8:突然の出来事
今日の昼食も大成功だった。
アルベルトも三騎士も様々な種類のキッシュを楽しみ、初めて食べるポテトコロッケに驚き、美味しいと感動してくれた。しかも、アルベルトがいるからか。庭園の一角にテーブルと椅子が用意されていた。テーブルには真っ白なクロスが敷かれ、メイドが紅茶を当たり前のように運んでくれる。
真っ白なお皿が並べられ、カトラリーも揃えてくれていた。
もはや気軽な昼食などではなく、昼食会の様相を呈している。三騎士が同席しているが、少し離れた場所には警備の騎士の姿もあり、何も知らずに休憩にやってきた役人達が驚いていた。
「パトリシアさま、今日はプラサナスのメンバーが再集合したみたいで、楽しかったですね!」
昼食会を終えた帰りの馬車で、スノーは嬉しそうに私に抱きつく。
「そうね、スノー。みんな元気そうで何よりだったわ」
「王太子さまに不穏なオーラは一切ないですし、他の皆さんも問題なかったですよ」
スノーは。
ゴーストは勿論、呪いの類を見ることが出来た。
それはスノーが本当はミニブタであり、アズレークの変身魔法で人の姿しているから見ることが出来るのか、それは謎であるが。ともかくスノーは、アルベルトにかかっていたカロリーナの呪いを見ることもできた稀有な存在だった。
「ええ。もう災厄は去った。後はみんな幸せになるだけよ」
スノーが私に静かに寄り添う。
お腹がいっぱいになり眠たくなったようだ。
そのままその小さな肩を抱き寄せる。
本当に。
スノーは妹みたいだ。
妹であり、仲間であり、苦難を共にした大切な存在。
そんな風に思っていると。
スノーの眠気が私にも移ったようで、そのままウトウトしていた。
ガタンと突然馬車が止まり、衝撃で座席から放り出されそうになったのだが。スノーがものすごい力で私を掴んでくれていた。おかげで、前面の座先に激突せずに済んだ。スノーがこんなに怪力とは知らなかったので驚いてしまう。でも眠りの香をかがせた騎士二人の体を、スノーは楽々と支えていたことを思い出す。
「スノー、ありがとう。助かったわ。大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫ですよ。パトリシアさまこそ、大丈夫ですか?」
「スノーが咄嗟に助けてくれたから」
するとそこに御者が真っ青な顔でやってきた。
扉を開けると被っていた帽子を握りしめている。
「パトリシアさま、大変申し訳ございません。突然、少女が飛び出してきて。避けきれませんでした」
「えっ!? まさか、轢いてしまったの!?」
衝撃で血の気が引く。
心臓が嫌な鼓動を響かせている。
「今、相方が確認していますが……」
すぐに馬車を降り、もう一人の御者の元へ向かう。
御者は確かに横たわる少女に声をかけていた。
「怪我は? どこか怪我をしているの?」
私の声に御者が慌てて振り返る。
「パ、パトリシアさま……! 申し訳ございません。急に飛び出してきたので、避けきれなく」
「それよりも怪我は?」
そのまま少女に歩み寄ると。
ぐったりしているが意識はある。
泣いたりもせず、虚ろな瞳でこちらを見ていた。
ざっと見る限り、擦り傷程度で激しい出血など見られない。
「怖い思いをしたわね。どこか痛いところはある?」
尋ねながらしゃがみ、擦り傷に手を当て魔法を唱える。
アズレークの屋敷には、魔法を練習できる部屋があった。そこにはアズレークの魔法が何重にも施されており、火や水を使おうが、爆発や爆風を起こそうが、破壊されることはない。その部屋で毎日のように特訓していた魔法。それは回復系の魔法だった。
私が魔法を使えるかもしれない、と気付けたのは、徹夜の舞踏会で疲れ切ったアルベルトや三騎士を癒したいと思ったのがきっかけだった。だからということもあり、傷や病気の治癒に役立つ魔法を積極的に覚えるようにしていた。
ということで見える範囲の傷は魔法で癒すことができている。
人通りの多い道ではなかったのが幸いだ。
野次馬は現れず、落ち着いて対処ができた。
「目で見える傷は癒すことができたけど……。骨折やヒビが入った場所があるかもしれないわ」
「素晴らしい腕前ですね。魔法で怪我を癒せるなんて」
突然声をかけられ、驚いて振り返ると。
シルクハットを被り、手にはステッキ。片眼鏡をかけ、黒のテールコート姿の美貌の男性が立っていた。珍しい白藤色の髪に、白金色の瞳をしている。
「突然、声をかけてしまい、申し訳ありません。わたしはこの近くで開業医をしているロレンソと申します。よろしければ私の診療所に運び、外傷以外の怪我がないか、確認しましょうか」
「まあ、医師の方だったのですね。ぜひお願いしてもいいですか?」
「勿論です。あなたも一緒についてこられますか?」
「はい。私が乗っている馬車が起こした事故ですので」
するとロレンソは不思議そうに私を見て笑顔になった。
今、笑う場面?と思った私は。
少し不快そうな表情になってしまったのだろう。
それに気づいたロレンソが慌てて謝罪の言葉を口にした。
「失礼しました。どう見ても上流貴族の方なのに、優しい心をお持ちだと、感動し、嬉しくなってしまったのです」
お読みいただき、ありがとうございます!
さりげなく新キャラクター登場しました。
次回は明日『心優しい青年』を更新します。
引き続きお楽しみいただけると幸いです!



























































