108:素敵な執事
結局、昨日は。
アフタヌーンティーと夕食以外はベッドの上で過ごすことになった。でもその分、今日は一日、外出をしていた。
外出と言っても、シーラの街の中を散策したわけではない。隣街のカノンまで出向いたのだ。
カノンもまたシーラと同じで街の散策がメインになる場所だが、シーラに比べると規模が小さく、一日あれば街の中をくまなく見ることが出来る。その街はというと、街の半分が旧市街と言われ、古くからの寺院や城跡が見られ、歩いているだけで遺跡巡りができた。
残りの半分は観光に訪れる貴族を意識したカフェやレストランが並ぶ。さらに旧市街で栽培されている美しいハーブや花から作ったポプリ、石鹸、香油が有名とのこと。
アズレークと二人、馬車でゆっくり街を散策した。
ポプリは軽く、かさばらないのでお土産には最適。王都では見ないような珍しい香りのものもあり、紙袋がいっぱいになるぐらいポプリをお土産用に購入していた。
「パトリシア、せっかくだ。夕食もカノンですませてから帰ろうか」
その提案を快諾し、向かったレストランは……。崖の上に立つホテルに併設されたレストラン。そこの特別テラス席に座ると、ブル―アワーの美しい海と街が一望できた。
最高の眺望を二人きりで貸し切りで楽しめる特別テラス席であったが、オーダーは螺旋階段を下りたワンフロア下のテラス席にいる従業員へ、伝えに行く必要がある。アズレークと二人、しばらくメニューを眺めた後、注文する品を決めた。
「ではオーダーを通してくるから。パトリシアはこの美しい景色を楽しんでいるといい」
アズレークがそう言うと席を立った。
今日のアズレークは白シャツに黒のベストとズボン。その姿でかいがいしくされると、なんだか素敵な執事に思えてしまう。
一方の私は、日中はレモンイエローに白い水玉のドレスを着ていた。だがレストランで食事をするにあたり、アズレークが魔法でガラリと雰囲気を変えてくれたのだ。5段フリルのスカート部分は、黒のサテン生地と、ピンク色の細かいビジューを散りばめたチュールを交互に重ね、さらに立体的な薔薇の花がアクセントで散りばめられていた。
ひとまず素敵執事に見えるアズレークが階下に向かうと、私は席を立ち、少し離れたテーブルへと向かう。
このレストランは特殊なオーダーシステムになっているからだろう。私達が着席しているテーブルとは別に、ニュースペーパーや雑誌が置かれたテーブルがあり、時間潰しをできるようになっていた。
今朝は早くに貸別荘を出てしまったので、ニュースペーパーは見ていない。席に戻り、パラり、パラりとめくる。
「えっ」
思わずページをめくる手が止まる。最初はガレシア王国全体のニュースが掲載されていた。次にカノンのニュースが載っていたのだが、カノンは小さな街。だからすぐ隣のシーラのニュースも沢山掲載されており、その一つとして見つけたのが……。
『シーラの街を暗躍した謎の地下組織・ワイズ摘発へ~恐るべき反魔法使い組織の実態~』
記事によると『ワイズ』の犯行を密告する文が王都に届き、そこに書かれた内容は国王陛下が知るところになった。ガレシア王国では魔法を使える人材の登用をすすめており、魔法を使える人間への弾劾行為は一切認めるつもりはない。そこでシーラの隣の街のカノン、エズラ、メトルのそれぞれの街に滞在する王都から派遣された騎士が集められ、王都から派遣された三人の魔術師補佐官の指示の元、一斉摘発が行われたという。
三人の魔術師補佐官……それはもしや、グロリア、ルカ、セシリオのことだろうか? そんなことを思いながら、さらに記事を読むと。
『ワイズ』を設立したと言われる、エルヴィラ・ワトリング(27歳)、ブリサ・ズムワルト(25歳)とその構成メンバー68名が逮捕されている。ただ、残りの創設者の一名と構成メンバー数十名の捜索は現在も続いているという。
さらに今回、地元の警察ではなく、近隣の街に滞在する王都から派遣された騎士が動いた理由としては、地元警察の中にも『ワイズ』のメンバーがいるとされているためだ。今後はシーラの地元警察の内部調査も進められる――そう締めくくられていた。
「パトリシア」
後ろからアズレークに抱きしめられ、ドキドキしながら、ニュースペーパーから顔を上げる。
「アズレーク、これを見て。『ワイズ』が今日、もう、摘発されたそうよ。ビックリしたわ。王都から三人の魔術師補佐官がシーラに来ているって。それって間違いなく、グロリアさま、ルカさま、セシリオさまのことよね? だって、アズレークが『ワイズ』の件を宰相に伝えたのは昨晩よ。それで今日、シーラに来ているって……。相当強い魔力がないと無理よね」
「そうだろうな。シーラに戻ったら、三人が貸別荘に詰め掛けるかもしれない」
アズレークはそんなことを言って笑いながら席につく。
「まさかこんなに早く、国王陛下が人を動かすとは思わなかったわ」
「ああ。でもこれでマステスも安心して愛する女性を待つことが出来る」
席についたアズレークはグラスの水を口に運ぶ。
お読みいただきありがとうございます!
昨日はどうするか直前まで悩み、本文の内容踏まえ、後書きなしにしました。
ただ、そのことで本日の更新のご案内ができず、大変申し訳ありませんでした!
最近、一番星キラリのtwitterをはじめたので、そこで一応、告知を試みましたが、何せぼっち状態なので全く伝わらなかったと思います。すみませんでした(汗
続きは夜、公開します!
何卒よろしくお願いいたします。



























































