56:突然訪ねてきた理由
ロレンソが突然訪ねてきた理由。
それはカロリーナの逃亡を知り、私の身を案じてのことだった。
「……心配してくれてありがとうございます、ロレンソ。パトリシアはこの通り、無事です」
レオナルドはそう応じているし、私も元気な姿でその隣に座っているのに。ロレンソの表情は晴れない。するとレオナルドは……。
「……感じますか」
「感じますね。ホワイトドラゴンは治癒の力が強いので。それはつまり、人間であれ、聖獣であれ、害された状態には敏感ですから。……でも、今感じているのは、病や怪我ではないです。これは……『呪い』では?」
……!
ロレンソはスノーにかけられた『呪い』に気づいているんだ……!
アズレーク程ではないと思うが、やはりロレンソも魔力が強い。しかもホワイトドラゴンの血を継ぎ、『呪い』にも敏感だったとは。
レオナルドは。ロレンソに隠す必要はないと思ったのだろう。必要はないというか、隠そうしても『呪い』をかけられた者がいることは明確だったので、何が起きたかをロレンソに話した。レオナルドの話を聞き終えたロレンソは、その美しい顔を不快そうにゆがめた。
「……自分が真実の愛を手入れることができなかったからと、幸せそうにするパトリシア様に『呪い』をかけようとするなんて……。本当に、ドルレアンの魔女は……。なぜ死罪にしなかったのですか?」
温厚なロレンソが。争いを嫌うロレンソの口から「死罪」などという物騒な言葉が出てきたので驚いてしまう。でも理解はできる。それだけロレンソが腹に据えかねるぐらい、カロリーナの行動がヒドイということだ。
「パトリシア様は無事でした。でもスノーが……。あんな子供に『呪い』を……」
ロレンソの顔には不快を通り越して、怒りが浮かんでいる。
やはり善性の強いロレンソにとってカロリーナがやったことは、許しがたいようだ。
「『呪い』をかけられた状況が状況ですので。もしカロリーナを明日までに捕えることができなかったら。ロレンソ、君の協力を仰ぐつもりでいました」
レオナルドがそう言ってロレンソを見ると。
しばしロレンソは考え込んだが、「……なるほど。そういうことですか」と応じる。
私は……なぜこれで二人が意思の疎通が図れたのか、まったく理解できない。というか、レオナルドが……アズレークがロレンソの協力を仰ぐつもりだったことも初めて知り、驚くしかない。
「レオナルド様。ドルレアンの魔女がどうしても捕まらない時は……確かにその選択肢は妥当と思いますが。わたしとしては好ましい解決法ではありません。何より嫉妬という負の感情を前面に出させるのは……。そうならないようにも。ドルレアンの魔女の捜索にはわたし達が協力しましょう」
私達……?
「レオナルド様からいただいた寄付。これを街の人間に明かします。そして。ドルレアンの魔女をあなたが捕えようとしていることも、話させていただきます」
驚いて隣に座るレオナルドを見るが。
表情を変えず、ロレンソを見て、話を聞いている。
「街の人間は、決して貴族や権力者が好きなわけではありません。でもレオナルド様。あなたの寄付に街の人間は心から感謝しています。そのあなたがドルレアンの魔女を捕えたいと考えているのなら。協力を惜しまないでしょう」
「ありがとうございます、ロレンソ。ぜひそうしていただけると助かります。……ただ、街の人間が協力してくれるのであれば。それは君からの依頼だからだと思います」
レオナルドが優雅に笑うと、ロレンソも美しい笑顔でそれに応じる。
端整な顔立ちの二人が笑顔で応酬をしていると、もう見惚れるしかない。
「いずれであれ、街の人間が協力すれば、ドルレアンの魔女はすぐ見つかるでしょう。基本的に街の人間は余所者に対して、金さえ払ってくれれば、要求には応えます。それが犯罪者であろうと目をつむることもあるでしょう。でも今回は違う。ドルレアンの魔女は捕える必要がある。恩人の気持ちに報いるためにも。街の人間は仲間意識が強く、情に厚いですから。必ず捕まりますよ、ドルレアンの魔女は」
ロレンソのその自信にあふれた姿を見ていると。カロリーナは必ず捕まると思えてくるから不思議だ。
「ありがとうございます、ロレンソ。君の協力と街の人間の協力に、心から感謝します」
レオナルドに続き、私も感謝の気持ちを伝える。
「ロレンソ先生、本当にありがとうございます。どうかスノーのためにも、カロリーナさまを捕えてください」
ロレンソはニッコリ笑顔で応じると「では善は急げです。これで失礼させていただきますね」と言って立ち上がる。レオナルドと私も腰をあげ、エントランスまでロレンソを見送った。
「レオナルド、ロレンソ先生は、カロリーナさまを見つけられるかしら?」
「騎士が探し回るより、見つかる可能性が高いと思っているよ。騎士を見れば、カロリーナだって警戒する。でも街の人間だったら? 自分の顔をはバレていないとカロリーナは思っているはずだ。警戒心は薄れるだろうね。それに逃走には街の人間の協力が必要なはず。ちなみに爵位ある人間がカロリーナに手を貸した場合。爵位剥奪の上、拷問そして投獄するという通達が出ている。カロリーナのファンだという男爵も、我が身が可愛ければ逃亡の手助けはしないはずだ」
レオナルドは力強くそう返事をした。
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次回は今晩、19時後半~20時前半に『それでも人間だから』を更新します。
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