123:その時、アズレークは。
創設メンバーの居場所を掴み、自身の魔術師補佐官と各街の騎士を動かし、捜査を指揮した。私がベッドから動けなくなっている時に。
一方のイラーナ達は自分達を捕らえようとしている者がいることに気づき、逃走を図る。だが動いているのは「ワイズ」のメンバーがいる地元の警察組織ではなかった。
そこでイラーナは自身が逃げるために、残りの二人を犠牲にした。自分達が逃走のためにどこそこにいるという情報をあえて流し、自分だけ別の場所に逃げ、このギニオンの街まで逃げおおせたのだ。
そして昨日。
イラーナは偶然、私とアズレークを見かける。まさかこの地で出会うとはと驚き、相変わらず仲睦まじい私達を見て妬みの思いが強まる。現在の自身の身の上から照らしても、幸せそうな私とアズレークは鼻につく。
しかも私達を目撃した時、そばにマチルダがいた。だからマチルダにイラーナは近づく。そして私が「ドルレアンの魔女とベラスケスの聖女」の公演に一般客として出演することを知り、自身も出演したいとマチルダに申し出た。
この時はまだ、私と同じ劇に出演することを決め、何をするかは考えていなかった。だが「ドルレアンの魔女とベラスケスの聖女」の公演を観終えて、街一番の高級ホテルのそばを通りかかった時。
私とアズレークを見つけた。
高級ホテルのレストランで食事をしているところを目撃したのだ。まさかこのホテルに宿泊しているのか? 貴族だとは思ったが、まさかこのホテルに泊まれるほどの上流貴族なのかと驚く。
確認するため、まだ人が多いロビーに身を潜め、そして私達が最上階に宿泊していることを知った。
その瞬間、イラーナの負の感情は最大限になる。
自分は逃亡者。だがあの魔法を使える女は、ため息が出る程の美貌の青年を連れ、最上階に泊っている。最上階は王族が泊まるような部屋で普通では泊まることなどできない。
安宿に向かい歩きながら、イラーナは考える。私に対する嫌がらせを。そして「ドルレアンの魔女とベラスケスの聖女」で私が演じる役を考えた結果……。真剣を紛れ込ませることを思いついた。
一方のアズレークはイラーナの顔を分かっていたので、今朝の待ち合わせ場所にイリアナと名乗り、イラーナが現れた時、内心ではかなり驚いていた。
それはイラーナを見つけたことに対する驚きというより、逃亡者の身でありながら、こんなところで何をしているのか、という驚きだった。
アズレークはすぐに動くことも考えたが、イラーナが何をしようとしているのか。もしかするとまだ逮捕されていない仲間と連絡を取り合う可能性やこの会場で落ち合う可能性もあると考え、泳がせることにした。
私が練習に励んでいる最中、私の様子を気に掛けながら、アズレークはイラーナの動きも追った。その中で真剣を紛れ込ませる様子も見ていた。何をしようとしているのか想像もつき、あの真剣が振り下ろされ、舞台が混乱し、騒動になるまで、イラーナがここから動かないとも理解した。
そしてアズレークが、舞台に魔王として登場することになる。ドルレアンの魔女を演じた女優と共に舞台からはけた後は、イラーナを捕らえた。
既にコミュニティセンターのロビーには、三人の魔術師補佐官も待機している。舞台の公演が続く中、イラーナはグロリア達に引き渡され、連絡をとっていたシーラに残る仲間の名前をはくことになった。
レオナルド姿のアズレークは、グロリア達とイラーナを魔法でシーラへ移動させた。そしてアズレークの姿に戻ると、公演を終えた私と合流し、事の次第を、マチルダを含めた演劇サークル「白い羽」のメンバーに話した。勿論、話せない部分もあるので、話せる範囲だが。
その後はもう、大変だ。
コミュニティセンターにニュースペーパーの記者が押し掛け、既にイラーナは連行された後だったが、地元警察もやって来た。それらをかわし、ホテルへ戻った。すぐにルームサービスを頼み、食事をしながら、アズレークからさらに詳しい話を聞くことになる。
私が知らない間にそんな事態になっていたことには、もう驚くしかない。水面下でいろいろ動いたことについて、アズレークはこう話してくれた。
「パトリシアに余計な心配をかけたくなかった。でも結果として、パトリシアの初舞台はアドリブでこなすことになってしまい……。申し訳なかった」
「劇の件は気にしないでください。結果として『ワイズ』の創設メンバー全員が、これで捕らえることができたのですから。それにシーラの街にいる残党も、これで一網打尽でしょう。よかったと思っています」
ひとまずこの日はこれで休むことになった。そして目覚めてニュースペーパーを見ると、この騒動が記事になっており、さらにビックリすることになる。
加えてフロントにはマチルダからメッセージが届き、私とアズレークにぜひもう一度舞台に出演して欲しいと書かれていた。でもそんなことをすれば、絶対にニュースペーパーの記者が押し掛けるだろうし、アズレークについて詳しく調べたり、一緒にいる私が誰であるか気付く可能性もある。
今は私の身元も割れていない。だからマチルダには申し訳ないが、「旅行の最中であり、二人でゆっくり過ごしたい」と返事をし、出演は辞退させてもらった。
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