131:この夏最大で最後の……
「パトリシア、元気にしていたかな? 新婚旅行のお土産、受け取ったよ。レモンの爽やかな香りのポプリ。今の季節にピッタリだから、朝、起こしに来る侍従に、枕元に置くように指示した。あの香りをかぐと、スッキリ目覚めることができて、助かっているよ」
戴冠式に国王陛下が向かったのに合わせ、領地視察から戻った王太子であるアルベルトと久しぶりに再会した。王宮にいるアズレーク……レオナルドにランチを届けたいつもの庭園で。
久々に再会したアルベルトは、視察した領地で少し日焼けしたようで、それは彼に精悍な印象を与えている。シアン色の上衣と薄い水色のマントという姿も、シュッとしており、これまで以上に引き締まった印象を与えていた。
「はい。私は元気いっぱいです。王太子さまも、お元気そうで何よりですわ。レモンのポプリ、気に入っていただけて良かったです」
アルベルトがいるので、今日の昼食は昼食会の場へと変わりつつある。既にメイドや侍従が白いテーブルクロスを広げ、椅子を並べていた。即席で庭園の一画に、昼食会の会場ができあがっていく。
「スノー、今日のお昼はなんだ?」
いつもの軍服姿のマルクスが、私とお揃いのレモン色のドレス姿のスノーに尋ねた。
「マルクス兄、今日はね、ニシンサンド、マグロのコンフィのサンドイッチ、あとはレモンタルト! これ、ぜーんぶ、パトリシアさまが朝から一人で作ったの! すごいでしょう」
椅子に腰を下ろしながら、スノーが元気よく答える。
「それはすごいな、パトリシアさま」
マルクスが目を丸くしていた。
「そんな。大変だったのはレモンタルトぐらいよ。でも下準備は済ませていたから。それにマグロのコンフィも前日に作っていたから、サンドしただけだし」
「珍しく魚のサンドイッチばかりなのは、やはり海の街の味が恋しくなったからですか?」
アルベルトの三騎士の一人、剣の騎士のミゲルが天使のように微笑む。こちらもいつもの軍服姿で、相変わらず薔薇の背景が似合いそうな佇まいだ。
「そうですね。レオナルドも私も、これを食べれば休暇のことを思い出せますし、何より……スノーがシーフード料理に開眼し、最近は肉より、お魚!でして」
「それは、それは。肉料理は食べ飽きている嫌いもあります。魚料理に開眼するのは、食の世界がさらに広がると思いますよ。自分は魚料理が昔から好きですけどね」
同じくアルベルトの三騎士の一人、弓の騎士ルイスがそのエルフを思わせる美貌で笑顔になる。椅子に座る際、その美しいミルキーブロンドの長髪がサラサラ揺れていた。この髪は、セシリオと甲乙つけがたい美しさだ。
「今日はこれで全員かな? 僕の三人の魔術師補佐官はみんな出払っているから」
白の軍服姿のレオナルドが、優美に微笑みながら着席する。
そう、そうなのだ。
グロリアはまだシーラにいて、「ワイズ」の一連の事件の残処理に当たっている。とにかく逮捕者も多かったので、尋問するだけでもとんでもなく時間がかかっているとのこと。それでも来週か再来週には、シーラに駐在する王都から派遣された騎士に後を任せ、グロリア自身は王都に戻ることになっている。
だがグロリア本人は、海の街シーラがかなり気に入ったらしく、嬉々として残処理に取り組んでいるという。
一方のセシリオは今回、レオナルドに代わり、国王陛下の外交に同行していた。本当はレオナルドを同行させたいところだが、国王陛下とレオナルドが共に王都を離れているとなれば、よからぬことをしでかす輩が現れる危険もある。よってレオナルドは留守番で、魔力が強い魔術師補佐官でもあるセシリオが、同行したというわけだ。
この二人が不在となった結果、ルカはとんでもなく忙しくなっている。それでもルカは自身が希望して魔術師補佐官になったので、嫌な顔を一つせず、奮闘していた。今は街の役場の困りごとの解決のために、王宮にはいなかった。つまりは魔法を使い、何かの対応をしているらしい。
ということで本日の昼食会は、懐かしいプラサナスの地のメンバーでとることになった。しかも久々に再会したので、レオナルドと私は休暇の話を、アルベルトは視察した領地の話をしてくれて、あっという間に時間が経ってしまった。
「そういえばスノーはまだ、社交界デビューをしていないよね? 15歳だし、もうデビューしてもおかしくない。国王陛下が戻ったら、この夏最大で最後の大規模な舞踏会を宮殿で開催する。今回は一部の街の人間の参加も認めているし、あのロレンソも仲間数名を連れ、顔を出すことになっている。せっかくだからスノーも参加しては?」
食後の紅茶を飲み終え、まさに立ち上がりかけたアルベルトが、思い出したという顔でこんな提案をしてくれた。
その舞踏会は毎夏の恒例で、ガレシア王国のほぼすべての貴族が参加すると言われている。ゆえに一晩では収まらず、三日三晩かけて行われていた。マルティネス家にも勿論、招待状は届いている。
通常はこの招待状で招待日が指定されていた。来場する貴族を分散させるためだ。だがマルティネス家に届いた招待状に招待日の指定はない。レオナルドが多忙であることは周知の事実。よってお時間のある時にどうぞ、という特例扱いだった。
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