23:それこそ王命だ
アズレークの残業は完全になくなったわけではない。
週に3日は残業をしているし、時に帰宅が真夜中になる日もゼロではなかった。それでも屋敷で共に夕食をとり、翌日は朝食をとってから王宮へ向かう日も増えた。
そしてロレンソを夕食に招待する日も決まった。
そう、明日だ。
あれからもロレンソは寄付金の使い道について、まるで報告するように手紙で知らせてくれたので、私達の縁は切れていない。それどろか偶然、義母のロレナと同じ劇をロレンソが観劇していたことがあった。ロレナは大喜びでロレンソを屋敷に招いた。そこに王宮での昼食を終え、スノーと私が帰宅し、四人でお茶をすることもあった。
そんな感じだったから夕食にも気軽に誘えたし、ロレンソも快諾してくれた。
ロレナはロレンソが来るからと、バトラーにとびっきりの食材を調達し、美味しい料理とワインを出すようにと前日から指示を出している。
明日の夕食は晩餐会並みに豪華になりそうだった。
◇
「レオナルド様、ご帰宅です」
ロレンソとの夕食の日。
アズレークは今まで一番早く屋敷に戻ってきた。
ほんの数時間前、王宮で昼食を共にしていたというのに。
もう会えるのかと思うと、嬉しくてたまらない。
スノーは丁度、家庭教師に勉強を習っている最中だった。
だから。
帰宅したアズレークに……レオナルドについて彼の部屋に向かった。
なんだかんだでアズレークが私の部屋にくることが多いので、彼の部屋に行くのはこれが二度目。どんな部屋であるかも分かっているが、とてもドキドキしてしまう。
部屋の扉を開けると、レオナルドは先に入るようにと促してくれる。
部屋に入った瞬間。
後ろからぎゅっと抱きしめられた。
抱きしめる腕は黒いシャツを着ている。
アズレークの姿になってくれていると分かり、一気に気持ちが上向きになった。
嬉しくて自分からアズレークの方に体の向きを変え、抱きついてしまう。
「どうした、パトリシア?」
「さっき会ったばかりなのに、またアズレークに会えたのが嬉しくて」
「……そうか。それは私も同じだ」
アズレークの手が後頭部にするりと回り込み、そのまま自身の胸の方へと抱き寄せる。さらに腰に腕が絡まり、私の体は完全にアズレークの胸の中に収まった。
この胸の中は心から安心できる……。
ドキドキよりも心が安堵で満たされていると。
「国王から釘を刺された」
「?」
「盛大な式は免除するからとっと式を挙げろと」
「!」
それはつまり……早く結ばれ、未来の最強魔術師を期待している――と言われているも同然だ。そう思うと安らいでいた気持ちが、ドキドキへと変わる。
「……国王がせっつくのも無理はない。たとえ番(つがい)と結ばれても、子はできにくいと言われているからな」
「え、そうなの?」
アズレークは返事の代わりに私の髪に顔を埋めた。
「そもそもブラックドラゴンは……ドラゴンは長寿だが、その長い寿命の中で、子を成すのは1度か2度だと伝えられている。そもそもが子を成しにくいのだ。その血を引く私達もおそらくなかなか子はできないだろう。だから国王は早いうちから励め……と思っているようだ」
それは……知らなかった。
ドラゴンだからそうなのだろうか? 他の聖獣もそうなのかしら?
「ドラゴンは特に特殊だと言われている。実物を見たことはないが、その姿はとても巨大だ。その上、長命で個体数が増えて行くと大変なことになる。食料もしかり、縄張り争いもしかりだ。だから子をなかなか成さないのだとか」
「なるほど……」
そこでアズレークは突然、私の顎を持ち上げ、自分の方へ向けた。
シャンデリアの明かりを受け、キラキラと輝く黒曜石のような瞳で私を見ると……。
「国王から請われてはな。それこそ王命だ。パトリシア、式を挙げたら覚悟することだな」
「えっ!?」
「式を挙げたら1カ月の休暇、その後も極力を残業減らし、屋敷に帰るようにと言われているから」
言わんとすることをじわじわ理解し、私が顔を赤くすると、アズレークは楽しそうに笑い、私から離れる。するとその姿はレオナルドに変っていた。
「パトリシア。そのドレスは少し胸元が開き過ぎていると思う。そしてそのアザレ色はよく似合っているが……。赤系統の色は興奮をもたらす。僕と同じ白色のドレスに着替えてもらっていいかな」
今日の昼食は。
アルベルトと三騎士も一緒だった。
執務室に迎えにいったし、その時にこのドレスを見ている。でもそこでは何も言わなかった。それなのに今、こんなことを言うということは……。
間違いない。
アズレークはまだ会ったことのないロレンソをとても意識している。
嫉妬? いや、聖獣としての本能がそうさせている。
アルベルトや三騎士のことはよく分かっているから警戒しない。
でもロレンソのことは情報でしか知らないのだ。
しかも私に一度触れているから……。
「でもドレスを着替えるにはまだ早い。こっちへおいで、パトリシア」
ソファに座ったレオナルドが悠然と微笑む。
その美貌でその微笑みは……。
心臓がドキリとしてしまう。
ドキドキしながらソファへと近づくと。
レオナルドが再びクスリと笑ったが。
次の瞬間にはアズレークの姿に戻っている。
本当にこの早変わりは不思議。
でもアズレークを見るとどうしたって嬉しくなってしまい。
私はそのままソファに座るアズレークに抱きついた。
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次回は20時~22時に『そんなに照れなくてもいいのに』を更新します。
明日は月曜日なので遅くない時間に公開するようにします。
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