125:スノーは……何気に鋭い!
1カ月の休暇が終わり、マルティネス家の屋敷に戻って来た。
私とアズレークの帰還を、義父のエリヒオ、義母のロレナ、そしてスノーは大喜びで祝ってくれる。夕食の前に、買ってきたお土産を渡すと、スノーは喜びつつも、滞在したシーラやギニオンがどんな街だったのかと聞きたがる。
既に、シーラで起きた大捕り物『ワイズ』の件は、ここ王都でもニュースペーパーで報じられており、スノーも知っていた。その事件のことは勿論、シーラの街でどんな風に過ごし、何を見て、どんな物を食べたのか。それを知りたがった。
私とアズレークはシーラの街の様子、遊歩道やシービューパーク、遺跡博物館、カフェやレストランで何を食べたのか、話して聞かせる。
私とアズレークの話を聞いている時のスノーの瞳は、本当にキラキラと輝いていた。そしてスノーは見たことがない海に想いを馳せ、そう頻繁に食べることはない魚料理に興味津々だ。
話は終わらず、夕食の席では、今度はギニオンについて話すことになる。
演劇祭はどんな祭りであったのか。美しいコーラスを聞き、自分達もそのコーラスに参加したこと。コーラスのみならず、演劇の舞台に私が立つことになったこと。そこで上演されていた演目について話し、奇しくもその舞台に自分が出演することになったと打ち明けると、エリヒオもロレナも驚いている。
夕食は終わったが、食後の紅茶の時間は、普段の倍になった。シーラで購入したレモンの砂糖菓子はあっという間になくなり、ギニオンで購入した音符の形のチョコレートも食べ尽くし、そこでようやくお土産話が終わる。
「スノーもシーラとギニオンに行きたくなりました! あとメトルの街で、シーフードを様々なソースをつけて食べたいなぁ」
スノーを間に挟み、私とアズレーク……レオナルドは廊下を歩いている。これからスノーは入浴して、寝る準備だ。既にメイドはお風呂の用意を始めてくれているので、ドレスを脱ぎ、歯を磨けば、すぐに入浴できるだろう。
「ところでパトリシアさま、レオナルドさま。どうして観光はちょこっとなのですか?」
「え?」
「だって、一日中時間があったのですよね? でも観光をするのは、午前中だけとか、午後だけとか。夜だけ。勿体なくないですか?」
スノーは……何気に鋭い! でもその通り。もはやこの休暇中、観光をしていた時間とベッドで過ごした時間、どちらが長いかと問われれば……間違いなく後者だ。
「スノー。シーラとギニオンには、のんびりするために行ったのだよ。それにどちらの街も観光名所にあふれているわけではなかったからね。ゆったり寛ぐ時間を楽しみ、そして観光も楽しむ。スノーにはまだ分からないかもしれないが、それが大人の贅沢な時間の使い方なのだよ」
レオナルドが優雅に微笑みそう答えると、スノーは「……! 大人の贅沢な時間の使い方! なんだかとても素敵な響きですね。スノーも早くそんな時間の使い方をしてみたいものです」と瞳を輝かせる。
「うん……。スノーにはまだそれは早いかな。でもいずれ、そうなるだろうね。……ところでスノーはこの一カ月、どんな風にして過ごしたのかな?」
レオナルドに聞かれたスノーは、ノエと一緒に油絵に挑戦し、チェスで勝負し、公園を散策し、街で沢山のスイーツを楽しんだと話した。さらにはマルクスも何度か屋敷を訪れ、夕食を共にし、食後の話し相手にもなってくれたという。
そんな風に話していると、スノーの部屋についた。ツンと漂う油の香り。応接室に当たる部屋には、完成した油絵、描き途中の油絵が飾られている。
「これは驚いたね。ここにあるのは全て、スノーが描いたものなのかい?」
レオナルドに聞かれたスノーは笑顔で答えた。
「この果物とお義母さまはスノーが描きました!」
大胆な筆遣いで、これはジョルジュ・ブラックが生み出したキュビズムみたいだ。なんて巨匠に例えてしまうのは、完全に贔屓目で見た結果。スノーの画力はまだ未開発ということだ。
「これはノエが描いたものです。すごいですよね!」
スノーの顔がドヤ顔になるのがよく分かる。ノエが描いたという静物画と人物画。一目見て何を描いたかすぐ分かる。とても写実的。どちらもまるで写真のように見えた。
「これは素晴らしいね。ノエは……誰かに絵を学んだのかな? とてもよく描けているね。それにただ写実的なだけではない。この果物は……描くのに時間がかかっている。その間に、少しずつ果物は傷んでいるだろう。その様子まで表現され、描かれた物の背景や物語を感じさせるね」
まさにその通りだった。ロレナを描いた人物画も、彼女の持つ穏やかさと芯の強さが感じられるのだ。レオナルドは「これはぜひこの屋敷に飾りたいね」と微笑んだ。
「レオナルド様、パトリシア様。スノー様の入浴、いつでも可能ですが」
メイドの声に我に返り、スノーの入浴を進めてもらう。お風呂上りのスノーと少しおしゃべりをして、寝かしつけると……。
「パトリシア。入浴を終えたら、僕の部屋においで」
優美な笑みを浮かべたレオナルドに、心臓は大きく反応してしまう。
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