67:彼女達の正体
執務机から私達の方へ優雅に歩み寄ったレオナルドは私に微笑むと。
「パトリシア、彼女はグロリア・デル・ミストラル。ミストラル家は、ホーエンツ公国で有名な魔術師の一族なんだよ。彼女は成人し、家を出てから、このガレシア王国で女性貴族の護衛騎士として働いていた。今回、強い魔力の持ち主を公募したところ、名乗りを上げてくれてね。僕の補佐についてくれることになった。つまり魔術師補佐官だ」
……! この美女が魔術師補佐官!
ホーエンツ公国は小国だが、確かに魔力が強い一族が多いことで知られている。ゆえに国土はガレシア王国の王都より少し広いぐらいにしか過ぎないが、大国に滅ぼされることも、属国になることもない。
それにしても。
護衛騎士として働いていたということは。
この美女は、魔力が強い上に武術にも長けているということだ。すごい。まさに天は二物を与えたといえる。二物どころではない。美女で魔力と腕力もあるなんて。
「パトリシア様。初めてお目にかかります。グロリア・デル・ミストラルです。この度、偉大なる魔術師レオナルド様を補佐できる栄誉に預かることになりました。全身全霊でレオナルド様にお仕えしたいと思っています。以後、お見知りおきを」
すっと自身の右手を豊かな左胸に添え、会釈する姿は……。
女性なのにカッコいい。カッコいいけれどとてもセクシーでもある。
なんだかもう、圧倒されてしまう。
「初めまして、グロリア様。私はパトリシア・デ・ラ・ベラスケス、ベラスケス公爵の長女で、レオナルドの婚約者です。……激務のレオナルドを支えていただけるということで、とても心強く思います。どうか彼のことをよろしくお願いいたします」
なんとかレオナルドの婚約者に恥じぬよう、挨拶をしたが……。
同じ白い衣装を着ている。
グロリアは軍服。私はフリルのついたドレス。
彼女は強く美しい女性。私はただのか弱い公爵令嬢。
比べる必要などないのに。
なぜかグロリアと自分を比較し、自身が飾りもののような存在に思えてしまう。
「これからパトリシアと昼食だが、グロリア、君も同席するかい?」
「いえ、レオナルド様。私は結構です。婚約者様との貴重なお時間を邪魔するつもりはありません。それに私は目を通したい魔術書もありますので。これで失礼させていただきます」
グロリアは、レオナルド、私と順にお辞儀をすると、執務室から出て行った。
まさに仕事ができる女、という感じでまたも圧倒されてしまう。
レオナルドの激務軽減のために補佐をつけると聞いていたが。こんな美女が補佐につくなんて聞いていない。なんだか……ドキドキしてしまう。
「パトリシア」
レオナルドに腰を抱き寄せられているが。
そちらにドキドキするより、グロリアの方が気になってしまう。あんな美女が補佐についたら、男性は皆、落ち着かないのではないか。だってちょっと動くだけで、胸が弾んでいるのだ。つい目が胸を追いかけてしまうのでは? 女性貴族の護衛。それこそが天職だろう。魔術師補佐官なんて彼女には――。
「パトリシア」
ハッとして顔をあげると、長い睫毛に縁どられた黒曜石のような瞳と目が合った。
「アズレーク……」
「どうしたんだ、パトリシア。私に会いに来てくれたのだろう? それなのに心ここに在らずに思えるが」
「……ごめんなさい。何でもないの」
美女の補佐官に嫉妬していた……なんて、絶対に言えない。
誤魔化すようにアズレークに抱きつく。
「何か心配事があるなら、遠慮せず言って欲しい」
「ええ、そうよね。……心配……そう。私、剣を扱えるようになりたいわ」
驚いたアズレークが体を離し、信じられないという表情で私の顔をのぞきこむ。
「なぜ、突然、剣術を覚えたいと思うのだ?」
「それは……ロレンソ先生の女性の召使いが、アズレークと渡り合えるぐらい剣の扱いが素晴らしかったから……」
勿論あの時。
アズレークを私が守ると思ったが。
拾い上げた剣の扱い方は、全く分からなかった。だからちゃんと剣を扱えるようになりたいと思ったが。それよりも……。さっきグロリアが護衛騎士をしていたと知ってしまったから……。
「パトリシア。ロレンソの召使いのことは気にする必要はない。彼女達は普通ではない。あれはロレンソの魔法で変身していたが、本来の姿はシロクマだ。戦闘力があるのも当然だ」
「え、ク、クマだったのですね……!」
驚く私にアズレークは頷く。
「恐らくあの屋敷にいる召使いは、すべて魔法で変身させた動物達だろう。彼は兄弟と折り合いが悪いと言っていた。あの屋敷は与えられているのだろうが、部下や召使いはいないのだろう。……ロレンソは。あの国にいるより、このガレシア王国にいる方が幸せなのだと思う。そして……どうしてもパトリシアを求めてしまったのも。その孤独故であったのだろうな」
皇族の一人であり、第二皇子という立場なのに……。
「それで剣術の件だが、そう簡単に身につくものではない。剣術を覚えるぐらいなら、魔法を覚えた方が早い。……確かにあの時、パトリシアは魔力切れになった。だがそんなこと、そうそう起きることではない。そうならないよう、私が魔力を与えるのだから」
そう言った瞬間。
アズレークの手が私の顎を持ち上げていた。
驚いて私が反応する前に、既に魔力が送りこまれている。
喉の奥に熱い塊がどんどん流れ込んできた。
急激に全身の血の巡りがよくなり、心臓がドクドクと大きな音を立てている。
不意打ちだったので。
力が抜けそうになったが、アズレークの力強い腕がぐいっと私の腰を抱き寄せていた。
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【お知らせ】
本作の姉妹作となる全て詰んだ後の断罪終了後シリーズ第二弾を今朝からこっそり(?)更新始めました。初となる試みにも挑戦した短期集中連載でして、もしわずかでも興味をお持ちいただけましたら、ご来訪いただけると本当に嬉しいです。
『断罪終了後に悪役令嬢・ヒロインだったと
気づきました!詰んだ後から始まる逆転劇』
https://ncode.syosetu.com/n4301if/
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あらすじ:
皇太子から断罪され
殺人未遂の容疑者(悪役令嬢)と
被害者(ヒロイン)になってから
前世の記憶を取り戻した二人。
つまりは乙女ゲームの世界に転生していたと
全てが終わった後に気づいたのだが。
え、本当に私がヒロインを殺そうとしたの?
え、あたしが悪役令嬢に殺されかけたの?
全てが詰んだ後の断罪終了後シリーズ第二弾
短期集中連載で今、開幕!



























































