39:真の姿
入浴を終え、用意されていたドレスに着替えた。
白い立襟長袖の白いドレスは、金糸で襟、袖、裾に繊細な刺繍が施されている。シルクで肌触りもよい。髪はお団子でまとめ、用意されていたパールのイヤリングだけつけ、すぐに寝室へと向かう。
「アズレーク」
ベッドのすぐそばに立つロレンソが人差し指を自身の唇に当てる。そのベッドにはアズレークが休んでいた。起こさないよう、音を立てず、静かにベッドに近づく。漆黒の闇を思わせる黒髪は少し乱れている。目はしっかり閉じられ、長い睫毛が呼吸にあわせ、少し揺れていた。唇も顔色も外で会った時より格段によくなっている。
しっかり掛布団がかけられているので、首から下は見えないが、治癒は終わっているようだ。今は魔力を回復するためにしっかり眠っている。そんな状態だと思った。
ロレンソが目配せをし、ソファに向かう。
そこでロレンソと向き合い腰を下ろす。
「ベッドの周囲に遮音と遮光の魔法をかけてあります。もう声を出していただいても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。ロレンソ先生。アズレークの容態は……?」
ロレンソは長い脚を組み、秀麗に微笑む。
「大丈夫ですよ。傷はすべて治癒できています。魔力は今、休息しながら回復しているところでしょう。……ブラックドラゴンは、魔力も強いが回復力も速いですから。大丈夫ですよ」
その言葉に心から安堵する。
「……本来、彼は魔力がここまで減るはずではなかった。でもわたしの治癒と回復のため、自身の魔力を使ったせいで……。ブラックドラゴンは好戦的。でもこんなに情が深いとは思っていなかったので、驚きましたよ」
「ロレンソ先生はアズレークについては話す時、ブラックドラゴン、ブラックドラゴンと言いますが、彼は人間ですよ。祖先にブラックドラゴンがいて、その血を受け継いでいるだけで」
すると。
ロレンソは驚いた顔で私を見ている。
その顔に私が驚いてしまう。
「パトリシア様は……まだ彼の真の姿を見ていないのですか?」
「え……」
何のことかと首を傾げると。
ロレンソはクスリと笑い、口を開く。
「彼はわたしと同じです。聖獣の血を色濃く受け継いでいます。何世代かに一度、とても稀な確率で顕現すると言われているのですが……。姿を変えられるのですよ」
「あ、それは知っています。アズレークはブラックドラゴンの魔力に由来する姿で、レオナルドは本来の人間の魔力に由来する姿です」
私が答えると、再びロレンソがキョトンとした顔になった。そして今度はクスッと笑う。
「そういうことでありません。アズレークもわたしも、聖獣の姿になれるのです」
「えっ!?」
「わたしは子供の頃からよく聖獣の姿になっていましたが。アズレークは違っていました。今回初めて聖獣の姿をとることになったのです。なぜ聖獣の姿になる必要があったのか。まずここはグレイシャー帝国。そこに王宮付きの魔術師レオナルドとして現れれば、外交問題になってしまいます。それを避けたかったのでしょう。それに聖獣の姿になれば。番の気配は、人の姿の比ではなく広範囲で感じ取ることができます。何よりもパトリシア様、あなたを連れ去る時、わたしは自分の魔力の気配を残しましたから。わたしと対峙する際、聖獣の姿ではないと勝負にならないと、すぐに気づいたと思いますよ」
聖獣の姿……?
それはつまり、アズレークは人の姿から、聖獣……ブラックドラゴンの姿になれるということ……?
驚きだった。
アズレークとレオナルドという2つの姿を持ち、さらに聖獣の姿にもなれるなんて……。でも今回初めて聖獣の姿になった。ということはもしかして……。
「ロレンソ先生はアズレークがグレイシャー帝国に姿を現すのに、3日かかると言っていましたよね。それはもしかして、聖獣に姿を変えるのに1日かかり、私を探すのに1日かかり、ここに辿り着くのに1日かかる、そう計算したのですか?」
「ええ、ざっくり言えばそんな計算です。聖獣に姿を変え安定させる。飛び方覚え、その姿で魔力をコントロールできるようにする。これには2日かかると思いました。でも一度聖獣の姿になれば、移動なんて魔法を使うに匹敵する速度できるようになります。さらにその姿であれば、番の気配も感じ取りやすくなりますから。あなたの捜索と移動に1日。合計3日と考えたのですよ」
でも実際アズレークは2日を待たず、ここへやってきた。
それが意味することは……。
「ブラックドラゴンです。その魔力は強い。相応の距離があってもわたしはその魔力を感知しました。早過ぎる。いくらなんでも早過ぎると思った。そこで気づいたのですよ。パトリシア様、あなたが自分の居場所を彼に伝えたに違いないと。魔法を使ったのだと」
なるほど。そういうことか。それでバレたのか。
今週も、お仕事&勉強&家事、お疲れさまでした!
そしてお読みいただき、ありがとうございます。
次回は明日(朝8時台)『桁違いで圧倒的で破格な力』を更新します。
よい週末をお過ごしくださいませ~☆
各種応援も心から感謝しています!



























































