65:私だけのもの
ロレンソから話を聞いた後。
アズレークはレオナルドの姿になり、王宮へと向かった。ロレンソもレオナルドが屋敷を出ると同時に街へと帰って行く。私はその日、義母のロレナとスノーと3人で屋敷で過ごすことになった。
目覚めたスノーはとにかく食欲旺盛。普段だったらストップをかけるところだが、冬眠明けの熊はお腹を空かせているというし、同じようなもの(?)と考え、ある程度の食べ過ぎには目をつむった。
スノーは食欲も旺盛だったが、同時に動き回りたがった。その気持ちも分からないでもない。ずっと眠っていたのだ。体を動かしたくなるのは当然。でも騒動の直後だ。外に出掛けるわけにはいかない。
そこでスノーが鬼に扮したかくれんぼを、メイドも巻き込み屋敷の中で行った。隠れる方は一度隠れれば、あとは息を殺しているだけ。でもスノーは屋敷中を行ったり来たりして、いい運動になったようだ。
カロリーナが遂に捕まったという情報は、ニュースペーパーの号外でも知らされている。ベラスケス家の一族からも、カロリーナの逮捕を喜ぶメッセージとスノーが目覚めたことを祝うお菓子や花も沢山届いた。
お茶の時間になると、スノーは喜んでそのお菓子を食べている。一方のロレナと私はメッセージの返信、お祝いの返礼品の手配に追われた。
そうしているうちに夕方になり、義父のエリヒオとレオナルドも無事に帰宅。少し早めの夕食を家族全員でとることができた。エリヒオも早い段階でカロリーナが捕えられたことを知ったのだが、一緒に捜索に加わってくれた知人たちと、祝い酒をしていたらしい。帰宅した時はほろ酔いで、そして酔った勢いでスノーへのお土産を大量に買い込んでいた。スノーは大喜びで、ロレナは目を丸くしている。
スノーははしゃぎまわり、お風呂に入れるにも寝かせつけるのにも一苦労だったが。
ようやくそれも落ち着いた。私自身も入浴を行い、寝る準備がようやく整った。おろしたての真っ白なガウンを着て、ホッとした瞬間。扉がノックされた。
寝付いたはずのスノーが目を覚まし、追いかけっこでも始めてメイドを驚かせているかと思ったが……。
「アズレーク!」
その姿を見た瞬間。
ずっと抱きつくのを我慢していた。
だからパタンと扉が閉まると同時に抱きつこうとしたのだが。
ずっと抱きしめたかった。
それはアズレークも同じだったようだ。
私が抱きつくより先に、アズレークから熱烈に抱きしめられていた。
しばらくは扉の前で無言で抱き合ってしまう。
全身でアズレークを感じ、もう嬉しくてたまらない。
こんなにもアズレークを求めてしまうのは、私が彼の番(つがい)であるというのは勿論、やっぱり彼を大好きだからだと思う。
「座ろうか、パトリシア」
ゆっくり体を離したアズレークが私の手をとり、ソファへと連れて行ってくれる。ソファに座ると、アズレークは当たり前のように私を抱き寄せた。黒のナイトガウン姿のアズレークの胸の中に、私はゆったり身を預ける。
「アズレーク、昨晩、私のところへ来てくれたでしょう。本当は私の顔を見て、自室に戻るつもりだったのに、相当疲れていたのね。そのまま眠りこんでしまった。今は大丈夫ですか? 一応あの時、回復の魔法は使いました。もしまだ疲れていたら……」
するとアズレークは肩を抱き寄せ、額にキスをする。
「ありがとう、パトリシア。昨晩は……君の言う通りだ。寝顔を見て、自室へ戻るつもりだったが……。確かに肉体的に疲れていた、というのはある。それ以上に、パトリシアから離れがたくなっていた。そうしているうちに寝込んでしまったようだ。変な時間に起こすことになり、すまなかった。でも今日は大丈夫だ。パトリシアをしっかり抱きしめ、休ませてもらうから。一人で休むより、パトリシアを抱いて寝た方が眠りが深くなり、疲れもとれる」
……!
今晩は一緒に休めるんだ。
その事実に思わず嬉しくなり、アズレークの胸に顔を押し当てると。
「パトリシア」
テノールの心地良い声で名前を呼ばれ、顔をあげると後頭部を支えられ、そのままアズレークの唇が私の唇に重なった。
心臓が喜びと興奮でドキドキと大きな鼓動を響かせる。
何度かキスを繰り返した後、アズレークが私のことをぎゅっと抱きしめた。
幸せだった。
幸せを噛みしめたその時。
カロリーナの顔が浮かんでしまった。
きっとカロリーナも。
こんな風に愛する人に抱きしめられ、唇を重ねることを望んでいただけなのだ。その気持ちを利用され、悪事を働き、黒の塔に収監されることになってしまった……。
「どうした、浮かない顔をして」
アズレークの指が私の顎を優しく持ち上げる。
シャンデリアの明かりを受け、煌めく黒曜石のような瞳と目が合う。
「……カロリーナのことを思い出してしまって……。カロリーナは不器用で、自分の感情をうまく出せないけれど、きっと真実の愛に出会いたいだけだったと思うの。父親とはなれ、収監されて、心穏やかに過ごすうちに、更生するかもしれない。終身刑で収監は、なんだか可哀そうに思えて……」
するとアズレークは優しく私を抱きしめる。
「パトリシアは本当に優しいのだな。カロリーナは父親と一緒にベラスケス家の一族を断頭台送りにしようとしていた。悪事がバレた後は、刺客を放ち、辱めを与えた上で殺害しようとしたんだぞ。そして今回、私の婚約者になったことに嫉妬し、『呪い』をかけいようとした。そんなことをしたカロリーナが終身刑になるのが可哀そうと思えるとは驚きだ」
「そう言われてしまうと……。私、お人好しなのでしょうか?」
フッと微笑んだアズレークは私の耳元に顔を寄せると。
「底なしのお人好しだ。だがそれがパトリシア、君の魅力でもあるのだろう。王太子も、ロレンソも、そして……マルクスも。何よりも私のことも、魅了して止まないのだから」
テノールの声と共に、熱い吐息が耳をくすぐり、一気に全身が熱くなった。マルクスのことまで見破っていることに驚き、心臓がバクバク言っている。
「どんな男がパトリシアを好きになろうと。パトリシアは私だけのものだ。誰にも渡すつもりはない」
そう力強く宣言したアズレークは、私の体を抱え上げ、静かにベッドへと運んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
ひとまずエンドにしましたが、続きは書けそうな気がしていますー。
ただ、読者様は本作の続き、お読みになりたいでしょうか?
ブックマーク、いいね!、評価、感想など、何かアクションをいただければ、皆様もまだ読みたいと伝わるので、何か反応いただけると嬉しいです~
何卒よろしくお願いいたします☆
【おススメ作品】
テイストとしては断罪終了後と似た新作です。
『 恋をしたら死あるのみ!?
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だがその聖女、ゲームのヒロインが登場するため
暗殺される運命だった――。
生存本能があるので、そう簡単には暗殺されませんよ!
プロローグの一部をご紹介==============
もう時間がない。
だから私は“彼”に声をかける。
私の提案を聞いた彼は……。
「仕方ないですね。アメリアお嬢様。あなたはいけない子です」
急にいつもの執事の口調に戻ると、彼はこの部屋の鍵を取り出す。そしてドアの鍵を静かにかける。さらに部屋の明かりを消すと、私がいるベッドの脇のサイドテーブルに置かれたランプだけが、灯った状態になった。
プロローグの一部をご紹介==============
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現在、25話まで公開されています。
まずはプロローグの1話分だけでも
試し読みいただけないでしょうか!
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