59:……許せない
ロレンソとレオナルドが連携し、国中にカロリーナの捜索網が広がっている。
「魔術師さまは、カロリーナさまが捕まるのは時間の問題だと言っている。魔力切れのタイムリミットが近いって。魔法を使い、誤魔化しながらの逃走しているんだ。しかもろくな休息をとれていないはず。間もなく魔力が枯渇し、捕まるだろうと」
「なるほど。確かにそうね。騎士の皆さまも勿論動いてくれているから、きっと今日の早い段階でカロリーナさまは捕まると、私も思えるわ」
そう話しているうちに、スノーの部屋に到着した。
マルクスに中へ入るよう促し……。
「よお、スノー、大丈夫か?」
明るい声でスノーのベッドに近づいたマルクスだったが。
スノーの顔を見て、その頬に触れた瞬間。
体が震えていた。
息を飲み、よく見ると。
泣いているのではない。ものすごく……怒っていた。
「……許せない、あの女……。アルベルト王太子だけではなく、スノーにまで……こんな『呪い』をかけやがって」
「マルクス……」
「俺は……あの女とは一線を画すつもりだった。アルベルト王太子の色恋沙汰に首を突っ込むつもりはなかったから。だがな、こうやってスノーに……それにこの『呪い』は、パトリシアさまを狙ったものだったのだろう? しつこく手出しをするというなら、俺の手で……」
驚き、そして慌てながらも、握りこぶしになっているマルクスの手を掴む。
「マルクス、落ち着いて。確かにカロリーナさまがしていることは本当にヒドイと思うわ。でもあなたが手を下すなんてことはダメ! カロリーナさまをどうするか決めるのは、国王陛下なのだから」
私の言葉を聞いたマルクスは、握りしめていた拳から力を抜く。分かってくれたと思ったので、その手を離すと。
「そうだな。……あの女にはこの『呪い』を解かせないとならないし」
「そうよ。そう、そうだわ、マルクス。この後、王宮に戻って少し体を休めるのよね? 良かったら朝食を一緒にとって、ここで休んで行ったら?」
マルクスの目を見ると。
疲れ切っていた顔がキラーンと輝く。
「いいのか、パトリシアさま?」
「もちろんよ」
そこで思いつく。私の回復の魔法で、肉体の疲れは回復できると。そのことをマルクスに伝えると「それは名案だ、パトリシアさま。頼む」と拝まれた。早速、その場で回復の魔法をマルクスにかけると……。
「あー、鉛みたいな体になってたいけど、楽になったぞ、パトリシアさま」
「それは良かったわ、マルクス。でも、魔法で無理矢理回復している状態だから。仮眠は少しでもいいからとって頂戴ね」
「了解!」
元気よく答えたマルクスは、再びスノーと向き合う。
「絶対に起こしてやるからな。起きたらスノーが大好きなトリュフを使ったパイを食べさせてやるから」
そう言って、頭を撫でると私を見る。
「行きましょう」と応じ、マルクスと私はスノーの部屋を出た。
ダイニングルームに着くと、義母のロレナが着席して待っていたが、マルクスを見るとニッコリ微笑む。テーブルを見ると、四人分のお皿とカトラリーが並べられている。
ロレナは私が伝えるまでもなく、マルクスに朝食をふるまうつもりだった……!
なんというか、自分と同じ考えをしていたと分かると、こんなにも嬉しい気持ちになるなんて。ロレナが義母でよかった。
「みんな、おはよう」
そこに義父のエリヒオが入ってきた。エリヒオは当然、マルクスのことを知っていたし、彼の服装から徹夜で捜索をしたとすぐに気づいた。
「槍の騎士のマルクス様。ようこそ、我が家へ。たいしたものではございませんが、温かい朝食をご用意しますので、ぜひ休憩をとっていってください。風呂の用意もさせておきます」
エリヒオもまた、状況を瞬時に理解し、マルクスに朝食をとり、この屋敷で休むことを提案してくれた。
マルクスを朝食と休憩に誘ったが。ここは私の屋敷ではない。ひとまずダイニングルームに連れて行き、ロレナにマルクスに朝食をふるまっていいか許可をもらうつもりでいた。その上で、来客用のベッドルームにマルクスを案内していいいか、聞くつもりだった。
もし朝食の席にエリヒオがくれば。勿論、彼に許可をもらうつもりでいたのだ。
でも私が二人に相談するまでもなく。二人は自身の良心に従い、マルクスに朝食を勧め、この屋敷で休憩することを提案してくれた。
本当に。私は義母と義父に恵まれたと思う。
エリヒオの言葉にマルクスは「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」と頭を下げる。そんなマルクスにエリヒオは席に座るようにすすめ、メイドも次々と料理を運ぶ。
こうして珍しいメンバーでの朝食が始まった。
この朝食の席で、マルクスが教えてくれた以外のカロリーナの捜索状況について、エリヒオから話を聞くことができた。
街中にある宿屋は、騎士は勿論、街の人、宿の経営者も協力して、カロリーナが潜伏していないか確認したという。しかも一度騎士が確認した後、街の人間が再度訪ねて確認する。念押しで宿の経営者が従業員にも確認させた。そんなことをされてはもしカロリーナが魔法を使っていたとしても。かなりしんどいことになっているだろう。宿屋で体を休めることはあきらめたはずだ。
国境に続く道では検問が要所要所で行われており、一か所突破しても、また次があった。そして近くの村ではカロリーナに対する警戒が始まっている。
もはや逃げ場は少なく、魔力も少ない――そんな状況だろうとエリヒオは評した。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は夜(22時~23時)『静寂を破って……』を更新します。
遅い時間なのでお疲れの方は翌日ご覧くださいませ。
それでは午後も眠気に負けず、気を引き締めてまいりましょう~
引き続きよろしくお願いいたします。



























































