33:拒絶できない
前を進むロレンソがゆっくり白馬を止めた。
私も馬の走る速度をゆるめ、その隣に馬を止めると。
「見えますか。この国固有種のキツネです」
ロレンソが指さすを方角を見ると……。
「真っ白……! まるで犬か狼みたいですね」
真っ白な冬毛でおおわれたそのこんもりとした姿は。
私の知るしゅっとスリムなキツネとは全く違う。
さらに進むと。
「パトリシア様。左手の奥を見てください」
針葉樹の森の中、目を凝らすと……。
「あれは……シカですか?」
「いえ、あれはトナカイです。あちらがオスで手前がメスですね」
「オスもメスも角があるのですね……!」
そんな感じで森の中を進んで行くと、確かに沢山の動物と出会える。こんな銀世界の中でも生きている動物の姿に感動してしまう。
アズレークにメッセージを送ることができた。
その安心感もあり、リラックスできようだ。
雪の世界で生きる動物達の姿を、ロレンソの案内で楽しみながら見ることが出来ていた。
「さあ、湖が見えてきました。少し休憩をしましょう」
ロレンソの馬と並走を始めると、驚くべく姿の湖が目に飛び込んできた。湖は……確かに凍っている。でもスケートリンクのようにガチガチに凍っているわけではないようだ。湖底の青みがうっすらと見え、そして……。
馬を止め、私が降りるのを手伝いながら、ロレンソが説明してくれる。
「これはフロストフラワーです」
「フロストフラワー?」
「霜の花ですよ」
ロレンソによると、辺り一面銀世界であるが。
これでも春に近づいているのだという。
その証拠がこのフロストフラワー。
極寒期、この湖は真っ白に見えるぐらい凍り付くが。
今の時期になると氷の厚さがかなり薄くなる。
氷が薄くなると湖面からは水蒸気が立ち上るのだが。
その水蒸気が凍り、湖面の上でいくつも重なりあうことで、美しい結晶となり……花のようになるのだという。
氷の花を見ていると。
アズレークが魔法で作り出したダイヤモンドダストを思い出してしまう。
青空を背景に見るダイヤモンドダストは、とても神秘的だった。
そしてあの時。
アズレークに後ろから抱きしめられ、なんだか守られているように感じていた。
アズレーク……。
会いたいという気持ちが一気に募る。
激務のアズレークとは昼食のひと時しか会えず、一緒にいられる時間は短い日々が続いていた。それに慣れていたはずなのに。
アズレークが恋しくてならない。
「パトリシア様」
背後からロレンソに抱きしめられたと気づき、慌ててその腕の中から逃れようとすると。
「静かに。ユキウサギが近づいてきています。動かないでください」
「……!」
ロレンソが私を抱きしめたままゆっくり体の位置をずらすと。
あ……!
耳の先が少し黒く、それ以外は真っ白の一匹のユキウサギが、かなり近くまでジャンプしながらやってきた。キツネぐらいモコモコかと思いきや、思いの外スリムに見える。
しばらく私達の近くでウロウロしていたが、やがて森の奥の方へと戻っていった。
「絶え間なく動き回っていましたが、丸くなって座っていると、毛がふっくらとして可愛らしいんですよ」
「そうなのですね」
しみじみと頷いてしまったが。
それにユキウサギに気をとられ、ロレンソに抱きしめられているけど。もうユキウサギの姿は見えなくなった。
その胸の中から逃れようと、ロレンソの腕に手を伸ばした瞬間。
「パトリシア様。静かに。あの左側の木をよく見てください」
「え……」
言われた方角の木を見ると。
「リスですか!?」
「ええ。今、まさに巣穴から出てきましたね」
2匹のリスが巣穴から出てきて、忙しそうに動き回っている。
耳が長く、尻尾はふさふさ。
首からお腹にかけての白い毛が可愛らしい。
リス以外にも鳥、テンも見ることが出来た。
気づけば30分近く、ロレンソに抱きしめられていたことに気づく。
「そろそろ、帰りましょうか。寒くないですか、パトリシア様?」
正直なところ。
後ろから抱きしめられていたおかげで、かなり温かった。帰るということでロレンソが離れると、一気に冷気を感じた。
「部屋に戻ったらホットチョコレートを用意させましょう」
ロレンソが私の手をとり、エスコートしながら、馬を止めたところまで歩き出す。
「吹雪くと数日は屋敷に缶詰めですが、晴れていればこんな風に外へ出ることもできます。1年の半分は雪と氷に閉ざされますが、屋敷内には温泉もありますし、のんびり過ごせて、それはそれで楽しいですよ」
「そうなのですね」と答えかけ、慌ててその言葉を飲み込む。そんな情報、必要ない。私はここに住むわけではないのだから。
さらわれたというのに。
私が逃げ出せないと分かっているロレンソは。私を拘束することもなく、外に連れ出したりする。こうなると、自分の立場を忘れそうになってしまう。
何よりも。
私のことをさらうなんて大胆不敵なことをロレンソはしているが。手を出すこともなく、優しくしてくれるので、どうしてもロレンソを拒絶できない。
ため息をつきながら馬に乗った。
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