115:美食とコーラス
公式招待されていない自主公演だから、素人演者とあなどってはいけない。アズレークと共に時計広場で見たエキゾチックな民族音楽、遠く離れた東方の国のダンス、マジックショーなどどれもが素晴らしく、とてもクオリティが高いもの。
前世の記憶を持つ私にとっては懐かしい影絵は、ガレシア王国では珍しく、その上演会はものすごい盛り上がりだ。
「パトリシア、そろそろお昼にしようか」
気付けばあっという間に昼食の時間になっていた。
時計広場を離れ、細い路地に入ると、そこには沢山の飲食店が並んでいる。演劇祭の最中でどこもかしこも混雑しているが、細い路地に入ると、それも少しだけ緩和されていた。見つけたお店は丁度、早めの昼食をとった客が出てきたところ。運よくそのまま席に案内してもらうことができた。
可愛らしいお店だった。
テーブルに敷かれている赤に白いラインのチェックのクロスも。窓に飾られたドライフラワーも。出窓に飾られた木彫りの動物も。
気軽な家庭料理のお店と思っていたが、出された料理の美味しさに、アズレークと二人、驚いてしまう。
アミューズは、スプーンにのせられたチーズに蜂蜜がかかったもの。一口でいただけたのだが。クリームチーズの中には砕いたクルミがはいっており、蜂蜜の甘みとチーズの酸味、クルミの歯ごたえのハーモニーが抜群。チーズは自家製だという。
前菜はメロンに巻かれた生ハムに、お店オリジナルソースがかかった一品だが、素材の味が引き立っている。メロンはジューシーで、生ハムの塩気とも良く合う。
スープと魚料理は同時にでてきたが、これは魚を煮込んだスープと、その煮込まれた魚が食べやすいように、スープと魚料理として登場した感じだった。スープは魚の旨味がたっぷりしみ出していて、加えられているハーブやニンニクとの相性も最高。自家製パンをつけても美味しいので、パンもつい進んでしまう。魚もしっかり味が染み込んでおり、また骨を取り除いてくれていたので、本当に食べやすかった。
その後に出てきたオレンジのシャーベット、鴨肉の料理、デザートのオレンジのジュレがかかったムース、食後の紅茶と焼き菓子と、最後まで楽しく、美味しくいただくことができた。
完食し、支払いを終え、お店を出た時の満足感は半端ない。
アズレークも私も顔を見合わせ、思わず笑顔になってしまう。
旅先で思いがけず見つけた美味しいお店。
これは記憶にずっと残りそうだった。
「満腹になったし、少し散歩しながら、目についたイベントをのぞいてみようか。時計広場以外でも沢山公演は行われているから」
それには大賛成で、アズレークと手をつなぎ、細い路地を出て、大通りを歩く。
普通に路上パフォーマンスも行われており、それはギターの演奏、ジャグリング、マステスのような絵描きもいた。
気になるものがあればちょっと立ち止まり、パフォーマンスを楽しむ。そんなことを繰り返していたので、なかなか前に進まないが、丁度、広場に出た。
歩いている最中にも沢山のフライヤーを手渡されていたが、今渡されたフライヤーは、すぐ目の前に見える市民ホールで10分後にスタートする「コーラスナイト」というものの案内だった。15時から24時まで、様々な合唱団が歌声を披露するという。3時間に一回、一般客参加型のコーラスもあるとのこと。参加者は、登壇1時間前に現地に集合し、練習の上、舞台に立ち、皆と歌うというのだ。
「この演劇祭は見て楽しむ、聞いて楽しむ、参加して楽しむ――がコンセプトなんですよ。この『コーラスナイト』は、その参加して楽しむで一番有名ですが、演劇やダンスでもこの参加型を行っているところは沢山あるんですよ」
コーラスナイトのフライヤーを手渡してくれた女性が、そう教えてくれた。
コーラスやダンスの飛び入り参加はまだ分かる。練習もできるし、知っている曲であればなんとかなりそうだ。ダンスについては貴族であれば身に着けているだろうから、問題なく踊れるだろう。でも演劇は……?
「演劇で一般客が参加する場合は、絶対に動かないでいい草や木の役、死体の役、舞台を横切るだけの通行人の役とかを、割り当てられるそうですよ」
なるほど。つまりはエキストラだ。前世でエキストラのバイトをしていた友人がいたが、確かに突然呼び出され、その後、数時間、撮影に参加していた。つまりエキストラで、演劇の舞台に飛び入り参加するのね。なかなか斬新な試みをしていると思う。
「演劇もいいですが、コーラスも楽しいですよ。ぜひ、お聴きになって見てください。勿論、無料ですから!」
いろいろ説明してもらったのもあるし、ホールは目の前。アズレークにエスコートしもらい、コーラスナイトを聴くことにした。24時まで開催されるが、出入り自由なので、とりあえず一組目の曲を聴くことにしたが……。
一組目で登壇したのは、少年で構成される合唱団だ。
ホールの席は満席に近く、アズレークと私は、二階席でなんとか座ることができた。
二階席の前から2列目の端の席だったが、舞台がよく見え、悪くない。そして拍手と共にコーラスが始まったが……。
これはまさに癒しの美声。
声変わり前の少年のソプラノの声は、女性でさえ出せないような高音をカバーしている。澄んだ歌声に、観客はすっかり魅了されてしまう。だが持ち時間は20分足らずなので、あっという間に終わってしまった。
お読みいただきありがとうございます!
明日はお昼と夜公開ですー。
引き続き何卒よろしくお願いいたします。
少年コーラスと言えば。
リベラ『You were there』(日本語タイトル『あなたがいるから』)の歌声がすごい!
鳥肌癒し高音ボイス。
元気な時に聴くとただただ感動。
疲れている時に聴くと思わず感涙。
陰と陽、どっちの気分で聴いても、なにか心にグッときます。



























































