102:番(つがい)の本能
窓から差し込む陽射しが、朝だ、起きろと告げているが。とても起きられるような状態ではない。
昨晩。
初めてアズレークと結ばれた時は。本当に夢のようだった。経験がないことを加味し、アズレークは最初から最後まで本当に優しくしてくれた。
でも……。
始祖のブラックドラゴンたるアズレークの本領発揮は、その後だ。そして私自身も。自分が聖獣であるドラゴンの子孫であることを実感することになる。
アズレークが私の逆鱗の反応を抑える魔法を解除した瞬間。とんでもない衝動に突き動かされることになる。
アズレークを求める気持ちが止まらなくなり、彼もまた私を強く求め……。
だが、私はドラゴンを先祖に持っているが、アズレークは先祖帰りした始祖のブラックドラゴンなのだ。いろいろと違いがあり過ぎる。それは……体力、持久力、そして番を求める度合いが、私より格段に上。
その結果。
もう私は……体が……動かない。例え今、メイドが部屋に入ってきたとしても。この恥ずかしい姿を隠すために、掛け布をかけることさえできそうもない。
「……パトリシア」
アズレークが起きたのだと気づく。
「パトリシア」
身動きできない私をアズレークが後ろから抱きしめる。抱きしめられるのは大変嬉しいが。それ以上があった場合、応えられるだろうか? 応えたい気持ちは勿論ある。だが残念なことに体力が……。
アズレークの唇が、私の肩にキスを落としている。
「アズレーク、ご、ごめんなさい、私、どうしてもあなたより体力がなくて……」
「分かっているよ、パトリシア。君は私より華奢だから」
良かった、アズレーク! 分かってくれている。
「ちゃんと、体を楽にするから」
「え?」
始祖のブラックドラゴンとして破格な魔力を持つアズレークは、瞬時に私の疲労を軽減する魔法を唱える。すると鉛のように重かったはずの体は何事もなかったかのように、回復していた。睡眠だって足りていなかったはずなのに。眠気は吹き飛んでいる。
気付けばアズレークが背中に唇を押し当てている。さらに呼吸を乱し過ぎて、失った私の魔力も回復してくれた。
アズレークは、「式を挙げたら覚悟することだ――と言っただろう、パトリシア」と言っていたが、その言葉の意味を噛みしめる。始祖のブラックドラゴンと同等とも言えるアズレークは本当に、魔力以外もすごいことになっていた。
そしてそのアズレークに求められると、番である私もたまらなく嬉しい気持ちになってしまう。
その後は……ブランチの時間になって、ようやくお互いに体をはなすことができた。
でもブランチを終えた後は……。
アフタヌーンティーの時間まで。
寝室から出ることはなかった。
このベッドから離れることができなかった時間。
それは実に不思議なもの。
体力も魔力もちゃんと回復してくれて、空腹も満たしてくれる。何より番なのだ、アズレークは、私の。だから求められると「もう無理ではないかしら? 応えたいけれど」のはずなのに。しっかり彼のことを抱きしめてしまう自分がいた。もうこれにはホント、自分でも驚いてしまう。
「さすがにこれで今日一日を終えるわけにはいかないか」とアズレークが起き上がろうとした時、「え」と小さく声を漏らしたのは私だ。そして上目遣いで彼を見て、求めてしまったのも……私だった。
番の本能は実に強い……!
◇
毎日のようにマルシェが出るサルバート広場には、300メートル程の歩行者専用の通りがある。その通りには沢山のカフェやレストランがあるので、バトラーおすすめのカフェでアフタヌーンティーをすることになった。
アズレークはいつも通りの黒ずくめ……になりそうだったが、せっかくリゾート地にいるのだからと私が頼み、シャツのみ白にしてもらった。白シャツに、黒のベストとズボン。ただそれだけで、なんとなく印象が変る。嬉しくなり、アズレークに抱きつくと……再び寝室に後戻りしそうになった。
さらに私の逆鱗の反応を抑えていないことにも、そこでようやく気づき、すぐにアズレークは魔法をかける。
こうしてなんとか部屋を出て、くだんのカフェに向かうことができた。
ちなみに今日の私の服装は。
パールホワイトの生地に色鮮やかな花がプリントされたドレスを着ている。ウエストの後ろで結わく黒のリボンが、リゾート感を醸し出していた。これにつばが広い帽子を被ると、まさに貴婦人という感じになる。
アズレークとはエスコートではなく、腕を組んで歩いていたのだが。エスコートされるより、腕を組んで歩けば、当然体が触れる面積が増える。するともう私達は新婚なので。ちょっと立ち止まったタイミングでキスをするのは……当たり前になってしまっている。
こんなことができるのも、ここが王都ではないからだ。義母や義父、スノーの前ではこんなことができない。つまり期間限定。そう思うと、今のうちにたっぷりスキンシップしてしまおうと思うのは……これまた番の本能なのだろうか?
ともかくカフェに到着し、アフタヌーンティーを楽しんだ後は、遊歩道に沿って、いくつもある小道でショップ巡りをした。朝の6時から始まっているマルシェは、13時頃には店終いをしてしまう。私達がこの広場に着いたのは、15時を過ぎていたから、もうマルシェは終了していた。でも小道にある雑貨屋、文房具屋、お土産屋、チーズやチョコレートの専門店は、まだまだ営業している。
それらを見て回った。
お土産によさそうな雑貨も、いくつか手に入れることができている。今回の旅に私とアズレークはトランクを一つ持参したが、その中は空に近い。そこには皆へのお土産を詰めて帰ることになる。
「パトリシア、このまま遺跡博物館に行こうか。ここは博物館といっても、博物館自体は小さな建物で、そこに展示されているのは、昔の土器やコインとパッとしない。でも博物館が所有する土地には円形闘技場、公衆浴場、民家、商店跡などを見ることが出来る」
「そうなのね。でも……もうすぐ17時よ。開いているかしら?」
「博物館の建物自体は18時で閉まるが、夏のこの時期、敷地内は夜間営業をして、21時まで開いている。ライトアップされた円形闘技場は見応えがありそうだ。とはいっても、日没はまだまだ先だから、幻想的な景色を楽しめるだろう」
想像するだけで美しそうだ。ここから徒歩で行けるということで、アズレークと手をつなぎ、向かうことにする。
アズレークが言っていた通り、博物館自体は閉館ギリギリで入場することになったが、それで問題なかった。展示物は15分もかからずに見終わってしまう。その後は、広々として、緑豊かな敷地内を見て回った。
円形闘技場、公衆浴場、民家、商店、そのどれもが跡地だ。円形闘技場はかろうじて外観が少し残っているが、それ以外は建物の基礎の部分が石積みのように残っているだけ。多分、ドローンで上空から撮影した写真を見られるといいのかもしれない。現状見ているだけでは、円形闘技場以外は、なんとなく人工的に加工された石が並べられているようにしか見えなかった。
ただ、ランタンによるライトアップはとても幻想的。
外観が少し残っているという円形闘技場は、古代のロマンを感じさせ、ここで剣闘士がどんな死闘を繰り広げられたのかと夢が広がる。
遅い時間からの外出だったが、ちゃんと観光もでき、満足して貸別荘に戻ることが出来た。
お疲れ様です!
そしてお読みいただき、ありがとうございます~
本日は1本更新で申し訳ないです。
明日はお昼と夜に公開しますね!
今日は金曜日。疲れも溜まっていますよね。
今宵はゆっくりお休みくださいませ~
【一気読み派の読者様へ】
>> 完結 <<
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断罪の場で王太子に自分から婚約破棄を宣言した悪役令嬢ナタリー。
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