133:こういう偶然は神様がくれたギフト
トパーズのような瞳で私を見たノエは、こう切り出した。
「この前描き上げた絵は、国王陛下にお見せすることになっています。手元に残っている絵は、人物画と静物画で……。お世話になっている方なので、風景画を描きたいと思っています。大変申し訳ないのですが、俺はいつもの公園に行ってもいいですか?」
このノエの謙虚な申し出には、素晴らしいと拍手したくなる。
だって私はノエにスノーのダンスの練習に付き合って欲しいと頼んではいない。でもそうしてもらえたらいいなとは思っていた。そこを先読みし、自身の事情を踏まえ、まずはお詫びし、その上で風景画を描きたいと申し出いているのだ。しかも……。
「俺は自分で言うのもなんですが、絵を描くのは早いと思います。だからなるべく早く絵を描き終え、そしてスノーのダンスの練習に付き合いたいと思うのですが、どうでしょうか」
これにはもう感動すら覚えてしまう。なんてできた子なのだろう!
「ありがとう、ノエ。そうしてもらえると助かるわ。でも風景画はお世話になっている方からお願いされたことでしょう? それはもう、お仕事よね。だから風景画はきちんと仕上げるようにして。決して、スノーのダンスの練習のためにって、切り上げたりしないでね。勿論、そんなこと、ノエはしないと思う。念のために伝えたわ」
「分かります。パトリシアさまが言おうとしていること。風景画はいつも通り、ちゃんと心を込めて描き上げます。そこがちゃんとできない人間では、スノーのことだって、中途半端になってしまうと思うので」
ノエ、素晴らしいわ!
私は……スノーの母親ではないし、スノーは私の子供というわけではない。でも、もしスノーが私の子供だったら……。ノエと結ばれることに、絶対反対しないだろう。
「それを聞けて安心よ。ありがとうね、ノエ。それでスノー、あなたは今、ノエの話を聞いていたから大丈夫よね? 舞踏会までスノーは午後、ダンスの練習。ノエは風景画を描く。もしノエの絵が舞踏会より前に仕上がったら、ダンスの練習に付き合ってもらう。これでいいわよね?」
ずっと話を聞いていたスノーを見ると……。
「勿論です、パトリシアさま! スノーはちゃんとダンスができるようになるため、練習します。ノエ、スノーはスノーで頑張るから、ノエもオーナーさんが喜ぶような素敵な絵を描いてね!」
「うん。ありがとう、スノー。お互いに頑張ろう」
ノエはアトリエで、油絵を描くのに必要なもの一式を道具箱に入れ、イーゼルとキャンバスを手に屋敷を出る。私達はそんなノエを見送り、ロレナは「おやつにね、食べて頂戴」と、焼き菓子をノエに手渡した。
一方のスノーは、ひとまずと私とロレナにより、ダンスの練習となる。
この練習を通じて分かったのだが……ロレナはとんでもなくダンスが上手! しかも男性パートも踊ることができる。
なんといってもスノーの手をとり、ダンスを始めたロレナは実年齢よりうんと若く感じてしまう。姿勢もよく、動きにきれもあり、堂々としていて……とても頼もしく見える。
間違いない。若かりし頃のロレナは相当モテだろう。きっと社交界の華と呼ばれた過去があるに違いない。
そんな感じで休憩を挟みながら、ダンスの練習を続け、気づけば窓の外は茜色に染まっている。熱中していたので、あっという間だ。
「あ、ノエが戻って来たわ!」
窓からエントランスへと歩いてくるノエを見つけたスノーは、一目散で部屋を出て行く。その姿を見て、ロレナモ慌てて後を追いかける。ロレナと二人、小走りでスノーの後を追いながら「スノーちゃんは社交界デビューを飾るけど、まだまだお転婆さんね。ノエくんがスノーちゃんにドキッとしてくれる日は来るのかしら?」そんなことをロレナが口にする。
「私もそう思っていたのですが、今日、スノーについてノエが話す姿を見ていたら……。間違いなく、お互いを異性として意識し、好き合っていると思いますわ」
「まあ、そうなの、パトリシアさま! スノーちゃんったら、まだまだ子供だと思っていたのに」
ロレナはスノーに早く大人になってほしいけれど、子供でもいてほしいと、複雑な気持ちのようだ。
屋敷に戻ったノエは、アトリエに道具一式を戻し、スノーと少しおしゃべりをすると、帰ろうとしたのだが……。
なんとタイミングよく、ロレンソが屋敷にノエを迎えに来たのだ!
これは舞踏会のスノーのエスコートの件を相談できると思っていたら、そこに義父のエリヒオとレオナルドが帰ってきた。
「こういう偶然は神様がくれたギフト。きっとみんなで夕食をとったら?ということだと思うの」
そう言ったのはロレナ。
なんて素敵な提案だろう!
かくしてマルティネス一家とロレンソとノエと、ダイニングルームで夕食を囲むことになった。
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