105:暗躍する者たち
マステスのこの話を聞いたアズレークの顔は曇る。それは……当然だ。アズレークであれば。その破格の魔力で多くの要望に応えることができる。その一方で、例えば私のような、まだまだ半人前であれば。知識も足りず、要求に答えることができないことも多々あるだろう。
それで頼まれごとを断り、恨まれてしまうなんて……。しかも身の危険を感じるとは、よっぽどだ。
「あの二人組は、反魔法使い組織『ワイズ』のメンバーなのです。『ワイズ』という名は、創立者のメンバーの頭文字だそうで。勿論、地下組織なので詳しいことは分かっていません。最初は3人でしたが、今は数百人いると噂されています。活動資金を得るため、あの二人組のように、活動見守り料という名目で金を巻き上げるのです。シーラは観光の街ですから。私のような絵描きを始め、路上や広場、公園で個人が商売していることも多いので……」
『ワイズ』は前世の世界でいうマフィアみたいであり、魔法使いを敵視する組織というわけね。そんなものが数百人単位で組織化されていることには、本当に驚いてしまう。まさか風光明媚なシーラの街でと思わずにはいられない。
「活動資金を得るため……という理由は分かるが、それ以外の目的もありそうに感じる。もしや魔法を使える人間がいないか、探っている……とか?」
アズレークの問いにマステスと私は驚いてしまう。
「……アズレーク様は……鋭いですね。よく気づきました。その通りなのですよ。あの二人組のように、あちこちに『ワイズ』のメンバーはいて、魔法を使える人間を見つけると、嫌がらせをしているようで……。それが観光客であれば、物を投げつけたり、強盗を装い金品を奪おうとしたり。シーラの街に暮らす者であれば、街から追い出そうとしたり……」
「なるほど。シーラで暮らす魔法を使える人間は気が休まらないな」
マステスはアズレークの指摘にこくこくと頷く。
「王宮にいる魔術師さま。彼は大変強い魔力を持ち、使える魔法も相当なものであることは、ガレシア王国に暮らす人間なら誰もが知っています。魔術師さま程ではなくても、ちょっと魔法が使える……という人間は探せばいるものなのです。私の周りにも数名いたのですが……。『ワイズ』が怖くて皆、街を出てしまいました」
「あの……」
私が遠慮がちに声をあげると、アズレークが優しく声をかける。
「何か気になることがあるか、パトリシア」
頷いた私は疑問を口にする。
「魔法を使える人間に嫌がらせをして、反撃を恐れないのでしょうか?」
私の問いを聞いたアズレークは、マステスを見る。マステスは頷き、口を開く。
「最初は私もそう思いました。でも魔法を使えると言っても、本当にたいした魔法じゃない者が多いのですよ。私は比較的そんな彼らに比べれば、移動の魔法を使えるので、『ワイズ』の奴らものらりくらりかわしていますが……」
そこでコーヒーを一口飲むと、マステスは懐かしい目つきになり、話を再開する。
「近所に住んでいた少女が使えた魔法は、虹を出すことでした。それも空に出るようなスケールの大きなものではなく。手の平の上に虹のアーチを出せたのです。そんな魔法では、『ワイズ』の人間に脅されても何もできない。少女の両親もそれは分かっていました。だから何か起きる前にと早々に街を出てしまいましたよ。少女の両親が作るパンは、とても美味しかった。家族三人と店がなくなってしまい、とても残念でした」
虹を作り出せるということは、光の魔法を使えることになる。アズレークのように魔法を指導してくれる人間がいれば、その魔力を生かす方法も模索できただろう。でもそれはかなわず、もし『ワイズ』の目にその少女が留まったら……。何かされたらお終いだ。だからこそ街を去ることになった……。
「それでは警察はどうなのですか? 活動見守り料という名目で金を巻き上げているのですよね?」
私の問いにマステスは悔しそうな顔をする。
「警察の人間すべてがダメというわけではないのです。でも『ワイズ』を構成するメンバーの中には、警察の人間も含まれているようで……。警察に訴え、逆に捕えられた者もいます。刑務所に収監されている人間もいるのですが……。運悪く、『ワイズ』のメンバーである警察に見つかれば、大変な目にあいます。無実の罪で牢獄に送られる可能性もあるでしょう。よって怖くて警察にも頼れません」
このマテイスの返事には唸るしかない。国の機関にまで入り込んでいるとなると、かなり厄介だ。一方のアズレークは落ち着いた声で告げる。
「事情はよく分かった。『ワイズ』という組織について、王都の人間は把握していない。……私から話を通しておこう」
「え、アズレーク様は王都のお偉方に知り合いがいるのですか!?」
驚くマステスを見て、笑いそうになってしまう。
もし目の前にいるのが王宮付きの魔術師レオナルドと知ったら、この人のよさそうなマステスは、どうなってしまうのか。腰を抜かし、驚いてしまいそうだった。
「知り合い……。そうだな。何人か知り合いがいるから話しておく」
これで『ワイズ』についての話は終わり、その後はマステスがどんな絵を描いているのか、スケッチブックを見せてもらい、解散となった。
お読みいただき、ありがとうございます~
続きは今晩公開します!
明日は月曜日ですので20時前後に公開するようにしますね。
断罪終了後シリーズの第四弾のご案内です。
興味がある方がいたらお読みいただけると嬉しいです。
『もふもふ悪役令嬢の断罪が
溺愛ルートなんて設定していません!』
https://ncode.syosetu.com/n1220ih/
攻略対象は全員、獣人族という乙女ゲームを企画した私。
あろうことか企画書段階のそのゲームの世界に、キャット(猫)族の悪役令嬢ミアとして、私は転生してしまう。
しかも覚醒したのは、まさかの断罪終了後。
でも、その断罪内容を考えたのは私です。
癒しをコンセプトにしたゲームだから、断罪内容も超かわいいから安心☆
例えば、ウルフ(狼)族の近衛騎士の団長から断罪される→マタタビを永年禁止。
フクロウ(梟)族の宰相の息子から断罪される→ねこじゃらしを永年禁止。
断頭台送りとか娼館送りとかナッシング!
あれ、でも、一つだけ。
パンチの効いた断罪内容があった気がするのです。
それは……「魔王へ嫁入り」。
え、まさか私の断罪内容って……。
世界で最も残忍・残虐・残酷で無慈悲な魔王と、結婚するしかないと気づいたのですが(ガタブル)。
全てが詰んだ後の断罪終了後シリーズ第四弾は、モフモフなキャット族の主人公と魔王のスローライフ。……のはずが、魔王との対面から事件勃発。ど、どうなるニャ~!?
癒しが欲しいなぁ~とクスッと笑いたいなぁ。
そんな気持ちから書いた作品でもあります。
よかったらご覧くださいませ☆



























































