42:お互い思う気持ちが高まり
私と出会うことでロレンソの歯車が狂い出す。
「同じドラゴンという種族の血をひき、そして私が純潔で心が美しかった……優しかったから。さらに一人の人間として魅力を感じてしまい、ロレンソ先生は、私を手に入れたいと願うようになってしまった。でもアズレークと婚約をしているから、何度も諦めようとした。でも気持ちが抑えられなくなってしまい……。本当は勝ち目がないのに、アズレークに戦いを挑み、そのままこの世界から消えようとしていたのよね」
私の言葉を聞いたアズレークは。
まるで私は自分のものであるとアピールするようにぎゅっと私を抱きしめる。そして大きく息をはくと……。
「ホワイトドラゴンは、そもそもドラゴンとして存在していた時から、その数は多くないと言われている。ドラゴンの中でも希少性が高かった。それに自身が温厚な性格だからね。伴侶となるドラゴンにも心の美しさを……優しさを求めた。純潔まで求めていることは知らなかったが……。ともかくドラゴンとして存在している時から、ホワイトドラゴンは番(つがい)を見つけることが難しかった。ゆえにロレンソが番(つがい)を見つけることができなかったのは……。これはもう確率の問題としても、仕方がなかったのかもしれない」
なんて切ない話なのだろう。
そこまで希少性が高いのなら、その存在が失われた今、番(つがい)と出会うなんてまず無理だと思える。番(つがい)は見つからなかった。でも人間として好きになれて、かつ同族の血を受け継ぐ者であり、条件を満たした私に固執したとしても……仕方なかったのかもしれない。
「だからと言って、私のパトリシアをロレンソに渡すつもりはない」
アズレークはそうキッパリ断言するが。
私のことをアルベルトに譲るつもりだったくせにと言いたくなってしまう。
「言っておくがパトリシア」
なんだろうと思い、顔を上げると、アズレークの黒い瞳に情熱の炎を感じ、心臓が急に騒がしくなる。
「王太子とパトリシアは幼馴染みだ。二人は子供の頃から相思相愛だと思っていた。私と出会う前に、既に愛し合っていた二人を引き裂くことをできない。そう思って、身を引こうとしただけだ」
「そうだったのですね……!」
「だが状況は変わった。パトリシアが私を好きだと分かったから……」
ここはロレンソの屋敷であると分かっているが。
それでもこんな会話をしてしまったのだ。
そしてお互い思う気持ちが高まっているから……。
自然とアズレークと私の唇は重なっている。
ゆっくりと唇を離したアズレークは、こんなことを言い出した。
「それにロレンソも勝ち目がないのに、戦を挑んだわけではないと思う。ホワイトドラゴンに勝算がなかったわけではない」
「え、それはどういうことですか?」
アズレークによると、ホワイトドラゴンは治癒の力が使える。だからその身にどれだけ致命傷を負ったとしても、その場ですぐ治癒できてしまうというのだ。不死身というわけではないが、治癒を繰り返されるうちに、相手のドラゴンは魔力が尽きる可能性もある。ろくに相手に攻撃することなく、防御と治癒だけで。ホワイトドラゴンが別のドラゴンに勝つことは、無きにしも非ずだというのだ。
アズレークはロレンソと戦闘する前に、ここまでの長距離を移動し、その間、ブラックドラゴンの姿を維持していた。その上で今言ったような戦闘を行い、ホワイトドラゴンに、ロレンソに勝てたということは……。
間違いない。
アズレークはとんでもなく強く、圧倒的な魔力を有している。そしてロレンソが指摘した通り、始祖のブラックドラゴンに近いというのは本当だと思った。先に力尽きたロレンソを助けようとしなければ、アズレークは完全勝利を収めていたはずだ。そして今頃私をガレシア王国へ、とっくに連れ帰っていたことだろう。
でもアズレークはそうしなかった。もし力尽きたロレンソを放置して、アズレークが私を助けに来たら……勿論助けに来てくれたことは嬉しく思うだろう。でもロレンソを見捨てたことを残念に感じただろうし、私は助けに行くことを提案したと思うのだ。そうならなかったのは、アズレークもまた、心優しい人間だから。
「アズレーク、本当にこんなところまで助けに来てくれて、ありがとうございます。何より、ロレンソ先生を問答無用で倒し、息の根を止めなかった。このことに感謝し、嬉しく思っています。ロレンソ先生は、根っからの悪人とは思えませんでした。平和的な解決ができないかと願っていたので」
「……平和的な解決になったのか。ロレンソと私は、とんでもない戦闘を繰り広げたのだからな」
それは確かにそうかもしれない。それでも、ロレンソのあの悲壮な覚悟から考えても、衝突は回避できなかったと思う。だがこうして二人とも命があり、そしてロレンソは私を諦めてくれた。さらにこれからも生きていこうと決意してくれたのだ。
戦闘は避けられなかったが、最終的には円満解決できたと言っていいと思えた。
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次回は明日『他に何をされた?』を更新しますね。
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