19:何とも言えない寂寥感
「あの、アズレークさま」
紅茶の入ったカップをソーサーに戻すと「何だろう?」とアズレークがこちらを見る。曇りのない黒い瞳は、本当に美しい。
「プラサナス城で廃太子計画を無事遂行したら、その後、私とスノーはどうなるのでしょうか? 安全を保障いただけるということでしたが……」
「それは君たちの希望に従う。修道院に戻りたければ、連れて行く。国外に出たいというのであれば、それも手配しよう。当面に必要な資金なども提供する」
つまり、廃太子計画が成功すれば「自由」ということなのか。
でも、「この屋敷に戻りたいなら、戻ってきていい」という言葉はでなかった。
いや、そもそもこの屋敷も本来の持ち主がいて、2年間だけ借り受けたと言っていた。アズレーク自身、廃太子計画が成功したら、この屋敷を出る可能性が高いのだろう。
冷静にそう考えることができているのに。
何とも言えない寂寥感に襲われる。
落ち着いて、私。
そもそもアズレークは私に向けられた刺客なのだから。
そこで私はあることに気づく。
もし、もしも、廃太子計画を失敗したら、どうなるのだろう……?
「あの、成功すれば自由になれるということ、よく理解できました。でも、もし失敗したら……」
私の問いにアズレークはいつかの射抜くような視線を私に向ける。
「失敗はない」
「え……」
「失敗すれば、君も私もお終いだ」
「それは」
「オリビア」
一瞬誰のことかと思ったが、私の聖女としての新しい名であることを思い出す。
「助けられるなら、もちろん助けたい。私が犠牲になる分には構わない。でも助けられない」
その言葉を口にするアズレークの顔は……苦悩に満ちている。嘘を言っているわけではない。助けられるなら、助けたいと思ってくれている。でも、助けることは本当にできないのだ。そしてそれは私を助けられないだけではなく、自分自身も助けることが出来ない……。
「オリビアに知っておいて欲しいことがある。刺客として生きる時、失敗は考えない。失敗する、それすなわち死だからだ」
悲壮な言葉と顔に、息を飲む。
その姿と言葉の重みに、自分がこれからやろうとしていることの大きさを改めて実感する。
どこかで浮ついた気持ちが出ていたことは……否めない。
失敗は死。ならば成功するしかない。
「分かりました。アズレークさまの示唆する重みをよく理解しました。これからは成功することしか考えません」
「君が成功できるよう、残された日々を使い、きちんと指導する。大丈夫。絶対に成功する」
「はい」
真摯な表情で私をみるアズレークを見ていると……。自分が死にたくないという思いに加え、彼を死なせたくないと思えてしまう。そのためにも、廃太子計画を成功させる。
心に誓い、朝食を終えた。
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