23:さらうように連れ出しておいて
翌日、スノーが部屋に飛び込んできて目が覚めた。
「オリビアさま、おはようございます! 今日は朝から森へ行くそうですよ」
「え、そうなの? てっきりいつも通り、午前中は座学かと思ったのに」
「えーと、なんでも森で、実際にゴーストをやっつける練習をされるそうですよ」
!?
いきなり、実戦!?
森にゴーストがいるの!?
退治できるのだろうか……。
「朝食はサンドイッチを用意してあるので、森で食べるそうです。ですので準備出来次第、森へ向かうそうですよ」
スノーは森へ行くのが嬉しいのだろう。
いつも以上にニコニコしている。
その顔を見ると、不安な気持ちより、楽しんでやろうという気持ちになっていた。
アズレークだって「ゴースト退治を求められても、私としては『おっと、次はそんなことを要求されたか』と、楽しんでいるよ」と言っていた。
確実にステップアップしている。
それにアズレークも一緒なのだから。大丈夫。
早速準備を始めた。
森に行くと言うことで、エバーグリーンのコタルディを着ることにする。
その上にはグリーンフォッグ色のロングケープを着て、十字架のペンダントを首からかける。髪は後ろで一本の三つ編みにしてまとめた。聖杯を腰のベルトに装備し、携帯用の聖書をポケットにしまい、手袋をつける。十字架の杖を手に持つと、スノーと一緒に部屋を出た。
スノーの案内でエントランスホールに向かうと。
そこには既にアズレークがいた。
いつもと変わらない黒シャツに黒の上衣、黒ズボン、黒の革のロングブーツ。
でも今日は厚手の黒いマントに、腰には剣を帯びている。
曇りのない黒曜石のような瞳で私を見ると、アズレークはまず朝の挨拶の言葉を口にする。私がそれに応じると、今度は「オリビア、乗馬は得意か?」と尋ねた。父の狩りにもつきあっていたので、乗馬は問題ないと告げると……。
「素晴らしい。ただ、乗馬に慣れているとはいえ、杖は邪魔になるだろう」
アズレークは十字架の杖を魔法でサイズを小さくし、それは私のポケットに収まった。
その後は厩舎へ向かい、馬具をセットし、森へ向け出発だ。
スノーは、アズレークと一緒に騎乗している。
この屋敷にきて、初めて敷地の外に出ることになる。
街中にある屋敷ではないと薄々感じていたが、屋敷の敷地を出ても、あたり一面に広がるのは草原だ。草原の中にのびる道を馬で進み、森へと向かう。
もうすぐ雪がちらつく季節だった。
枯れ葉が地面を覆い、木々は枝がむき出しで、見上げれば青空も見える。しばらく森の中を進むと、小川が流れる場所に辿り着いた。
そこで朝食をとることになる。
スノーが手早くサンドイッチやフルーツを渡してくれて、それを三人で食べた。こんな風に外で食事をするのは新鮮。
修道院には巨大な食堂があり、そこで朝昼晩と食事をすることがほとんどだったからだ。
本当はトリュフを採りに行ったあの日、休憩でサンドイッチを食べるはずだった。そこでふと、修道院の仲間たちは、どうしているのだろうかと気になってしまう。思わず食事の手を止めた私に、アズレークが声をかける。
「どうした? 口にあわなかったか?」
「いえ、そんな。スモークチキンにマスタードがよくあって、美味しいです」
慌てて私は、サンドイッチを口に運ぶ。
「……何か考え事か?」
こちらに向けられている黒い瞳が、心配そうに私を見つめている。
「サンドイッチを食べて、休憩するところだったのです」
「え……」
「アズレークさまと出会ったあの時。丁度休憩をとり、修道院のみんなとサンドイッチを食べようとしていました。だから思い出していたのです。みんな、元気かなって」
アズレークは視線を小川に向け、静かに告げた。
「大丈夫だ。皆、元気にしている。オリビアは事情があり修道院を離れたが、落ち着けば戻って来る可能性もあると、手紙で伝えてある」
「修道院へ、連絡してくださっていたのですか……」
驚きでアズレークを見ると、彼は静かに頷いた。
さらうように連れ出しておいて。
律儀に手紙を送っているなんて。
やはりアズレークは、悪い人には思えない。
だから思わず聞いてしまう。
「国王陛下と、何があったのですか……?」
善人であるアズレークを、廃太子計画へ向かわせているものは何なのか。それを知りたいと思った。
「……それは君が知る必要はないことだ」
「そうかもしれませんが、プラサナス城に乗り込んで、実際に廃太子計画を行うのは私です。どうして私がそんなことをするのか、納得するためにも、理由を教えていただくことはできないのですか?」
アズレークは首を振った。
「すまない。確かにオリビア、君が言う通りだ。実際にプラサナス城に乗り込むのは君だし、知りたい気持ちも理解できるが……。でも言えない」
視線を伏せるアズレークの黒い瞳は、長い睫毛に隠れ、そこに込められた想いは読み取れない。でも真摯なアズレークが言えないというのだから、よっぽどの事情なのだろう。
「言えないのなら、仕方ないですね。誰にだって胸の中に秘めておきたいことの一つや二つはあるでしょうから」
え……。
私を見るアズレークの瞳に、燃えるような熱い想いを感じ取り、ビックリしてしまう。一瞬、自分へ向けられた感情と勘違いしそうになるが、そんなわけがないだろうと打ち消す。
「アズレークさま、オリビアさま、お食事は終了でよろしいですか?」
スノーの言葉に、アズレークと私も我に返り、頷く。
チラリともう一度アズレークの目を見るが、さっき垣間見えた熱は、もうない。
「……オリビア、今日の分の魔力を送りたい。いいか?」
そう言ってこちらを見るアズレークは、完全にいつものアズレークだ。
「あ、はい」
私はパンくずをはらい、立ち上がった。
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