126:貴重で希少で至高の存在
自室に戻り、入浴を終え、以前メイドが勧めてくれた薔薇の香油を全身に薄くのばしてつけてみた。
爽やかですっきりした薔薇の香りが、ほのかに全身から感じる。
素敵な香りだわ。
用意していたラベンダー色のネグリジェを着て、薄手の白いガウンを羽織った。
これからレオナルドの部屋に向かう。
その事実に心臓が反応を始めている。
アズレークと婚姻関係を結んでから、初めてマルティネス家の屋敷で夜を過ごす。その状況にも心臓のドキドキが加速されてしまう。
いろいろと、大丈夫かしら?
私も……自制しないといけないわよね。
そんなことを思いながら、彼の部屋と向かう。
そこまで遅い時間ではないが、廊下はシンと静まりかえっていて、メイドや従者とすれ違うこともない。
いつも夜、アズレークが私の部屋に来てくれる。よってあまりこんな時間に、自室から出たことがなかったことに気づく。
静かね。とても。
自分の着ている衣擦れの音が聞こえてしまうぐらい静かな廊下を進み、彼の部屋の扉の前についた。ノックしたらその音は、アズレーク以外にも聞こえてしまいそう――そんな錯覚さえ感じながら、なるべく控え目に扉を叩く。
すぐに扉が開き、そこに現れたのは――。
レオナルド!
レオナルドの姿だからか。
着ているナイトガウンはオフホワイト。
も、もしや今晩はレオナルドの姿で……?
静かな廊下を歩くことで、自分の心音が必要以上に気になってしまった。それをなんとか鎮めようとした結果。心臓の鼓動はかなり落ち着いていたのに。
レオナルドの姿を見て、またもや心臓は大騒ぎになっている。
「パトリシア、こちらに座ってもらえるかな」
「は、はい」
いきなり抱き上げられ、ベッドへ――。
ということはなく、ソファに座るように言われたので、少し安心、少し残念な気持ちになる。
「この休暇の最中に、ようやく完成し、屋敷に届けられていたようなんだ。……パトリシア、手を出してもらえるかな?」
ソファに座った私に、レオナルドはいつも通りの優雅さで尋ねる。完全に仕事モードとしか思えないレオナルドに、胸のざわめきは静まっていく。
「あ、はい。手? どちらの手を」
「こちらの手だよ」
レオナルドが私の左手を自身の手にとったと思ったら。
「これは……!」
「婚姻届けを出すことを急いでしまったから、もうお役目御免かもしれないね。でも宝石商に聞いたところ、婚約指輪と結婚指輪を重ねてつけるのは珍しいことではないらしい。だから遅くなってしまったが、これをパトリシア、君に」
レオナルドが私の左手の薬指につけてくれたのは、碧い宝石が埋め込まれているホワイトゴールドのリングだ。婚約指輪ということだが、これであれば確かに結婚指輪と重ねづけできる。
「素敵な指輪、ありがとうございます! この碧い宝石、とても美しいですね」
「パトリシアは水色が好きだと分かっていたから、宝石商に碧い宝石を埋め込みたいと頼んだ。すると滅多に市場にも出回らない希少な宝石があると言われてね。しかも『永遠の愛』と『幸運』という石言葉を持つと言われた」
永遠の愛と言えば……ダイヤモンドよね?
え、これはダイヤモンドなのかしら?
「ブルーダイヤモンドというそうだよ。天然のブルーダイヤモンドはとても貴重と教えてもらった。値段も……さすがの僕でも驚くもの。聞くと購入するのは、もっぱら王族や大富豪と言っていたから、よほどの価値があり、希少性が高いものなのだろうね」
ブルーダイヤモンド、正直、初めて聞いたわ。
元々宝石に疎いせいもあるのだけど、流通量が少なさそうだ。
つまりそれだけレオナルドの言う通り、レアな宝石なのだろう。
しかも王族が滞在するホテルの最上階を、2週間押さえて平気な顔をしていた彼が驚いたということは……間違いない。とんでもない値段がするものと確信した。
「でも希少という点で言えば、パトリシアは僕にとって、この上なく貴重で希少で至高の存在。ならばこの宝石がふさわしいと思い、このリングに埋め込んでもらうことにしたよ」
「そんな、嬉しいやら恥ずかしいやら……。でもそこまで希少で大変高価なものを……」
「パトリシア、君はこの宝石以上の価値がある。僕にとって」
優美な手付きで私を抱き寄せ、顎を持ち上げると、レオナルドの唇が近づく。キスをするギリギリの距離で「僕の大切なパトリシア」と囁かれ、さらに番の証である逆鱗をすっと撫でられた。反応を抑える魔法が解除されてしまうと……。
どれだけ高価で希少であろうと、今この瞬間からブルーダイヤモンドのことは頭から吹き飛ぶ。
「レオナルド……」
甘えるような声でその名を呼び、首に腕を絡めてしまう。
レオナルドは私を抱きしめ、頬や鎖骨にキスを落とし、耳元で「ちゃんと僕の部屋は魔法をかけているから。好きなだけ声を出していいよ」と甘い吐息と共に教えてくれる。
これにはもう……理性を失いそうになってしまう。
「ベッドへ行こうか。パトリシア」
レオナルドが私の体を抱き上げた。
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