5:信じてもらえない……?
私は自分がここではない世界から来たことを含め、洗いざらいすべてを話した。スマホを見せ、お財布の中にあった硬貨やお札を見せている。するとロレンソは……。
「……にわかには信じがたい話ですね。アオイ様はこことは違う世界から来た。その点については……そういうこともあるのかもしれない。一応は納得できます。見せていただいたスマホという機器。こんなもの初めて見ました」
ロレンソの手には私のスマホがある。
ネットはつながらないので、スマホに保存していた写真、動画を見せたところ……。
店員さんがその時、丁度料理を持ってきてくれた。そこでスマホから聞こえる人の声に、彼女はかなり驚くことになった。でもロレンソが「発明品の確認をしているのです。驚かせてすまないですね」と、思わず見惚れてしまう笑顔を店員さんに向けた。すると店員さんの顔はとろけるような笑顔になり「いえ、気にしていません。ごゆっくりどうぞ」と厨房の方へと戻っていく。
ロレンソの秀麗な笑顔はある意味、武器になる。
そんなことを思いつつ、マイクの音量を下げると、ロレンソはすぐに操作に慣れ、スマホに保存されている写真や動画を眺めていた。私は出てきた料理をいただくことにする。
これは多分、カツレツだ。粒マスタードをつけて食べると美味しい。さらに焼き立てのパンと一緒に食べると、とてもあう。
ロレンソはスマホの操作を続け、私は食事を楽しむことにした。しばらく時間が経ち……。ロレンソは、私が異世界からここに来たことについて、なんとか理解してくれた。
その一方で……。
「わたしがいるこの世界。ここが小説の世界というのは……。とても納得ができないのですが。小説というのは紙に書かれた文字でできている。その小説の中に入り込む……のですか?」
「そ、そうですよね。私もどうして平面の世界に立体の世界から入り込めるのか、その原理は分かりません」
やはりここは理解してもらうのは難しいか。
そう思いつつも、小説として読んだことがあるので、パトリシアがスリにあったことも知っていた。このお店でロレンソとパトリシアが初めて会い、どんな料理を注文したかも知っていると話すと……。
「でもそれは、あなたが客のフリをしてこの店で食事をしていたから知り得た――という可能性もありますよね?」
そう、ロレンソに言われてしまったが……。
ロレンソはそこで店員さんを呼び、アーモンドのケーキを食べられるか尋ねてくれた。店員さんは用意できると答え、食後にデザートとして、紅茶と一緒に出すと応じてくれる。
「ところで……。彼女のこと、これまで見かけたことはありますか?」
ロレンソが店員さんに尋ね、彼女はじっと私を見る。
目がぱっちりして、鼻も高く、緩くウェーブした茶色の髪もよく似合っていた。店員さんはゲームで言うところのモブなのだろうが。十分素敵に思える。
「この方は……初めてお目にかかりました。異国の方ですよね? こんなに美しい髪で、肌艶がいい方なら、一度見たら絶対に忘れないと思います。エキゾチックでとても素晴らしいですから」
!
中肉中背の凡庸なアラサー女なのに! 思いがけず褒められ、嬉しくなってしまう。一方のロレンソは「そうですか。……それでは食後にデザートで出していただけますか」と、あのスマイルを店員さんに向けた。店員さんは「承知いたしました!」と笑顔になり、厨房へと戻っていく。
「……完全に信じたわけではありませんが、他に小説として読んだから知っていることを、話してもらえませんか?」
そう聞かれた。
そこで料理を食べ始めたロレンソに、私は自分の知り得る情報を話すことになった。
つまりは遠くシーラにいるパトリシアとアズレークの様子についてだ。二人は昼食を貸別荘のテラスで食べ、シャンパンで乾杯したこと。シーラ名物のサラダを食べ、ガレシア王国の三大スープの一つとも言われている魚介スープを楽しみ、レモンタルトを味わったと小説で書かれていたと伝えると……。
「今言われた料理は、どれもシーラを訪れれば食べるような、有名なものばかりです。それをパトリシア様とアズレークが食べたと言われても……。ただ、二人が貸別荘に滞在している。それを知っているのは……。とはいえ、シーラは別荘も多いですからね。小説で読んだことの証明にはならないでしょうね」
パトリシアに接するロレンソは優しいので、同じような対応を期待してしまうが……なかなかに厳しい。いや、もし私がただの行き倒れだったなら。普通に親切にしてくれたのだろう。別の世界から来たとか、ここが小説の世界だと言っているから、この対応なのだとすぐ理解する。
しゅんとなりそうになるが、ここまで話してしまった。もはや中途半端にやめるわけにはいけない。
「今頃、パトリシア様とアズレーク様は、シービューパークに向かっていると思います。途中の遊歩道では子供の兄弟にパトリシア様はぶつかりそうになり、子供達が転びそうになるのを風の魔法で受け止めます。シービューパークでは、マステスという絵描きに出会い、二人は自分達の姿をデッサンしてもらうのですが……」
ロレンソは表情を変えず、パンを美しい手付きで口に運び、私を見ている。
お読みいただき、ありがとうございました!
明日も夜に公開します~
明日は新作も公開なので
本作と併せてお楽しみいただけると幸いです☆
●新作
7月17日12時半公開・当日完結
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引き続きよろしくお願い致します!



























































