134:スノーの身を案じ
ロレンソとは手紙のやりとりをしていたし、ノエを介して話を聞いていたので、彼の近況はなんとなく分かっていた。でも実際に顔をあわすのは、診療所に休暇のお土産を届けて以来だった。
つまり少しだけ久しぶりになるが、相変わらずロレンソは洗練された雰囲気を漂わせている。白シャツに黒グレーのベストとズボン、そして片眼鏡というラフな装いだったが、所作の美しさに品があり、やはり高貴に感じた。
そのロレンソが屋敷にノエを迎えに来た理由は……。
「スノーとノエがよく遊びに行く公園は、貴族の屋敷に囲まれた場所にあるので、街の人間はあまりに近づきません。その一方で、悪いことを考える人間は、あの公園は貴族の子供を誘拐するには最適と見ています。とはいえ、メイドや従者が付き添いでいますから、そう簡単には誘拐できません。それでも数カ月に一度、未遂も含め誘拐事件は、起きているのですよ」
これにはマルティネス家の全員が驚いてしまう。
緑豊かで、公園の管理人も巡回しているし、常に清掃や植木の手入れをする人間もいるので、安全だという思い込みがどこかであった。それにスノーとノエが遊びに行く時には、メイドや従者に加え、騎士を一名つけていた。
何より、レオナルドも子供の頃、あの公園で散々遊んだと聞いていたから……。
すっかり安全な公園と思っていたが、そんなことはないようだ。ロレンソに指摘されなければ気づくことができなかった。
しみじみ、街で暮らすロレンソから情報を得られるのは大きい……と思ってしまう。
「でも他の公園に比べたら、安全、と言えるでしょう。ただ、わたしもスノーとノエのことは気にかけているので、街の人間に公園の近くを通ることがあったら、二人が元気でやっているか見てくれ――と頼んでいたのです。わたしとしては軽い気持ちでお願いしていたのですが……」
そこでロレンソはとても美しく、慈愛のある笑みとなる。
「街の人間はとても優しくて。どうやら二人がこの屋敷で油絵を描いている日でさえ、公園の様子をきにかけてくれていたみたいなんです」
これにはもう、胸がジーンとしてしまう。
街の人がそうするのは、ロレンソの人徳ゆえ。
「それで今日はノエが一人だったので、心配した街の人が、わたしに知らせてくれたのです。『今日はノエが一人で、公園で絵を描いていたよ。真っ白な髪の可愛い女の子の姿は見えなかったけど、大丈夫かね』と。スノーの身に何かあったのかと心配になり、ノエを迎えに来たというより、スノーが心配で訪ねてしまいました」
これにはもう、みんな「なるほど!」となる。
ノエは17歳だが、聖獣を始祖に持ち、魔力も強く、魔法も使えた。自分の身は自分で守れる。だからロレンソとしては、ノエが一人で絵を描いていたとしても、心配はしていない。むしろか弱いスノーが、過去にカロリーナに呪いをかけられたこともあるスノーの方を、心配してくれたというわけだ。
そこでなぜスノーが公園にいなかったのか、その理由を明かすことで、必然的にあの舞踏会について話すことになった。
「ついにスノーも社交界デビューなのですね」
ロレンソはまず、そのことを喜んでくれた。その上で……。
「確かに、アオイのエスコートをノエにと考えていましたが、問題ありません。アオイはわたしがエスコートすればいいだけですから。スノーのエスコートは、ノエにまかせてもらって構いませんよ」
やった! これでスノーをエスコートしてくれる相手も決まった。何より、今のロレンソの言葉を聞いて、スノーの顔がキラキラと輝いている。それにノエもとても嬉しそうにしているのだから。
「ところで急遽、社交界デビューが決まったのですよね? ドレスの準備は大丈夫なのですか?」
それについてはレオナルドが用意するつもりだと話すと、ロレンソは「ドレスは魔術師レオナルド様が用意すると。ならば白のオペラグローブは、わたしが用意しましょう」と申し出てくれた。
なぜ、ロレンソが用意してくれるのかしら?
そう思ったが、ロレンソにとって、街にいる子供もスノーも、庇護の対象であり、護るべき存在。我が子のように可愛いのだろう。
ロレンソが用意してくれるオペラグローブなら、さぞかしい素晴らしいものであると想像できる。だからこの有難い申し出は快諾した。
すると……。
スノーを我が子(孫?)と思うエリヒオとロレナは、純白のドレスにあうペンダントと髪飾りを用意すると宣言した。どうやら週末に二人でスノーをつれ、宝石店に向かうことを決めたようだ。
なんだかみんながスノーの社交界デビューを全力で応援してくれているが、私も何かできないのかと考え込むことになる。食後の紅茶を飲みながら、私は「スノーのパンプスは私が用意します!」と手を挙げて言うと、みんな笑いながらも「いいと思う」と応じてくれた。
お読みいただき、ありがとうございました!
明日はお昼に公開します~
熱さでよく眠れない方!
寝る前に首の後ろを冷やすと筆者はよく眠れます。
保冷剤をタオルに包んで数分首に当てると、筆者の場合は暑さが和らぐ気がしています。
睡眠不足は疲れの元なので、快眠できる工夫、模索したいですねー。
それでは引き続きよろしくお願いいたします!



























































