112:彼の意図
ルカのこの言葉にはビックリしてしまう。レオナルドが……アズレークが、王都に戻っていたなんて!
「そうですよ、レオナルド様! 休暇中はしっかり休んでいただいて、パトリシア様にデレていただかないと。パトリシア様、昨日はお一人でお寂しくありませんでしたか!?」
グロリアに尋ねられ、考えるが……。
寂しいと感じた時間は……。
あ、もしや……!
昨日、目覚めるとアズレークの姿がなかった。しかもベッドや私の体は綺麗にされ、逆鱗の反応を抑える魔法はかけられているのに、魔力を送られておらず、回復の魔法は使われていなかった。おかげで私はベッドから動くことができなかったが、美味しそうなサンドイッチがちゃんと用意されており、それを食べた私は満足して再び眠りについた。
その間、私は寝室で一人。でも寂しくはなく、かつ、部屋にこもった状態だから安全だったと思う。
アズレークは……もしかすると意図的にこの状況を作り出したのでは? 『ワイズ』の件で王宮に戻ると決め、不在の間、私が寂しくないようにした。きっと部屋には魔法もかけられており、安全は確保している。そこから私が出ないよう、回復の魔法を使わず、そして食料を用意し、快適な状態を作り出した……。
砂糖漬けのフルーツを買いに行ったなんて言って誤魔化さず、王宮に『ワイズ』の件で出向いたと言ってくれてよかったのに。
でも……。
きっと気を使ったのだろう。休暇中なのに、仕事に取り組んでいるのは私に申し訳ないと思って。
「いえ。一人でいる時間はありましたが、レオナルドの愛を感じることができ、寂しくはありませんでした」
グロリアに答えながら、そこまでの気遣いをしてくれたアズレークに、レオナルドに感謝の気持ちを込め、抱きつくと……。
三人の魔術師補佐官の前で、私がそんなことをするとは思っていなかったのだろう。レオナルドは……頬をうっすらと赤くし、紺碧の瞳を震わせた。そして……。
「……パトリシア」
甘い声で私の名を呼び、ぎゅっと抱きしめる。
これを見たグロリアは「よっしゃ!」と喜び、ルカは「レオナルド様の激レアの姿ですよ!」と興奮し、セシリオは「ここは見て見ぬフリをするのです!」と二人を注意していた。
そんな感じで『ワイズ』に関する報告も無事終わったので、五人で食事をすることになった。つまりはレオナルドが部下達を昼食に招待することになったのだ。
ということで外出することになった。レオナルドは「魔法の薬」を手に入れる時の変装……変身で姿を変え、アズレークとレオナルドの中間とも言える姿に変っている。
長身で、ブロンドベージュの長髪に青緑色の瞳、通った鼻筋。
姿勢もよくスラリとした細身で白の軍服姿だ。
アズレークは魔法を使って私達を連れ、メトルの街へやってきた。
メトルの街は観光というより芸術の街として知られ、多くの画家がこの地に滞在し、沢山の絵を残している。だからメトルに行ったことはないが、メトルの景観を知る人はとても多い。
素焼きのオレンジ色の屋根、レモン色やオレンジ色の壁を持つ建物が多いのは、メトルがレモンとオレンジの産地として有名だからだ。明るい街並みを眺めながら、バトラーから教えてもらった知る人ぞ知るというレストランへ向かった。
そのお店は海を眺望できる小高い丘の上に建っており、一見するとただの一軒家にしか見えない。しかも周囲をレモンの樹で囲まれ、季節の花々が咲き誇り、ガーデニング好きの老夫婦が住んでいるようにしか見えないのだが……。
ここには上流貴族が紹介制でしか訪れることができないレストランなのだという。
貸別荘のバトラーの名を告げると、すぐに席へ案内された。
屋根のついたテラス席からは絶景が広がっている。碧い海は陽射しを受けキラキラと輝き、オレンジ色の屋根の街も見えていた。
「さすが海辺の街ですね! 綺麗です!」
「感動だなぁ。レオナルド様、こんなところに長期滞在なんて、羨ましいです」
「貴族達がこぞって押し寄せる理由がよく分かりました」
グロリア、ルカ、セシリオの三人は瞳を輝かせ、絶景を眺めている。
夜のディナーでは繊細なコース料理が提供されるそうだが、昼間は豪快な料理が特徴。
ということで登場したのは、ボイルした魚、エビ、貝だ。
どれも眼前に広がる海で今朝、水揚げされたもの。
これを用意された7種類のソースにつけて食べるのだが……。
とても美味しい!
ソースは特産品のレモンを使ったものから、ニンニクやアンチョビを効かせたもの、キャビア入りのクリームソースなどもあり、おかわりは自由。
お気に入りのソースをおかわりしたり、ソースをアレンジしてみたり、みんな心ゆくまでシーフードを堪能した。
ちなみに数種類のハーブ入りのパン、レモンピール入りのパン、シンプルなロールパンなども用意されたが、どれも焼き立てでこちらもとてもおいしい。
満腹になったところで出されたのは、レモンのジェラート。添えられているアーモンド風味のエスプーマが口の中で淡雪のように溶けてしまうのだが、とても繊細な味わいだった。ジェラートは酸味が効いて、さっぱりしているので、食感は濃厚だが、ペロリと平らげることができた。
お読みいただきありがとうございます!
明日はお昼公開ですー。
引き続き何卒よろしくお願いいたします。



























































