2:異世界転移していました?
もう本当にぶったまげることになる。
まさか、まさか、まさか。
私は現代日本で営業アシスタントとして仕事をしているアラサー女で、悪役令嬢もののラノベや漫画が好きだった。でもまさか、その自分が読んでいた『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』というラノベの世界で目覚めるとは思わなかった。
どういう経緯でこのラノベの世界に迷い込むことになったのか。
それは全く分からない。
でも間違いない。美貌の医師ロレンソは、確かにそのラノベに存在していたのだから、私は現実世界ではない場所にいる!
つまり、異世界転移をいつの間にかしていたわけだ。
どうしてすぐに気がつけなかったのか。
でも……それは仕方ないと思う。なにせ服装は現代日本の時のまま。目覚めたのは病院のベッドでそれは多分、現代日本とそこまでの乖離を感じさせなかった。
さすがにロレンソを見た時は驚いたけど、カラコンだってあるし、髪をカラーリングしているのは、珍しいことではない。それにあの髪色も、ものすごく本人に似あっていて、違和感なんて覚えなかった。
でも悪役令嬢ものを読み過ぎたせいか、こうやって別世界で目覚めた時は、豪華な部屋と体や髪色の変化に驚くもので……。転生前まんまなんて。少しトホホとなってしまったが……。
トイレを借り、鏡で確認した時に気づいた。
それは……。
肌艶がよくなっていたのだ!
アラサーなのに。肌艶はティーンエイジャー。目の下のくまも消えている。
これだけはもう嬉しくなったが……。
問題は……これからどうするか、だ。
家族、仕事、友人のことなど、元いた世界のことは勿論気になる。でも重要なのは今そこにある危機だ。とはいっても特に危険な状況でもないが、非常に不安定な状況であることには違いない。
なぜならば。
人間が生存するために必要な衣食住の一切が確保できていない状態なのだから。とりあえず今、私は目覚めたベッドに腰かけている。そばにはジャケットと鞄が置かれていた。ロレンソが渡してくれたのだ。
鞄にはスマホ、お財布、化粧ポーチ、プレゼンの資料、ノートPCなどが入っている。スマホもノートPCも電源は入るが、ネットにはつながらない。そして充電が切れたら……おしまいだ。
さらに持っているお金は、この世界では通用しない。
ロレンソはラノベ同様、親切で、混乱する私に落ち着くように言い、ひとまずベッドで休むようすすめてくれた。診療所は間もなく開く時刻であり、準備もある。午前の診療が終わる迄は話を聞けないが、休憩時間になったら相談に乗ってくれると言われていた。
つまり、ロレンソが話を聞いてくれるまで、しばらくはこうやって考える時間ができたわけだ。
もっとパニックになるかと思ったが、意外にも落ち着いているのは、肌艶はティーンエイジャーだが、中身はアラサーだからだろう。さらに言えば、悪役令嬢もののラノベと漫画を大量に読んでいたので、ある日突然別世界という展開に慣れ(?)があるのかもしれない。
何より、森の中で突然目覚めたとかではないのだから。……って、そうでもないか。発見された時は、飲み屋とレストランの建物の間の細い路地に置かれた樽の影に倒れていたのだから。
そんな私を発見したのは、魔法薬騒動の張本人のノエくんだ。まだその姿は見ていないが。そのノエくんに発見され、彼はロレンソに報告し、私はロレンソに抱き上げられ、この診療所に運ばれた。
どう考えても頼りがいのあるロレンソの診療所で目覚めることができた。これはかなり大きいと思う。ホント、ノエくんに発見されず、その細い路地で、怪しいおじさんとかに発見されたら……。それこそ大変なことになっていた。
おかげで今、かなり落ち着いていろいろ考えることが出来ている。
この世界での身の振り方は、ロレンソに相談するしかない。彼は善性が強い人間として描かれていたから、きっと助けてくれるはずだ。彼の助けを得れば、この世界になんとか存在することはできる……と思う。
元いた世界みたいに、不法移民とか不法入国で厳しい取り締まりは多分なさそうだし、ロレンソにお願いすれば身分だって手に入れることができると思う。無論、貴族なんかは無理だろうが。
当面はそうやってこの世界での居場所を確保するわけだけど……。
ここで私は考えることになる。
元の世界に戻れるのだろうか?――と。
なんとなく、ではあるが、元の世界に戻るなら、早く戻った方がいい気がした。何しろこういう異世界転移では、時間の流れ方が違うというのはよくあること。浦島太郎のように、戻ったらおじいちゃんではシャレにならない。
でもそもそもここに転移した理由も状況も、どうやって転移したのかも分からないのだ。何か手がかりがないか鞄やスマホを探ったが、何もない。
そして、悟る。
元の世界に戻るのは……相当厳しいと。
そうなるとこの世界で生きていくしかない――。
そうなった後、しばらくは家族や友人を想い、泣きそうになっていた。不安にもなった。でも人間の感情は同じ感情を長時間維持することはできないようだ。あきらめ、現状を受け入れ、なんとするしかない――というところに、なんとか気持ちを持っていくことができた。
お読みいただき、ありがとうございました!
明日もお昼に公開しますので
お楽しみいただけると幸いです。
引き続きよろしくお願い致します!
【お知らせ】
7月17日(月)お昼12時半
新作を公開します!
中編ですので、当日完結します。
17日の夜から完結に向け走り抜けます。
https://ncode.syosetu.com/n6598ih/
Q:どんな作品?
『完結●断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』という作品の第二弾として描き下ろしました。続編ではありませんが、本作をお楽しみいただいた方は、絶対に楽しめると思います。
Q:タイトルは?
意味深なタイトルなので、ぜひ公開日をお楽しみにしてください!
Q:楽しめる作品ですか?
はい! ハッピーエンドで読後感もよく、全年齢版なので安心してお楽しみいただけます!
用意していた新作3作品の一つを満を持して公開します。
ご覧いただけると嬉しいです☆



























































