91:ダンディでハンサム
最初は、魔法で変身したグロリアとセシリオが恋人同士を装い、ゴメル地区を訪れ、『魔法の薬』を手に入れようとした。でもダメだった。恋人らしい会話はしたが、スキンシップはゼロ。しかもゴメル地区にはそれぞれ別々の場所から、馬に乗って集合していた。これでは薬欲しさに恋人のフリをしているとバレバレだった。
そこで今度はグロリアとルカで挑んだが、ルカの美少年ぶりのせいで、ごろつきに絡まれるわ、スリにあいそうになるわ、で薬どころではない。
仕方なく、レオナルドが変身し、グロリアと恋人同士を演じることになった。もう失敗するつもりはなかったので。ホテルに部屋を取り、わざわざそこで落ちあい、それからグミレ通り、ジョルジオ広場、エオナ通りに向かうことにした。腕を組み、適度なスキンシップをとり、恋人らしく見えるようにしていたのだが。
それでも『魔法の薬』の売り手は用心深かったようで、なかなか声がかからない。でも今日。まさに私が「アズレーク!」と名前を呼んだ瞬間。二人の背後にフード付きのマントの男性が現れていた。そう、『魔法の薬』の売り手だ。
タイミングとしては最悪だった。
私の声にグロリアもアズレークも反応し、振り返ってしまった。グロリアとアズレークを離れた場所で見守っていたセシリオは、私を止めようとして駆け付けたが、それは一歩遅く。
『魔法の薬』の売り手はすぐにその場から消え、作戦は中止。
眠りの魔法をかけられた私は倒れそうになり、セシリオが支えてくれた。
だが事情を知らないロレンソとセシリオは、一発触発となり……。
現場はちょっとした騒動になっていた。
落ち着いて話す必要があったので、アズレークとロレンソは、グロリアとアズレークが部屋を押さえていたホテルに移動し、そこのロビーのカフェで話すことになった。一方の私はセシリオによって部屋へ運ばれ、ひとまずベッドで寝かされることになる。
その間、グロリアとルカはフード付きのマントの男の姿を探したが、見つからない。そしてアズレークとロレンソは話を終え、誤解も解け、むしろ『魔法の薬』の件で情報交換を行い、私が起こされることになったわけだ。
「つまり私がすべてを台無しにしたわけですよね? もしあの時、名前を呼ばなければ、レオナルドとグロリアは『魔法の薬』の売り手と接触できた。薬も手に入り、売り手が何者か、情報を掴むことも……できたというわけですよね……」
とんでもないことをしたとベッドから起き上がると、レオナルドは「そうだね」と残念そうな顔をする。本当に申し訳ない気持ちになったのだが。なぜかレオナルドは私を嬉しそうに抱き寄せる。
「グロリアの顔も、変身した私の姿もバレてしまった。次はもう失敗できない。でもまだ大丈夫だ。僕には演技をする必要のない、そして喉から手が出る程、愛し合いたい相手がいるのだから」
気づくと、レオナルドはアズレークの姿に変っている。
「パトリシア、協力してくれるか?」
「え、まさか」
そう思った次の瞬間には、アズレークの唇が重なり、私の体はベッドに沈んでいる。多分、三人の補佐官もロレンソも、ロビーで待っていると思うのだが。アズレークは……ここ数日の不在を埋めるかのように、レオナルド以上の熱い抱擁とキスを繰り返した。しかもその熱愛ぶりは『魔法の薬』が現在進行形で作用しているのでは!?と思う程の激しさで……。
浮気。
アズレークとレオナルドに対し、この心配をする必要はないと、身をもって知ることになった。
◇
「ア、アズレーク、待って。そんな、みんないるのでしょう!?」
「みんな? みんなとは誰のことだ、パトリシア。ここにいるのは皆、知らない人間ばかりだ」
「そんな」と抗議をしようとしたが、声を発する前に、アズレークの唇により、私の口は塞がれてしまう。
ゴメル地区のジョルジオ広場。
この辺りでは最大を誇るスケールの広場で、中央にはこの地区の開発に尽力したと言われる領主ゴメルの彫像が飾られている。立派な台座の上に、青銅製の馬とそれにまたがる領主ゴメルの像。でもその像は残念なことに、鳩のふんにまみれ、あちこちが痛み、汚れている。
広場で目立つ物はこの像ぐらいで、後は広場を囲む街路樹と街灯、無駄に多いベンチぐらいしかない。おかげで娼婦と客の待ち合わせ、そして『魔法の薬』の売買の場に利用されてしまっていた。
そしてこの広場のベンチに私とアズレークは座り、熱烈なキスを交わしている最中だった。
アズレークは。
いつもの黒騎士姿ではない。衣装も黒に近いグレーで、マントは明るいグレーだ。髪には銀髪が混ざり、その姿は実年齢のプラス20歳という感じになっている。だがアズレークの体は鍛えられていたし、長身でスリム。その上でいぶし銀の魅力が加わり……。
まさにダンディでハンサム。普通に素敵に思えてしまう。
一方の私は。
久々に自分が悪役令嬢だったことを思い出すような、スカーレット色の胸元も背中も大きく開いたドレスを着ている。胸元やスカート部分は黒と白のフリルで飾られているのだが。とにかく体にフィットしており、体のラインが浮き彫りになり、着ている私は恥ずかしくて仕方ない。
しかも……。
おはようございます。
お読みいただきありがとうございます!
次回はお昼に公開します。



























































