アルベルト視点(3)69話と70話をつなぐ69.5話
短剣が振り下ろされた瞬間。
閃光が走り、とんでもない衝撃を胸に感じた。
同時に。
意識を失ったらしい聖女オリビアが、わたしの胸へと倒れこんでくる。
ひとまず、彼女のことは受け止めた。
体勢的にそうするしかないのだから。
どう考えても彼女は意識を失っている。
不思議だった。
とんでもない衝撃を受けたのに、わたしは意識を失うこともない。
むしろ。
とてもスッキリし、サッパリし……。
鉛のように重かった体が、軽くなっていると感じる。
体中に力がみなぎるようだ。
聖女オリビアが目覚める気配はない。
三騎士を呼ぶことを考えたが。
わたしは短剣を胸に受けたが生きている。
何が起きたか考える必要がありそうだ。
ひとまず聖女オリビアはベッドにそのままにして、バスルームへ向かった。
バスルームの鏡を見た瞬間。
自分が自分であり、自分ではないように感じた。
なんというのだろう。
そうだ、覇気だ。
一年以上前に失ってしまった心の強さ、前向きさのようなものが戻ってきた。
鏡に映る自分の顔は、積み上げてきた努力に裏打ちされた自信で満ちている。
もしや……。
「心を和ませ 体を温め 至福の時間を与える湯で満たせ」
バスタブに向け呪文を唱えると……。
そこには湯が満ちて行く。
間違いない。魔力が戻っている。
不調も改善されたということだ。
これは、つまり、、、
カロリーナの呪いが解けたのか……!
心臓が喜びで弾み始めたが。
魔術師レオナルドは。
「王太子さまが愛する人、もしくは、王太子さまを愛する人が、王太子さまを殺そうとすることで、呪いを解くができる」
そう言っていたはずだ。
だが今、わたしの身に起きたことは――。
「殺そうとする」ではなく、「殺そうとした」だろう。
なぜなら短剣は、確かにわたしの心臓を穿ったのだから。
そこで着ていた寝間着を脱ぎ、上半身裸の姿を鏡で見るが。
胸に傷はない。
「どういうことだ……?」
思わず独り呟く。
魔法が使われた。それは間違いない。
どんな魔法だ?
……わたしの不調は突然解消された。つまり、カロリーナの呪いが解けた。
つまり、わたしを愛する聖女オリビアが、短剣でわたしの心臓を穿つことで呪いが解けた。
殺そうとする――それだけで呪いは解けたはずだ。でも実際に穿ったということは……そうか。物理的に呪いを破壊した、というところか。
しかし。
聖女オリビアがわたしを愛している……?
そうなのか?
わたしの心はパトリシアにある。
懸命な姿に、パトリシアと聖女オリビアを重ねそうになることもあった。
だが決してわたしは聖女オリビアを愛しているわけではない。
そうなると聖女オリビアがわたしを愛し、魔術師レオナルドに協力したことになる。
それが真相だとして。
パトリシアは……?
ミネルバの宿での出会いが呪いを解く鍵になると、魔術師レオナルドの手紙には書かれていた。確かに呪いは解けたのだから、聖女オリビアとスノーという少女との出会いは、意味があった。
でも手紙の中で魔術師レオナルドは、パトリシアを見つけたと書いていた。さらにパトリシアがわたしの呪いを解く間に、ドルレアン公爵の悪事を白日の下にさらすと書かれていたのだ。
どこにいる、パトリシアは?
ひまず脱いでいた寝間着を着た。
聖女オリビアが私の寝室に来たということは、三騎士と警備の騎士を制圧している。まさかか弱き聖女に、三騎士がやられるなんて……。武力では無理だろう。何か薬を使ったのではと予想する。
三騎士と警備の騎士の様子を見るため、バスルームを出ると。
カリカリと爪で木を研ぐような音がする。
部屋の明かりはつけていないので、暗い。
目を閉じ、耳に集中し、音がする方向を捉える。
寝室の入口のドアだ。
ドアノブを掴み、唱えるべき魔法を頭に思い浮かべる。
目くらましをするなら、光の魔法がいいだろう。
ドアノブを回し、グッと押すと。
応接室は真っ暗で誰もいないが、足元に何かがぶつかる。
「なんだ!?」
何か小動物が部屋に飛び込んできた。
目を凝らすと、猫ぐらいのサイズの白い動物が、部屋の中を駆けているのが見える。
魔法を詠唱すると。
小動物は、その場でコロンと転がった。
眠りの魔法で眠らせた。
近寄り、手元を光の魔法で照らすと……。
ミニブタ……?
真っ白なミニブタが転がっている。
なぜ応接室にミニブタがいた……?
全く理解ができない。
しかもわたしの呪いを解く行動に、このミニブタが関わっていたのかどうかも分からなかった。ひとまずミニブタを抱え、応接室へと向かう。
応接室の床で、眠らされているミゲルと二人の警備の騎士を発見することになった。二人の警備の騎士はすぐに目覚めたが、ミゲルの眠りは深い。これはかなり強い魔法で眠らされている可能性が高かった。無理に起こすのはやめ、警備の騎士に事情を聞く。ミゲルのことは部屋に運ばせることにした。
警備の騎士の話を聞く限り。
聖女オリビアがわたしの呪いを解くため、周到に立てた計画を元に、寝室へ来たことは間違いない。しかも聖女でありながら魔法を使える……?
彼女が本当は何者なのか。
それは気になるが、目覚めたら本人に聞けばいい。
それよりもパトリシアだ。
ミゲルを部屋に運ばせた警備の騎士には、ルイスを起こし、連れて来るように命じてある。ルイスが来たら、パトリシアを探すよう指示を出すつもりだったが。
聖女オリビアは、わたしのベッドで意識がない状態。
さすがにこのまま朝まで、わたしのベッドで寝かせておくわけにいかない。
この部屋には使っていないベッドルームがもう一つあった。そこに彼女を運ぼう。
寝室に戻り、ベッドへ近づく。
起こすのは可哀そうだと思い、寝室の明かりはつけていない。
だが応接室の明かりはついており、寝室のドアは開けてある。
だから部屋の中はうっすらと明るい。
「……!」
聖女オリビアの髪は、プラチナブロンドでストレートだったと思うのだが。
十分に明るいとはいえない状況だが、その髪は波打つようなブロンドに見える。
まさか……。
横向きの聖女オリビアの顔をこちらへ向けると。
「……パトリシア!」
間違いない。
この目元、鼻、ぷっくりとした唇。
魔法で変身していたのか? それがさっきの衝撃で解けたのか?
「パトリシア……!」
その華奢な体を抱きしめる。
感じる。
パトリシアの香り、体温、柔らかさ。
夢の中で抱きしめたパトリシアは、花びらとなって消えてしまったが。
目の前にいるパトリシアは。
無防備なまま、静かにわたしの腕の中で、抱きしめられたままでいた。
お読みいただきありがとうございました!
皆様、お楽しみいただけましたか?
次回もあるエピソードと次のエピソードをつなぐ
本作では初となる人物での視点更新を予定しています。
つまり完全新エピソード。
誰のどんな視点のエピソードになるのか。
推理しながらお待ちいただけると幸いです♡
ブックマーク登録がまだの方は
更新通知を拾うため、登録いかがでしょうか~
一味違う異世界召喚もののご紹介♪
『異世界召喚されたら供物だった件
~俺、生き残れる?~』
https://ncode.syosetu.com/n0117hx/
ベリル:美少女ヴァンパイア
拓 海:主人公
人間とヴァンパイアという相反する関係の二人は
その関係を覆すことができるのか!?
沢山の事件を経て、やがて二人は……。
本作品は登場人物にイケメンが多いです。
恋愛にまつわる描写は女性の皆さんでも
キュンとする要素の方が多いと思います。
ただ、主人公への吸血シーンがR15。
よってR15シーンは度々登場。
苦手な方は、す、すみません!
でも男主人公ですが
女性読者様も楽しめるよう
配慮した作品です。
ですのでぜひ一度遊びに来てください♪
それではまたお会いしましょうヾ(≧▽≦)ノ



























































