28:欲しいものは力づくで
「3日。3日はかかるでしょう。彼がここに辿り着くまで」
ロレンソはその涙を鎮め、瞼を閉じた状態で静かに口を開いた。そしてアズレークがここに来るのに3日かかると言い出した。
「この3日間で、少しでもパトリシア様が、わたしを好きになってくれるといいのですが……」
「好きになんかなりません!」と断言したいのだが。
ロレンソの善性を思うと、そう言うことがためらわれる。
こんな状態になったのは苦慮の末なのだと分かってしまったから。
代わりに尋ねていた。
「アズレークが3日後、ここに来たら、私を彼の元へ帰してくれるのですか?」
私の問いにロレンソは、秀麗な笑みを浮かべた。美しい笑顔につい目を逸らすと。
「わたしはガレシア王国の王太子のように、優しい男ではないので。欲しいものは力を使って手に入れます」
「!? それはまさか」
「パトリシア様。あなたに力強くで何かをするつもりはありません。あなたは大切な存在。無理強いはしません。でもアズレークはわたしにとってのライバル。強い男が愛する女を手に入れる。正々堂々アズレークと戦い、勝者となり、パトリシア様を妃に迎えます」
アズレークとロレンソが戦う?
そんなこと、そんなこと、絶対にダメだ。
どうすれば止められる?
それは……私がアズレークの元に戻るしかない。
そうだ、魔法を使おう。
私だって魔法を使えるのだ。
「パトリシア様」
ロレンソの声に逸らしていた視線を彼に戻すと。
白銀色と白金色の瞳が私のことをじっと見ている。
考えていることを見透かされているようで、落ち着かない。
「魔法を使い、何かしようと考えていませんでしたか?」
もうこれにはギクリとするしかない。
ただ視線を大理石の床に落とし、やり過ごそうとしたのだが……。
「あなたが使う治癒の魔法を見ました。決して魔力が弱いわけではないのでしょう。でもとても強いわけではありません。なけなしの魔力を使い、逃げようとしても無駄ですよ。まず、この建物からきちんとした装備もせずに抜け出せば、数分ともたない。外は一面銀世界ですから。そしてもしあなたが魔法を無理に使おうとしたら、あなたが魔法を使えないよう、策を講じることになります」
立ち上がったロレンソが、ゆっくりこちらに近づいてきた。
魔法を使うなと言われたが。
でも逃げ出さないと大変なことになってしまう。
ただ覚えた魔法は確かに治癒の魔法が多く、逃走に役立つような魔法は……。
「自由に舞え 蝶たちよ」
これは自分の魔力を蝶に変える魔法。
スノーを喜ばすために覚えた魔法だ。
一斉に花吹雪のように蝶が舞うので、目くらましにはなるはず。
ロレンソが驚いている間に部屋を飛び出し、どこかで服を調達し、この建物から逃げよう。
そう思ったのだが。
「氷結」
「えっ」
沢山の蝶が瞬時に凍り付いた。
「霧散」
冷たい風が吹いたと思ったら、凍り付いた蝶は跡形もなく消えていた。
この場所にいとも簡単に移動し、部屋だって瞬きする間に変えることができたのだ。ロレンソは魔力が強い。相当強い。それは考えればすぐ分かったのに。
私は……ただ、ベッドを降りたに過ぎなかった。
その間に沢山の蝶はあっという間に氷つき、姿を消されていた。
「パトリシア様。魔法を使うのは無駄と言いましたよね?」
それでも身一つで逃げようと駆け出そうとしたが。
あっさりロレンソの胸の中に抱きしめられ、身動きがとれなくなっていた。
しかも魔法を使おうとした瞬間。
ロレンソの顔が私の顔に迫った。
キスをされると思い、顔の向きを変えたが、手で顎を押さえられ……。
「封印」
ロレンソの息を唇で感じ、心臓が飛び出しそうになったが。
……キスはされなかった。
でも、今、封印って言っていた……。
まさか……。
ロレンソ……!
その名を叫んだつもりだった。
でも声が出ていない。
「パトリシア様。3日ですから。それで決着がつきます。魔法を使おうとせず、大人しくしてください。そうすれば声は出せるようにします。それでも魔法を使うおうとするなら。あなたから魔力を奪います」
魔力を奪う!?
そんなことができるのかと驚愕していると。
「魔力というのは、普通にしていても、体から少しずつ失われていくのです。でもそれはほんのわずか。ただ、呼吸を乱した時。その時は大量の魔力が失われます。あなたから魔力を奪う。つまりパトリシア様。それはわたしがあなたに対し、呼吸がひどく乱れることをすることになります。そんなことをされるのは、あなたも本意ではないのでは?」
呼吸が乱れること?
何をするというの……?
「分かっていないようですね」とため息をついたロレンソが、おへその下の逆鱗に触れた。心臓がドクンと大きく反応したところで、突然首筋にキスをされた。「やめて」と口を動かすが声は出ず、心臓がバクバクし、一気に全身が熱くなった。
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次回はお昼頃に『身をもって分からせる』を更新します。
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