1:王都に戻って一ヶ月
王都に戻ってから一ヶ月が過ぎた。
その間に起きたことは……沢山ある。
王都に到着したその日。
ひとまずアズレークの屋敷に案内され、スノーと二人、用意された部屋に落ち着いたが。アズレークはすぐに王宮へと向かった。
そこからはドルレアン公爵とその娘カロリーナの様々な悪事に関する裁判が怒涛の勢いで行われ、ドルレアン公爵は爵位剥奪の上、国外追放になった。一族郎党そのすべてが。
本来なら断頭台送りも相当な悪事もあったのだが、王太子のアルベルトは自身を呪ったカロリーナを許した。愛のない婚約をしていたことで、カロリーナの心が闇に落ちたのであり、その責任の一部は自分にもあると言って。
アルベルトは優しい。この優しさでカロリーナが自分のやったことを後悔し、悔い改めることを願うばかりだ。
下された判決は即日執行され、ドルレアン一族とその家臣や召使い達はすべて、ガレシア王国から去っていた。
代わりに王都に戻ってきたのは……。
ベラスケス公爵の一族だ。
みんな、ガレシア王国内のあちこちに散っていたが。
再会できた。
家族全員と。
少しやつれたり、痩せたり、多少の変化はあったものの。
みんな、元気だった。
病気になることもなく、それぞれの場所で精一杯頑張っていた。
懐かしい屋敷で家族と再会し、そこでアズレーク……魔術師レオナルドを紹介し、私達の婚約についても話された。既に国王陛下夫妻から、両親には魔術師レオナルドと私の婚約を認めるという書簡が届けられていた。国としては、最強の魔術師のレオナルドとその番である私との結婚は、絶対に敢行させたいと思っている。もはや両親には事後報告にも近い状態だった。
「パトリシア、お前の幸せが一番だ。魔術師レオナルドさまのことを愛しているなら、結婚に我々が反対するわけないよ」
そう父に言ってもらい、母も同意してくれた。
つまりアズレークと私の婚約はすぐに認められ、そのままアズレークの屋敷で暮らすことも、家族から受け入れたわけだ。
そこからは本格的にアズレークの屋敷で私とスノーが暮らしていくための準備に追われることになる。私が魔法の使い方に慣れていれば、ドレスの用意もできただろうが。まだまだ未熟。魔法の練習用に用意された部屋で日々、特訓に励んでいる。
本当は。
アズレークがプラサナスにいた時のように。
手取り足取り教えてくれれば、上達は早いのだろうけど。
今、アズレークはものすごく忙しい。
屋敷にはなるべく帰ってきてくれるようにしているのだが……。
でもその帰宅はとんでもない深夜で私は寝ており、アズレークもそのまますぐ寝て、翌朝一番で屋敷を出て行く。
その結果。
アズレークと顔を合わせ、ゆっくり話す機会は……数える程しかない。それは国王陛下夫妻に婚約の報告を行う時だったり、お互いの両親に会う時だったり。しかもそういった時は、アズレークではなく魔術師レオナルドの姿。
この姿には……初めて会ってから一ヶ月経つが、まだ慣れない。一ヶ月は経つが、実質会った回数は数える程しかなく……。慣れたいと思うが、慣れる程一緒にいられる時間もない。
「パトリシアさま、アズレークさまと全然会えなくて、スノーはつまらないです」
「仕方ないわ、スノー。いろいろな事件があって、その後処理に追われているのよ、アズレークは。でもそろそろ落ち着くと思うわ」
「ふうーん。以前は毎日のようにスノーともパトリシアさまとも一緒にいてくれたのに」
それはアルベルトにかけられた呪いを解く必要があったからだ。アルベルトは王太子であり、この国の未来。そのアルベルトを救うためだったら、いくらでもアズレークは時間を使うことができた。でも今は状況が違うわけで……。
つい先日までは。
スノーも私もこの屋敷で暮らしていくための準備に追われていたが、それもひと段落した。魔法の特訓もしているが、そもそも私の魔力はアズレークほどはない。休息して回復させないと、魔力切れとなり、魔法は使えなくなる。だから時間があるから魔法の練習を行う……というわけにもいかない。以前のようにアズレークが私に魔力を分けてくれるなら、話は別だけど……。
アズレークが魔力を分ける。
つまりは魔力を私に送り込む。
プラサナスの地で、毎日のようにアズレークから魔力を送られた時のことを思い出してしまう。静かに私の顎を持ち上げ、顔を近づけて……。
口の中に流れ込んでくる熱の塊。口腔内に入り込んだ熱の塊は、喉の奥へと伝っていく。心臓がドクドクと大きな音を立て、体がじんわりと温かくなる。どんどん体温が上昇し、口の中も喉も温かくなり……。
「パトリシアさま、どうされましたか?」
スノーの声に我に返る。
あの時のことを思い出し、ドキドキしてしまうなんて。
おへその下あたりが、脈打つように熱く感じる。
番であることを示す痣――逆鱗がそこにはあった。
「なんでもないわ、スノー。……そうだ、いいことを思いついたわ」
ニッコリ笑顔で私はスノーを見た。
お読みいただき、ありがとうございます!
視点更新かSSを用意しようと思っていたのですが。
SSにしては長くなりそう……でしたので
続編という形で更新していくことにしました。
ただ書きながらの更新という初の形になるので
どうか温かく見守っていただければ幸いです。
ひとまずもう1話をこの後、13時までに公開します。



























































