1:プロローグ
ゆっくり目が覚めた。
スマホのアラームはなっていない。
ということは、まだ起きる時間ではないのか。
ならば、もう一度寝よう。
そう思い、ブランケットを引き上げようとしたが。
あれ、なんだか薄っぺらい。
閉じかけた瞼をこじ開け、手がつかんだものを見ると、それは見慣れたピンクのチェック柄のブランケットではない。薄手の白い掛け布。
え、なんで?
よくよく見るとシーツはピンクではなく、白い。さらに枕カバーもピンクではなく白で、しかもペタンコに近い。それに……。
なんだか薬品を思わせる匂いがする。
本能的に異変を感じ、がばっと起き上がった。右側は白い壁だが、ベッドをぐるりと取り囲むように白いカーテンが引かれている。
これは……病院? というか病室?
え、私、いつの間にか事故にでもあったの?
そこで自分の様子を確認しようと、視線を体に向けると……。
あ、あれ?
白のフレア袖のブラウス、それにスモーキーブルーのパンツスーツのズボンをはいている。あ、でも着ていた七分丈のジャケットは着ていない。
それに包帯を巻かれているとかはないと思う。
顔や頭も確認したが、それは大丈夫だった。点滴を打たれているわけでもなく、そうなると……。立ち眩みで倒れた、とか?
だが過去に一度もそんな風に倒れたことなんてない。悪役令嬢もののラノベや漫画が好きで、夜更かしすることは多々あるが、まだアラサー。睡眠不足もまだ若さで乗り切れている……と、思う。
でもともかくこんなところで休んでいる場合ではないことは確かだ。今日は営業さんに付き添い、クライアントのところへ新商品の提案に行かなきゃならないのだし。
ベッドから起き上がり、周囲に引かれたカーテンを開ける。
私のいたベッドのようにカーテンを引かれているのは、他に一か所のみ。
奥に窓が見え、明るい陽射しが床に光を落としている。横を向くと、この病室の出入り口らしき扉も見えた。
あ、そう言えば鞄は?
スマホは? お財布は?
受付に行き、支払いとなるだろうけど、現金あるかな? いくらかかるんだろう? カード使えるのかな?
自分が身一つの状態に不安になる。
なんらかの理由で倒れ、この病院に運ばれたなら、何も持っていない私に今すぐ金を払え……とは言わない……と思いたい。
ひとまず看護師さんか誰かに話を聞こう。
そう思い、扉の取っ手に手を伸ばそうとしたら、扉が開いた。開いた扉の空間に現れたのは、サラサラの白藤色の髪、片眼鏡をかけた瞳は白金色。身長も高く、鼻も高い。白シャツに明るいグレーのベストにズボン、その上に羽織った白衣。
見るからに医者なのに、並々ならぬ、高貴なオーラを感じる。それになんというか、知っている、この美貌の男性を。恐らく外国人だと思うけど、でもすぐに誰なのか分からない。
「目が覚めましたか? 確認したところ、外傷はありませんでしたが、どこか具合が悪いところはありませんか?」
なんて澄んだ声をしているのだろう。
それに外国人医師に、いきなり声をかけられるなんて。
なんだか胸がドキドキしてしまう。
「あ、はい。具合は、大丈夫です。気づいたらこちらのベッドにいまして、どうしてここに運ばれたのか分からないのですが、ともかく助けてくださり、ありがとうございました。……仕事があるので、退院(?)をしたいのですが、私の荷物は……」
「荷物はこちらで預かっています。貴重品もあるでしょうから。それでお仕事ということですが……舞台俳優でもされているのですか?」
!?
そ、それはどういうことですか!?
私は……自分がどんな人間か自覚している。
中肉中背で、スタイルが取り立てて良いわけでもない。小顔とは言われるが、鼻はこの男性みたいに高いわけではない。目は二重だけど、この彼みたいな思わず見入るようなものではなく。
唯一のとり得は……髪、だろうか。直毛ロングの黒髪はデジタルパーマでさえ、数日で効果がなくなる。結わいてもシュシュなんて簡単に落ちてしまう。それぐらいサラサラした黒髪をおろしているから、職場では「姫」なんていうニックネームで呼ばれることもある。
というわけで舞台俳優ではなく、ただの営業アシスタントをしている会社員であると告げると。
「……なるほど。その仕事は男装であることを求められているのですか?」
「はい?」
奇怪なことを聞かれ、首を傾げると、この美貌の青年医師は遠慮がちに私のズボンを見ている。
「この街の界隈の女性でも、皆、スカートです。ズボンの女性は……舞台俳優をしているか、特別な職種、貴族の女性の護衛に就く女性騎士ぐらいです。でも見るからにあなたは騎士ではない。そうなると舞台俳優かと思ったのですが……」
今のこの言葉に、私の脳はいろいろと反応することになる。
「貴族」「女性騎士」って……。
え、どういう……。
そこで私は目の前の彼をガン見することになる。
ま、待って、こ、この美貌の青年医師って……。
いや、まさか……。
心臓がとんでもない速度で鼓動している。
この心臓を静めるには確認するしかない。
「し、失礼ですが」
声が裏返ってしまう。
「何でしょうか?」
「あなたの、お、お名前は?」
「名前? わたしはこの診療所で医師をしているロレンソと申します」
お読みいただき、ありがとうございました!
番外編(全6話)はちょっと趣向の変わった展開です。
明日もお昼に公開しますので
お楽しみいただけると幸いです。
引き続きよろしくお願い致します!
夏バテしないよう、こまめな水分補給ですね☆



























































