110:デレるレオナルドをご所望
アズレークは、バトラーに先に自身と私の飲み物を応接室に運ぶように伝えていた。さらに機密情報を話すことになるから、三人の魔術師補佐官が帰るまでは、母屋に使用人は一切近づけないようにとお願いしている。これは三人に会うにあたり、王宮付きの魔術師にレオナルドに姿を変えるための処置だ。
アズレークの依頼はきっちり守られ、部屋を出ると、廊下でも階段でもメイドや従者とすれ違うことはない。いつもだと掃除をしていたり、洗濯物を運ぶ姿を見かけるが、今は皆無だ。
そのまま一階の応接室まで向かうと。アズレークは扉の前でレオナルドの姿に変った。久々に見るレオナルドは……。間違いない。やはり優雅。
目の覚めるようなアイスブルーの髪。そのサラサラとした前髪の下の眉毛と睫毛も髪色と同じ。瞳の色は紺碧で、きめの細かいシルクのような肌をしており、唇は淡いピンク色。
今日は純白の軍服姿もよく似合っており、輝いて見える。
その姿を見た私は思わず、想像してしまう。
レオナルドと夜を過ごしたらどんな感じなのかしら?と。
そんな不謹慎な想像をしている私に気付かないレオナルドは、そのまま扉をノックした。すぐに返事があり、扉を開ける。中ではグロリア、ルカ、セシリオの三人がソファから立ち上がった。三人ともロイヤルブルーの軍服姿だ。
「レオナルド様、休暇中なのにお邪魔してしまい、申し訳ありません!」
三人を代表し、口を開いたのはグロリアだ。
黒みがかったストレートの紅い髪は、シーラが暑いからだろう。後ろで一本に三つ編みにしてまとめている。炎のような赤い瞳には強い意志が感じられ、血色のいい白い肌、そして口元のほくろからは、相変わらず色香が漂っていた。
さらに白い軍服姿でもスタイルの良さが感じられたが、ロイヤルブルーの軍服では、よりメリハリが強調されている。まさに男性からしたら「押し倒したくなる体」なのではないか。
「『ワイズ』の件の報告かな?」
レオナルドが優しく澄んだ声でグロリアに尋ねる。
アズレークの耳に心地よいテノールの声も素敵だが。レオナルドのこの声もとてもいい。心が洗われ、癒される。
「はい。早速ご報告をさせていただいても?」
「うん。構わないよ。着席して、報告をはじめて」
レオナルドに言われ、皆、ソファに腰をおろしたが、私は中腰でレオナルドに確認してしまう。
「『ワイズ』の件……それは機密情報ですよね? 私は部屋に戻りましょうか?」
するとレオナルドは腕を伸ばし、私の体を抱き寄せ、ソファへと座らせた。その上でぎゅっと抱きしめるので、私は慌ててしまう。だがレオナルドは落ち着いた口調でこんな風に言う。
「『ワイズ』の件と言っても、ニュースペーパーに載るような進展しかないと思っている。だからパトリシアが同席しても問題ない……だろう?」
私を抱きしめたまま、レオナルドがグロリアに尋ねる。
「はいっ! レオナルド様、パトリシア様に同席いただいて問題ございません」
なぜかグロリアが頬を高揚させ、興奮気味に答える。
するとグロリアの隣に座るルカが「それはそうだよねー」とソプラノの元気のいい声をあげた。
ルカは相変わらず22歳とは思えない若々しさを感じる。少し癖毛のバターブロンドの髪。肌は張りがあり、頬と唇は綺麗な淡いローズ色。チョコレート色の大きな瞳が実に愛らしい。
「だって、本当は報告書をこのお屋敷に届けるのでも良かったのに、グロリアが直接話したいと言い出したのだから。その理由は、『王宮では限りなく優美なレオナルド様だけど、シーラでは絶対に違うハズです。なにせ新婚旅行中なのですから。二人でいるところを見たいのです。絶対に、レオナルド様はパトリシア様にデレます。そんな姿、妄想でしか見たことがありませんが、リアルで見られる貴重なチャンス! だから、会いに行きましょう。今すぐ、着替えてください、ルカ!』ってグロリアに言われたのですから」
「! ル、ルカ、それ、今、言う必要ないですから~!」
グロリアがルカのことをぽかぽか叩き、セシリオが「二人とも落ち着きなさい! レオナルド様とパトリシア様の前なのですよ」とたしなめる。
グロリアは……見た目と違い、ラブロマンスの読み物や演劇が大好きで、そして妄想力がたくましかった。多分、前世で言うところのオタク気質を持っている気がする。そして私とレオナルドでありとあらゆるパターンの物語を妄想しており、今回はデレるレオナルドをご所望らしい。……それは私も見たい気がするけれど。
そんなグロリアと天真爛漫なルカを宥めるセシリオは、まさに三人の中で長男ポジションに思えてしまう。
そのセシリオは、今日も頭頂部でまとめられた黒に近い緑の髪が実に美しい。これ程の艶髪の長髪の男性は、前世でもこの世界でも、彼以外で見たことがない。あ……アルベルトの三騎士の一人、ルイスも実に美しい髪をしているか。
ともかくセシリオは髪も美しいが、キリッとして整った顔をしていた。特に青藍色の瞳は大変秀麗だ。
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