128:お誘い
「アズレークさま、パトリシアさま、ノエが食事に招待してくれることになりました!」
三度目の正直。
またも入浴の準備をしている最中に、スノーからこう言われた時は、本当に困っていた。
大人との食事会は、どうしても遅い開始時間になってしまう。そして主賓は彼らでスノーはもしよかったらというレベルなので、時間変更もお願いできない。そうなるとどうしたってお断りすることになる。
何度も「スノー、残念ながらその時間だと無理ね。せっかくだけど、お断りしましょう」と伝えるのも可哀そうになってしまう。何より、そう伝えると、スノーはとても残念そうな顔をする。でも私が言うことは理解できた。だから我がままを言うことなく、しょんぼり顔で「分かりました、パトリシアさま」と返事をする。
その姿を見ると、スノーの落胆ぶりが伝わってくる上に、どうしても行きたいと無理強いしない健気さに、胸が打たれてしまう。できれば「いってくるといいわ」と背中を押してあげたい気持ちになる。
でも「残念だけど……」と言わなくてはならない。
そう思っていたが、スノーは続けてこんなことを言った。
「ノエは、過去二回の食事会に、スノーが参加できなかった理由を理解していました。そこで今回、スノー達を……スノー達というのは、アズレークさま、パトリシアさま、お義父さま、お義母さま、そしてスノー、この五名を招待してくれるそうです! お店は貴族が行かれるところを見つけたから、安心してって」
「まあ、そうなの! 時間もこちらの希望を聞いてくれるのかしら?」
スノーは返事の代わりに笑顔で首を縦にふる。
私はアズレークを見た。
「それであれば断る理由はないだろう。ノエが、私の父上や母上に感謝している気持ちはよく分かる。スノーのため、とはいえ、アトリエを用意してもらい、宮廷画家から個人レッスンを受けさせてもらうことができた。その縁をきっかけで、ギャラリーに自身の絵を飾ることもできたのだからな。御礼をしたい、それは自然な気持ちだ」
「そうですよね。……でも貴族が行くお店で、5人分の食事代となると、結構な値段がすると思います。街の人を一回ご馳走するぐらいのお金を使わせることになりますが、大丈夫でしょうか……」
するとアズレークは、こんなことを教えてくれた。
「宮廷画家と王宮で会った時、少しだけノエのことが話題になった。あのギャラリーは多くの宮廷画家を輩出しており、顧客には上流貴族が多いそうだ。王宮で新しい画家を発掘するために、あのギャラリーに足を運ぶこともあるらしい。つまり、ノエの絵は私達が想像しているより、うんと高額で扱われているようだよ」
これにはもう、ビックリしてしまう。
でも美術品の世界とは……そういうものだ。
こうして私達は、ノエの食事の招待に応じることになった。
◇
ノエが食事に誘ってくれた。
スノーはそのことが嬉しくて堪らない。だからノエが招待してくれた夕食会のためのドレス選びは、特に念入りだった。
そして今日がまさにその食事会の日だった。
スノーが選んだドレスは、見た目も涼やかなアイスブルーの生地でできたもの。アシメントリーで重ねられたオーバードレスは、美しいドレープを描き、そこには沢山のグリッターが散りばめられている。
身頃はビジューと立体的なフラワーで飾られたレースが、とても美しい。
これは休暇から戻ってすぐに仕立てを依頼したもので、スノーと私はこのお揃いのドレスで、食事会に参加することになった。
私とスノーのドレスを見たアズレーク……レオナルドは、自身もアイスブルーのセットアップに着替えてくれた。白シャツに、コバルトブルーのタイを合わせたレオナルドは、とても……美しい。
いつも白に差し色で水色や青を取り入れることが多いのだが、こうやってアイスブルーを前面に出しているのも……本当に素敵だった。
一方、義母のロレナはピスタチオグリーンの落ち着いた色味のドレスを着ているが、オーバードレスには孔雀の羽も使われており、とても珍しいデザイン。これは画家の顔を持つノエの創作意欲を、かきたてるかもしれない。
義父のエリヒオは、ロレナに合わせたのだろうか。深みのあるグリーンのセットアップを着ていた。さらにジャケットの襟には、孔雀モチーフのラペルピンをつけている。
ロレナとエリヒオのさりげないお揃いオシャレは上級者向けだが、真似をしたくなるもの。何より二人の仲の良さが感じられ、微笑ましくもなる。
いつかは私もアズレークも年をとるのだ。その時はこの義父と義母のような二人になりたい。思わずそんな風に思えてしまった。
何はともあれ、用意ができると、エントランスに集合し、五人で馬車に乗り込む。
よくよく考えると、この五人で馬車に乗るのは……初めてだった。屋敷でこの五人で過ごすことは当たり前だったが、五人揃っての外出は初めてのこと。それを思うと、この機会を作ってくれたノエには感謝だ。
「スノーちゃん、これから行くお店はね、ロブスター料理もあるのよ。スノーちゃんはパトリシアさま達が休暇で美味しいシーフード料理を食べたと聞いて、自分も食べたいと言っていたでしょう。今日は、大きなロブスターを食べられるわよ」
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