21:彼の人間性
「!? 聖水を召喚するのですか?」
「聖水は、清められた水だ。さすがに魔法で聖水は作り出せない。だから聖水を用意するとなると、召喚する必要がある。だが召喚は、魔法の中でも高度な部類に入る。数日でとてもマスターできるものではない。だから代替として、塩水で聖杯を満たすことにする。塩水であれば、召喚せずとも、自然に存在する水と塩に魔力を作用させ、作り出すことができるから」
聖水の代わりに塩水……?
思わずキョトンとする私を見て、アズレークは笑顔となり……。
私の頭に触れ、髪にくしゅと指を絡めた。
その動作に、信じられないほど胸がキュンとする。
「君は修道院にいた。聖水を塩水で代用するなんて、驚きだろう。……でも、魔法を使えると、なんでもできると思われてしまう。ゴースト退治なんかも当然できるだろう、魔法を使えるなら。そんな風に思われてしまう。ゴースト退治は……もちろんできないわけではない。私が聖女について詳しくなったのも、ゴースト退治のためだ。十字架と聖書を使い、確かにゴーストを撤退せることができる」
私の頭から手をはなすと、アズレークは大理石のテーブルに寄りかかった。
「撤退。そう、できるのは撤退だ。その場から退かせることはできるが、完全に消滅させるには、本物の聖女の力や聖水が必要だ。ただ、ゴーストというのは、なぜか塩に弱い。それはこの国だけではない。異国でも魔除けに塩を使っている。そして聖水の代用で塩水を使うと、消滅に近い状態までゴーストを追い込むことができる。……聖職者からすると、それは邪道だと思われてしまうかもしれないが」
「そう、なのですね……。それは知りませんでした。というか、魔法を使えると、そんなことまで求められるなんて……。大変ですね」
ため息をもらす私に、アズレークは穏やかに微笑む。
「魔力がある。魔法が使える。それはある意味、世界が与えてくれたギフトだ。他の人ではできないことを、自分ができる。ならばその力を使い、人々の願いに応えたいと、私は思う。だからゴースト退治を求められても、私としては『おっと、次はそんなことを要求されたか』と、楽しんでいる」
本人は何気なく口にした言葉だ。
何気なく口にできる。
それはつまり、アズレークの人間性がそのまま出ているということだ。
そして今の言葉で分かったことが、いくつもある。
アズレークは、とても前向きだ。
それに助けを求められれば、それに応えたいと思うその優しさ……。
まるで、主の教えに通じているように思えてしまう。どう考えても清らかな心の持ち主で、そこには善性しか感じられない。
刺客となり、王命に背き、国王を絶望させるために、廃太子計画を企てるなんて……。
アズレークの二面性に、どちらが本当の姿なのか、分からなくなってしまう。
「ということで、納得してもらえたかどうかは分からないが、聖杯を聖水……ではなく、塩水で満たそうと思う。さすがに呪文を詠唱する時に、あからさまに塩水とは言えない。だから呪文はそれっぽいものにしないといけない。思いつくだろうか、オリビア」
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次回は本日12時に「ミステリアス男子として間違いなく人気に」を公開します。



























































