40:桁違いで圧倒的で破格な力
アズレークが3日を待たずにここに現れたのは、私が魔法で居場所を知らせたせいもあるが。ロレンソはそれだけではないと言う。
「……それでも。例えパトリシア様が魔法を使い、自身の居場所を伝えたのだとしても。早過ぎる。そうなると間違いない。アズレークは始祖のブラックドラゴンに限りなく近いと。その魔力は地上における聖獣ドラゴンの中では最大に違いないと気づかされることになりました」
「始祖のブラックドラゴン?」
ロレンソは深々と頷く。
「聖獣の血を受け継ぐ者の中には、稀に聖獣に姿を変えられる者がいます。さらにそれらの者の中に。本当に稀にですが、先祖返りをする者がいると言われているのです。つまり、先祖である聖獣そのものと同等、同格の魔力を持つ者が誕生すると。アズレークはきっと、先祖返りをした者なのでしょう。そして聖獣ブラックドラゴンにその姿を変えた時。その姿と魔力は始祖のブラックドラゴンと同一。桁違いで圧倒的で破格なもの。……ええ、確かにそうだったと思います。空中戦において、このわたしが負けたのですから」
「そんなに強いのですか? あんなに満身創痍で魔力切れでしたが?」
アズレークは顔色も悪く、呼吸も乱れ、明らかに最悪なコンディションに陥っていた。とてもロレンソが言うような、桁違いで圧倒的で破格な力を得た姿とは思えなかった。
だが私の疑問に、ロレンソの表情が引き締まった。
「アズレークは間違いなく最強です。この地上と天上において」
ロレンソは組んでいた脚をほどき、身を乗り出すようにして語り出す。
「わずかな時間で、ブラックドラゴンとして魔力のコントロールができるようになっていますが、それは自身が持つ風の力の操作を会得しただけではないのです。レッドドラゴンが操る炎。ブルードラゴンが操る水。グリーンドラゴンが操る植物。イエロードラゴンが操る雷。そのすべての魔力の使い方をすべて覚えたのです。そのコントロールが完璧だったのはもちろん、威力も凄まじいものでした。突然の天気の急変。あれは聖獣ブラックドラゴンに姿を変えた、アズレークが引き起こしたものです」
そうだったのね……!
あの豪雨、暴風、雷はすべてアズレークが……。
「ブラックドラゴンの姿を維持するだけでも、相当な魔力が消費されます。さらにガレシア王国からここまで飛んできたのです。その上で、あの嵐のような凄まじい威力の魔力攻撃。迎え撃つわたしは休息もとり、魔力も万全の状態でした。それでも防御で手一杯で、攻撃をする隙をなかなか与えてもらえなかった。それどころかどんどん追い詰められ……」
そこでロレンソは深いため息をついた。
「パトリシア様が手に入らないのなら。わたしは……もうこの世界から退場してもいいと思っていました。アズレークに止めを刺してもらうつもりでいたのです。でも彼は……。とんでもない雷の一撃を受けたわたしは、空から落下しました。もう戦闘は不可能な状態。落下するわたしをアズレークは自身の体で受け止めました。だから全身に傷を負ったのです。首や肩の傷はわたしが噛みついたものですが……」
ロレンソはそんなことを考えていたの……?
あまりにも悲壮な決意に胸が痛む。
番(つがい)を求め、出会えなかった絶望がここまで深いものであるなんて。
「既に深手を負いながらも、落下するわたしを助けることで、アズレークは満身創痍になった。一方のわたしはそのまま気絶し、聖獣から人の姿に戻りました。そのわたしに治癒と回復の魔法をアズレークは使ったのです。わたしは……アズレーク以上に傷を負っていました。放っておけば間違いなく死んだでしょう。でもアズレークはわたしを助けたのです」
アズレークの善性と優しさに胸が熱くなる。
私をさらったロレンソには、怒り心頭だったはずだ。
それでもその命を助けた。
「わたしの傷を全て癒し、回復までしたのです。それまでに使った魔力のことを考えれば……。魔力が底を尽きそうになっても当然でしょう。むしろ魔力切れになっていない方が異常なぐらいです。満身創痍で深手もあるのに、私を担いで歩いて屋敷の近くまで向かったなんて……。聖獣としてはもちろん、人間としても強靭だと思います。彼には敵わない……そう思いましたよ」
そこでロレンソは、悲しみと喜びが入り混じった複雑な笑みを浮かべた。
「何より、アズレークは……。治癒をしながら、わたしの心も癒してしまった。『この世のから退場するなんて許さない。生きろ、人とは違う力があるのだ、誰かのために尽くせ』と語りかけながら治癒されたのです。そんなことを言われては……」
「アズレークとロレンソ先生は、私を巡り対立することになりました。でも先生のことを、アズレークは嫌いだったわけではないと思います。先生が街の人々に対して行ってきたこと。寄付金を使い、取り組もうとしてきたこと。それを知っているので……憎み切れなかったのだと思います。何よりアズレークは優しいですから。私が賊に襲われそうになった時も、敵を傷つけることなく、気絶させて捕縛しました」
ロレンソは「なるほど」と頷き、オッドアイの瞳で私を見た。
おはようございます!
お読みいただき、ありがとうございます!
次回はお昼頃(11時後半~12時前半)『残念だがそれは不正解だ』を更新します。
本日もお仕事&学校&家事が忙しい方、ファイトです!
今日はオフの方、楽しい週末を過ごせますように~。
それでは引き続きよろしくお願いいたします。



























































