65:発見までの経緯
応接室へ移動し、人払いをすると。
レオナルドはアズレークの姿に戻った。
その瞬間、私は彼に抱きつきたくなってしまうのだが。
ロレンソがいるのでそこはグッと堪える。
「それで、ロレンソ。カロリーナはどんな状況で発見されたんだ?」
アズレークに問われると、ロレンソは実に美しい所作で紅茶を一口飲んだ後、話を始めた。
「捕まえた際、ドルレアンの魔女は魔法を使おうとしました。ですからすぐに言葉を封じました。でもドルレアンの魔女を乗せるための馬車……荷馬車ですが、それを近くまで呼ぶ間。離れた場所に見張りはいましたが、実質私と魔女は二人きりの状態だったのですよ。そこで白状させることに成功しました」
「ということは、ロレンソ、君は森の捜索に加わっていたのか?」
ロレンソはイエスの代わりにコクリと頷く。
「街の捜査網は完璧でした。騎士も多くいたいし、街の人々も協力的でしたから。街へ潜むのは難しいだろうとすぐ分かりました。それに街の人間同士のネットワークは軽視できないですよ。国の機関より優れているかもしれない。ともかくその情報網から、不審な少年の情報が浮上したのです。その少年の最初の目撃情報は、街のはずれの安宿でした。その宿には女性が泊まるということで案内していたのに、部屋を出入るするのは少年。部屋でよからぬ商売――つまりは売春でもしているのではと不審に思った宿のおかみが問い出すと……。いつの間にか少年は姿を消していた。ドルレアンの魔女が魔法を使ったのでしょうね」
つまりは安宿の部屋で、カロリーナは髪を切り、色を変え、少年の姿に変装したわけか。魔法で変身もできるのだろうが、魔力を使う。魔法を使わずにもできることには魔法を使わず、魔力の温存を図ったのだろう。
「その後の少年の目撃情報は、ポツポツとしたものです。雑貨屋で帽子を買ったとか、パン屋でパンを手に入れていたとか。ただ、立ち寄った店の足取りを追うと、街のはずれからさらに外へと向かっていると分かりました。街を出ると、しばらくは畑、牧草地帯。そこはうんと人の数も減ります。目撃情報はなくなりましたが……。刈り取った枯草を荷馬車を積んで運んでいた男が、途中で突然、荷馬車に重みを感じたそうです。おかしいと思ったのですが、でもそれはよくあることだというんですよ」
ロレンソがそう言うと、アズレークが言葉を引き継ぐ。
「身を隠して街を出た人間が、枯草を運ぶ荷馬車に身を隠すことはよくある――ということだな?」
「はい」と答えたロレンソがゆったり紅茶を口に運ぶ。
「誰か乗ってきたと思い、声をかけた場合。運が良ければ金を渡され、途中で降りるからそのまま運んでくれと言われます。でも運が悪いと、その場で殺されることも……。男は丸腰も同然ですし、戦闘力もないですから。見てみぬをふりをしたそうです」
カップをのせたソーサーをテーブルに置くと、ロレンソは話を続ける。
「案の定、何もせずそのまま荷馬車を走らせると……。森の手前で荷馬車の重量が軽くなった。つまりそこで何者かが降りたと分かったそうです。たいがい、そうやって降りると、荷馬車が去るまで身を隠すもの。でも違っていました。枯草を乗せた荷馬車から逃げた少年は、まだ荷馬車がいるにも関わらず動き出し、森へと向かって行ったそうです」
「その姿が宿屋から姿を消した少年の特徴と一致していたと?」
ロレンソは頷いた。
アズレークは「なるほど」と呟き、腕組みしてソファにもたれる。
「わたしの元には沢山の情報が寄せられていました。その中にはドルレアンの魔女の姿と合致する女性の目撃情報もありましたが……。それでも安宿の話では、少年は姿を消し、部屋の中は物抜けの空。でも洗面台に染料を使ったと思われる痕跡もあったということでしたので、この少年が怪しいと思えました。そこでわたしも動くことにしたのです」
ロレンソが何人かの男を連れ、森へと向かったのは、既に日が傾き始めた時間だった。森に着く頃には日が暮れていた。この状況下で森に入った元公爵令嬢が。いくら魔法を使えるとはいえ、むやみやたらに動き回るとは思えなかった。恐らくは洞窟や木のうろで身を休めると考えた。
「体を休ませ、魔力が回復し、さらに魔法を使われるのも面倒だと思ったので、犬を放ちました。魔法を使い、何頭かの犬は狼の鳴き声に変えました。ひとまず森は犬にまかせ、他の目撃情報を検分し、気になるものについては足を運び確認することも行い、夜が明けると同時に森に踏み込んだのです」
犬たちの活躍のおかげで、カロリーナは一睡もできず、ヨロヨロしながら森を彷徨っていた。残りの魔力は少なく、何人かの追っ手はそれでも撃退できたが、最終的に捕えれたのだという。そしてロレンソと二人きりになった時、カロリーナはどのようにして逃亡したのかを明かした。その内容はロレンソが把握した情報と合致している。やはり安宿で少年の姿に変装していたわけだ。
こうして話を聞いた後は、言葉を封じた。本人には気づかれないようにして。そして私達のいるマルティネス家の屋敷まで、カロリーナを連行したということだった。
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