139:日曜日の朝
ノエに尋ねられたロレナはこう話し始めた。
「まあ、もうすぐ完成なのね。それは良かったわ。必要な物は持って帰ってもらって構わないわよ。というか、本当は、いいのよ、ノエくん。油絵を描くのに必要なもの、ほぼ全てノエくんが絵を売ったお金で買った物でしょう。だから毎日、アトリエに取りに来る必要はないと思うのよ」
この言葉にスノーとノエが「「えっ」」と反応する。するとロレナは……。
「つまりね、いつでも好きな時に、持ち帰ってもらって構わないということよ。ただ、私はノエくんに会うのがとても楽しみなの。だから毎日アトリエに道具を取りに来て、返却して帰るのは大歓迎よ。むしろ、屋敷にノエくんが来ないと寂しいわ」
スノーはこのロレナの発言に安堵し、ノエもホッとした顔で応じた。
「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります。……ご迷惑でなければこれからもお屋敷に通わせていただきます」
ノエの今の話に、スノーは笑顔になる。
「あら、ノエくん。顎の下に油絵具ついているわよ」
ロレナに指摘されたノエは、道具箱を開け、布を取り出している。その間にロレナはバトラーに何やら声をかけていた。
油絵具を拭きながら、スノーとノエが話をしていると……。
「明日も暑いそうよ。外で絵を描くのも大変よね。これをね、明日のおやつにどうぞ」
ロレナがノエに差し出した籠には、沢山のフルーツが入っている。桃、アプリコット、小ぶりのメロン、ぶどう……。それはなんだかオシャレでもあり、静物画のモチーフにしたくなる。
「……! こんなに沢山。フルーツは大好きなんです。ありがとうございます」
ノエは笑顔でフルーツを受け取り、油絵具の道具一式を持ち、家路に向かった。
◇
翌日は日曜日ということで、マルティネス家では朝食がいつもより1時間遅い時間になる。別に夜更かしをして遅くなるわけではなく、義父のエリヒオと義母のロレナは、二人揃って日曜日の朝は、庭いじりをしているのだ。
それはなんというか、夫婦のコミュニケーションみたいなもの。
新しい種をまいた入り、見頃の花を飾るために摘んだり、それを二人で仲良く話しながら行うため、朝食はいつもより1時間遅くなるというわけだ。
これは二人が夫婦になってからずっと続いているものだと教えてくれたのはアズレーク。そのアズレークはいつもの時間に目覚め、あと1時間あるからと、素肌の私の肩にキスを落とす。
私はそれが嬉しい反面、ドキドキしていた。
というのも日曜日の朝。
朝食は1時間遅れだが、皆、目覚めている。
スノーは身支度が整うと「パトリシアさま~、おはようございます!」と部屋へ来ることが多い。
休暇が終わってから、日曜日の朝はアズレーク……レオナルドの部屋で迎えていた。だからスノーが部屋に訪ねてくることはなかった。その安心感から、日曜日の朝の1時間、レオナルドと共にベッドで過ごしていたが……。
今はアズレークの動きに反応しながらも、気が気ではない。
アズレークはすぐに私の様子に気が付き、「どうしたのか?」と尋ねる。そこでスノーのことを話すと……。
「なるほど。スノーはまだやんちゃなところがあるからな。いきなりドアを開ける可能性は……あるだろう」
そう言いながらも鎖骨にキスをしているので、私はさらにヒヤヒヤしてしまう。
「ちゃんと扉に魔法をかけてあるから大丈夫」
「! そうなのですね」
それは安心……なんて現金なのだけど。でも少しだけいけないことをしている気持ちになりながら、アズレークに身を委ねる。
ただ、心配は杞憂に終わり、スノーは私の部屋に来ることはない。そして朝食の時間にあわせ、身支度を整え、ダイニングルームに向かった。
今日はロレナとエリヒオはスノーを連れ、舞踏会のドレスに合わせるネックレスと髪飾りを買いに行く。昼食もそのまま外出先で済ませてから、屋敷へ戻る予定だ。
「パトリシア、お昼は私達も外食にするかい? ルカが教えてくれたお店が、とても美味しいそうだ」
そう言ってレオナルドが教えてくれたお店は、王都の郊外にあり、紹介制な上に完全予約制。上流貴族が農家の素朴な料理を楽しむがコンセプトのお店になっており、珍しく野菜料理をメインにしている。肉こそすべて!の風潮がこの世界では当たり前なので、このお店は珍しい。行きたいと思った。
「でも……紹介制で完全予約制なのに、今日、いきなりは無理ですよね……?」
「そう思うだろう。でもルカによると、知る人ぞ知るになりすぎて、店は閑古鳥が鳴く状態らしいよ」
なるほど。
やはりこの世界では肉ありきだから……。
「魔術師レオナルドが利用したお店……ともなれば、予約が殺到するかもしれない……とルカに言われてね。そのお店のオーナーは、ルカの知り合いらしい」
つまりこれは人助けの意味合いもあるのね。
元いた世界の感覚では、絶対に人気が出そうなお店。だから喜んでそのお店にお邪魔することを決めた。
こうして外出に合わせ、着替えを行うことにする。
せっかくの彼との外出、どんなドレスにしようかしら……。
お読みいただき、ありがとうございました!
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