6:エピローグ
私を見るロレンソの瞳は、とても美しい。ラノベの世界だからこそ存在する珍しい瞳。
「マステスが描いたのは二体のドラゴンの姿。堂々とした体躯の大きな翼を持つドラゴン。その広げた翼に守られ、小型のドラゴンが寄り添っている。そんな絵です」
ナプキンで口をゆっくり拭いたロレンソはしばし無言だったが……。
「二人が聖獣を祖先に持つことを、そしてそれがドラゴンであることも知っていると。……疑おうと思えば、いくらでもあなたを疑うことができます。でも……」
ロレンソはテーブルに置いた硬貨とお札に目をやる。それは私のお財布から取り出したものだ。
「何か悪意を持ってわたし達に近づこうとしているならば。アオイさま、あなたは無防備過ぎる。とても……悪巧みをしようとしているようには思えない。正直、あなたが何かしようと動いたとしても。確実に阻止できる自信があります」
それは……そうだろう。
ロレンソがどれだけすごいかは、ラノベで読んだからよく分かっている。
「完全にあなたを信じたわけではありませんが、悪意がないことは理解できました。……そして別の世界から来たあなたは、頼る相手がいない。住む場所も、お金もなく、生きる手段がない。とても困っているのですよね?」
もうその通りなのでこくこくと頷く。
「わたしは……そんなあなたを、通りに放置することはできません。かといって、無条件であなたを助けるわけにもいかない。この街のために貢献できるのならば、あなたに衣食住を提供しましょう」
この言葉に私はつい笑顔になってしまう。私の笑顔を見たロレンソの表情も和らいだ。そして現金をお財布に戻し、私にスマホと一緒に返しながら、店員に目配せする。店員はすぐに頷き、厨房に声をかけた。
「アオイさま。あなたがわたしに話したこと。それはむやみやたらに人に話さない方がいいでしょう。わたしは……知っての通り、魔法を使えます。ですから少し変わった話も、割とすんなり受け入れることができる。でも誰もがそうではない。不審者と思われ、ヒドイ扱いを受けるかもしれませんから」
「分かりました。そうですよね。ロレンソさま以外に話すつもりは……あ、ノエくんは?」
するとロレンソはクスッと美しく笑う。
「ノエくん……。ノエにはわたしから話しておきますよ。彼もまた魔法を使える人間ですから。不思議な現象には慣れています。それにアオイ様の身の周りのことは、彼に任せることも多いでしょうから」
「そうですか……。そう言えば、ノエくんは……? あ、スノーちゃんのところですね。小説では詳しく書かれていませんでしたが、今頃、チェスをしたり、散歩をしたりしているのでしょうか」
そこでアーモンドのケーキと紅茶が運ばれてきた。
ラノベで書かれていた通り、粉糖がかかっている。
「ノエとスノーが何をしているのか。わたしも詳しくは聞いていませんが、ええ、言われた通り、チェスをしたり、散歩もしているようですよ」
ロレンソは自身の紅茶を口に運ぶと「どうぞ。食べたかったのでしょう、このケーキを」と私にすすめてくれる。「ありがとうございます!」と早速ケーキを口に運ぶ。
口の中でふわっとバターの風味が広がり、確かに外はサクッとして中はしっとりとして美味しい……!
「どうですか?」
「はい。小説通りで美味しいです」
そこで今さらなことに気づいてしまう。
「あの、私、お金がないのに、あれを食べたい、これを食べたいと言ってしまいました。それに実際食べてしまいました……申し訳ありません」
「……真面目で律儀な方ですね。問題ないですよ。あなたはここではない世界から来たのですから。でも、そうですね。わたしにとって、あなたが見せてくれたものは、とても興味深いものばかり。他にも何かお持ちでしたら見せていただけませんか。そうしていただければ、当面の間のあれこれは気にしないでいいですよ」
これは本当にロレンソらしい。無償で治療をしても、元気になったら働いて、少しでも治療費を返済するよう求める。決して甘やかすだけではない。自立を求める。それは私に対しても同じ。元の世界のものを見せる。その代わりに当面の面倒を見ようと。
きっとここでの生活の目途が立ったら、自分で生きていくよう求めるのだろう。
そうだ。もし自分でお金を稼げるようになれば、ここでの食事代も診療所で休ませてもらった御礼もちゃんとできる。元いた世界でも、ちゃんと働いてお金を稼いで生きていたのだから。きっとここでもできるはずだ。
「ロレンソ様。ありがとうございます。今は本当に私、無一文ですから、甘えさせていただきます。でも生きていく算段が立ったら、今度は私がご馳走しますから!」
私の言葉を聞いたロレンソはあの綺麗な笑顔になる。
「良い心掛けだと思いますよ、アオイ様」
偶然だったのか、運命だったのか。
戻ることができるのか、戻れないのか。
全ては未知数。
ただ、ハッキリ分かっていること。
それは私が読んでいたラノベの世界に転移し、今はここで生きていくしかないということだ。
完全に信じてもらえたわけではないだろうが、少なくとも私のために協力したいと考えてくれるロレンソと出会えた。これからここで生きて行くことを、サポートすると言ってもらえている。
何より、ここは気に入って読んでいたラノベの世界なのだから。
頑張って、でも楽しみつつ、無理はせずやって行こう!
お読みいただき、ありがとうございました!
この番外編、別作品にできるぐらい書けると思うのですが
もしアオイがハッピーエンドになるなら
誰と結ばれるエンドなのか。
読者様の希望を聞きたいなーと思い、ひとまずこれで区切りました。
アオイのこんなハッピーエンドが見たいというのがありましたら、お知らせください~。
なお、明日から再開する続編(お昼公開)にも
アオイはちょいちょい登場しますので
引き続きよろしくお願いいたします!
そして以下お知らせです。よろしければご覧ください~
【新作公開】
>>現在、完結に向け走り抜けています<<
『婚約者のことが好きすぎて婚約破棄を宣告した』
https://ncode.syosetu.com/n6598ih/
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気づいたアンジー。
彼女は前世の記憶により、婚約者であり
大好きなルディから、婚約破棄される未来を知っていた。
愛するルディから婚約破棄されるなんて、耐えられない!
それならばいっそ、私から婚約破棄を宣告しよう。
そう決意し、実行した結果……!
断罪の場で自ら婚約破棄宣告シリーズ第二弾、今、開幕!
〇小さなハプニング有。
メインはアンジェリーナ(ニックネームはアンジー)と
ルディの心情。
〇ルディ、可愛い!の気持ちで
一気に読んでいただけると幸いです。
ぜひご覧くださいヾ(≧▽≦)ノ
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