95:遂に。
「魔法の薬」事件が決着してから3週後。
アズレーク……レオナルドと二人、宮殿内にある役場のような場所に来ていた。
ここは貴族専用の各種届けなどを提出する場所で、爵位の管理、家系図の管理、財産の申告などを行う。家系図の管理に伴い、婚姻・出産・死亡などの届けもここで行うことになっている。
そして今、レオナルドと私は。
レオナルドは白の軍服姿。
私は碧い薔薇がプリントされた白いドレス姿。
二人とも白い衣装をまとい、婚姻の届け出を提出していた。
窓口として対応してくれているのは、偶然なのか、本人がこっそり担当者に変ってもらったのか。本来、窓口業務に立つ必要はない役職に就いている義父のエリヒオだ。
「確かに、こちらの婚姻届けを受領します。レオナルド・フリューベック・マルティネス、パトリシア・デ・ラ・ベラスケス、結婚おめでとう」
この言葉に、周囲にいた役人達から拍手が起きた。
◇
アズレークは「まずは身内で式を挙げよう」と言っていたのだが。
それは……調整しているうちに難しいと分かった。
マルティネス家ではアズレークの両親、すなわち義父のエリヒオ、義母のロレナ、そしてスノーの三人だけが参加するということで早い段階でまとまっていた。
でもベラスケス家は……。
一度爵位剥奪があり、一族郎党が国外へ散る形となった。それがようやく王都へ再結集した。その結果、一族の結束は……とんでもなく強いものになる。つまり……身内の範囲に「自分達も含まれるだろう?」という声が方々で上がってしまい……。収集がつかない。
カロリーナの捜索ではもちろん、ベラスケス家の一族が協力してくれている。その時の恩もある。「身内というのは家族のみで……」などとはとても言えない。
「こうなったら婚姻届けを出すのみにしよう。式はきちんと準備を整え、国王陛下夫妻出席の元、ベラスケス家の一族をもれなく招待して行うということにして」
アズレークのその案でいくしかなかった。式には国王陛下夫妻は勿論、王太子であるアルベルトも出席することになる。もしかすると彼ら以外の王族だって列席する可能性がある。そんな王族がこぞって出席するような結婚式なんてなかなかない。今回は婚姻届けのみ提出するので、お祝いはその結婚式の時で、と話すことで、ベラスケス家の一族は納得してくれた。
「スノーもお留守番ですか?」
婚姻届けを提出しに行くと決まった時。
スノーにこう尋ねられ、せめてスノーぐらいとも思ったが。
スノーは現在、マルティネス家の養女という扱いになっている。つまりはアズレークの妹という立場。スノーだけ婚姻届けの提出の場に立ち会ったとなると……。
私の家族は何も言わないだろう。だがスノーのことをあまり知らないベラスケス家の一族の中には「なぜ新郎の妹だけ立ち会ったのか」と疑問視する可能性もある。
「スノー、今回、パトリシアと私は婚姻届けを出した後、そのまま南方の地に向かうことにした。だからすまない。留守番を頼む」
婚姻届けの提出と同時に、アズレークは国王陛下から許可されている一カ月の休暇を行使することにしていた。そのまま屋敷で過ごすことも考えたが……。
「……正直。一度パトリシアを抱いてしまったら、その後、自分の理性を保てる自信がない。屋敷ではなく、どこか別の場所に滞在しよう」
そう、アズレークが提案したのだ。そこで6つの街で構成される、初夏に訪れるにはピッタリの南ガレシア地方へ向かうことを決めたのだ。丁度この時期、街をあげての演劇祭を行うことで知られているギニオン、南ガレシア観光で多くの貴族が訪れるシーラ、この2つの街に、それぞれ2週間ずつ滞在することにしていた。
残念がるスノーを置いて婚姻届けを出しに行くのも、屋敷をあけることも、申し訳なく思ったが……。思いがけない救世主が現れてくれた。それはノエだ。
ノエはスノーとも年齢が近かった。スノーはこの春15歳になり、ノエは17歳。
ロレンソは、ノエに診療所の手伝いは午前中のみさせ、午後の診療時間は自由時間とした。そして診療所が終わった後は「魔法の薬」を作ったり、聖獣の力のコントロールを学ぶ時間と決めたのだ。
自由時間を設けたのは、ノエの自主性を重んじてのこと。どう過ごすか考えることで、ノエが人として成長することを期待したわけだ。ノエは最初、ロレンソと街の人がすすめる慈善活動に参加するつもりだった。だがアズレークと私が屋敷をあけ、スノーが寂しく過ごすことになると聞き、自分が話し相手になると申し出てくれたのだ。
そこでスノーの家庭教師には午前中に来てもらい、午後はノエと過ごすことが決まった。
何をして過ごすつもりなのかノエに聞いてみると、油絵を描いたり、チェスをしたり、近くの広場を散歩するつもりだという。これにはスノーは大喜びで、南ガレシアへの同行はあっさりあきらめてくれた。婚姻届けの提出の時だけ散々渋られたが……。
丁度、婚姻届けの提出に向かう時間、マルクスは非番に当たる。マルクスに会うためにスノーは宮殿へ向かうということにして、婚姻届けの提出には、同行させることにした。
そして今。
スノーはマルクスと共に、エリヒオや役人達に負けじと、婚姻届け提出完了を祝う拍手をしてくれていた。
「ありがとうございます」
アズレークと二人、深々と頭を下げる。
婚姻届けを提出した。
もうアズレークと私は夫婦……なんだ。
実感があるような、ないような。
会える時間は限られていたが、同じ屋敷で暮らしている。
気持ち的には婚約者というより、夫婦に近かったような気もした。
だから婚姻届けを出したことで、気持ち的に何か変わるかというと……。
ないかもしれない。
アズレークのことは既に大好きなのだから。
そう考えると、結婚式というセレモニーを経験すると、夫婦になったのだ!と、強く実感できるのかしら?
そんなことを思いながら、部屋を出る。
その後ろをスノーとマルクスが追う。
スノーはこの後、マルクスが屋敷まで送ってくれる。
つまり、スノーとはここで1カ月。お別れとなる。
「アズレークさま、パトリシアさま。寂しいですけど、ちゃんといい子にしてお留守番していますね」
「頼んだからね、スノー。沢山、美味しい物をお土産で買って帰るから」
レオナルドの言葉にスノーの顔が笑顔に変わる。
「ノエと仲良く、お勉強も頑張ってね」
「はぁ~い、パトリシアさま」
スノーが元気よく手をあげ、レオナルドはその頭を撫で、マルクスを見る。
「ではマルクス、スノーのこと、屋敷まで」
「大丈夫だ、魔術師さま。心配なさんな」
マルクスはそう言うと、スノーを肩車する。
「スノー、特別に騎士の訓練所を見せてやる。それを見たら、屋敷に帰ろう!」
「わーい!」
こうしてマルクスとスノーは中庭に向かい、レオナルドと私はエントランスへ向かった。
おはようございます~
お読みいただきありがとうございました!
お待ちいただくことになり、本当に申し訳ありませんでした。
ご協力のおかげで、この週末、トータル30時間かけ続編執筆行うことができました!
お時間いただき、読者様に感謝です。ありがとうございます。
まだ誤字脱字チェックや構成確認など必要なため、今週は1~2本公開でお許しくださいませ。
ひとまずお昼にもう1話公開しますね!
続編を書きつつ、脳の息抜きで、以下作品を公開しました!
既に執筆済みの作品を投稿しているので
よろしければ本作更新が1本の日は以下作品をお楽しみいただけると幸いです☆
【 新作スタート 】
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』
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乙女ゲーの悪役令嬢に転生してしまった私は。
ゲームの抑止力に打ち勝てない!
ならばと最後の禁じ手を行使する。
つまり、断罪の場で王太子に自分から婚約破棄を宣言したところ……。
昨日、投稿開始したばかりですが
日間恋愛異世界転ランキングでいきなり64位にランクイン!
読者様に感謝でございます。ありがとうございます。
それでは引き続きよろしくお願いいたします。



























































