた。
自家製のシードルでまずは乾杯すると……。
「美味しいわ!」
思わず声が出てしまう。
近くに氷室でもあるのか。とてもよく冷えており、白ワインを思わせるキリッとした味わい。林檎の果実を思わせる香りは気持ちよく鼻を抜け、風味といい、飲み心地といい完璧だ。
すぐに出されたアミューズは、茹でたトウモロコシ、アスパラ、カブを特製ソースでいただくものだったのだが……。
甘い。トウモロコシがとても甘い!
ソースなしで食べきってしまった。
カブはソースをつけて頬張ったが、口の中でじゅわっと汁が溢れる。アスパラは筋もなく、柔らかくえぐみもなく、ソースとの相性も抜群だ。
既にアミューズだけで満足度は上がっていた。
「野菜がこんなに美味しく感じるなんて……正直、驚いたよ」
レオナルドがニコニコしているが、それは私も同じ気持ち。
続いて登場したのはオニオンスープ。
シンプルなスープであるが……。
「甘い……」
そう。とても甘さを感じる!
味付けは控えめでありながら、物足りないと感じないのは、玉ねぎの甘みのおかげだろう。あっという間に飲み干してしまった。
ここで本来魚料理が登場だが、出てきたのはニンジンをサーモンに見立てたソテー。とても巨大なニンジンが、サーモンのようにソテーされているがその味は……。
「うんんんんん!」
正直。
サーモンより美味しいかも!?
たっぷりのバターとレモン、それに塩・胡椒。さらに白ワイン。
ニンジンには味が染み込んでいる。周辺部は柔らかく、ソースが口の中でニンジンと絡み合う。真ん中の方は、ニンジンがシャキッとしており、歯ごたえを楽しめるのだが……これまた甘い!
咀嚼しながらソースと甘味が混じり、感動する味わいと遭遇することになる。
こちらもパクパクと食べきってしまう。
「パトリシア、ニンジンってこんなに美味しいのだね。しかも甘い。驚いたよ」
レオナルドの意見に激しく同意だ。
その後出てきた口直しのシャーベットは、さっぱりシトロン風味。
次はどんな野菜が来るのかと思ったら……。
お読みいただき、ありがとうございました!
明日もお昼に公開します~
引き続きよろしくお願いいたします!
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