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エンドリア物語~天才召喚魔術師は問題児。厄災を招き不幸をもたらす。おもにオレに~  作者: あまみつ
第2章 Village With Stone <古代遺跡と教団と>
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投げ掛けられた疑問

「どうする、ウィル」

 ララは4番目の扉を、こつこつと叩いた。

 3番目の扉からは、でることはできない。

 救助を待つにしても、この小さな部屋に4人では空気が足りないだろう。

「そこの扉を開けるしか、ないだろうな」

「それはそうなんだけど…」

 ララが扉をふさぐように、よりかかった。

「…先に聞きたいわ。

 この扉の向こうで、何がおこったのかを」

「このような事態になっても、まだいうのか!」

 ドレイファスが、ララをにらみつける。

「ふん、あんた達の嘘くさい話を信じて、この扉を開けるわけいにいかないのよ。

 ねえ、ウィル」

 ドレイファスの怒りに火をつけて、さらに油を注いで、オレに渡すララ。

「おぬしも、そう思うのか!!」

 オレは頭をポリポリとかいた。

「あのな、ララがあんたたちの話が嘘だと、なぜ断言できると思うか?」

 ドレイファスとクリスティンが、顔を見合わせる。

「そのようなことをいって、ひっかけようとしても、ダメですわ」

 クリスティンが、探るような目でオレを見た。

「さっき、オレ達にいったよな、異次元モンスターを教団が退治したと」

 クリスティンが、小さくうなずいた。

「…ええ」

「この扉を開けたら、異次元モンスターがでてくるかもしれないとも、言ったよな」

「はい」

「だったら、教えてくれ。

 教団が退治したモンスターは、どんなモンスターで、どうやって退治したんだ?

 この扉から、クリスはどんなモンスターが出てくると思うんだ?」

「…でてきたのは、白い竜のようなモンスターで、教団の魔術師が炎で焼いたそうです。

 ここからでてくるモンスターは、大型の狼のような姿をしているそうです」

 クリスティンは落ちついているが、声に張りがない。

「ムー、本当か?」

「白い竜しゃん、いましゅ。けど、ダメっしゅ。

 狼しゃん、ここでしゅ。けど、ちゃいます」

 バシッ!と音がした。

 ムーの頬が、みるみる赤く腫れていく。

「あたしに、わかるように話せといっているでしょ!!!」

「ララしゃん、痛いでしゅ…」

「もう、一発、食らいたい?」

「異次元モンスターの研究書に白い竜の記録がありましゅ。

 クリスティンしゃんの持っている紫水晶のオーブと同じ波動を発することができましゅ。

 だから、ここの扉を開けることはできましゅが、白い竜は次元が違うしゅ。

 ここの異次元通路からでること、ありえましぇん」

 クリスティンが、唇をかんだ。

 まさか、ムーがこれほどの知識を持っているとは思わなかったのだろう。

「ここの穴のモンスターしゃんは、大きくて黒い狼しゃんです。

 大きいでしゅ。

 だから、この扉からでられましぇん」

 ララがムーの額を、爪で弾いた。

「出られないんだったら、穴を閉じにこなくてもよかったんじゃないの?」

「扉からは出られないんでしゅけど、

 狼しゃん、全部、壊せましゅ。

 外、出られましゅ」

「じゃ、しかたなわいねえ」

 のんきな口調で会話しているムーとララを、複雑そうな顔で見ているクリスティン。

「なあ、クリス」

「なんでしょうか、ウィル」

「異次元モンスターをみたことがないだろ?」

 クリスティンは、目をわずかに見開いた。

 ララが「やっぱねぇ」と、薄く笑う。

「ムー」

 額をさすっているムーが、オレを見あげる。

「なんでしゅか」

「白い竜のモンスター、火で倒せるか?」

「はははっ、でしゅ」

「ララに殴られるぞ」

「炎では、倒せしぇません」

「なになら、倒せる?」

「異次元モンスターを倒す魔術は存在しましぇん」

 クリスティンが「うそ…」と、つぶやいた。

「本当でしゅ」

「うそよ、うそ!

 だって、デモン系は神聖魔法で倒せるわ!

 それに、精霊だって魔法で倒せるじゃない!」

 ムーが困った顔をした。

「勘違いしてましゅ」

「倒せるわよ、私、インキュバスを倒したわ!

 たしかに死んでいたわ!」

「違うんでしゅ。

 デモンも精霊もちゃんと倒せましゅ。

 でも、どっちも異次元モンスターじゃありましぇん」

「…なにを言っているの?」

「デモンは魔界の生物でしゅ。

 精霊はエネルギー生命体でしゅ」

「あのな、クリス。

 オレが見た異次元モンスターは、一分で蛾になる巨大イモムシと紐でできた馬と半透明の空飛ぶイルカだった」

 クリスティンが、うつろな目でオレを見た。

「なんですか、それ?」

「ようするに、まともな生き物じゃなかったってことさ」

 イモムシは、土をえぐった。

 馬もイルカも、重力を無視した。

 おそらく、異次元モンスターはこの世界に影響を及ぼせるが、この世界はモンスターに影響を与えらないのだ。

「すると、この扉の向こうの狼も…」

 クリスティンの顔に、はっきりとした恐怖が浮かんだ。

 ララの手に、ナイフが現れた。

「部屋の空気も少なくなってきたわ。

 そろそろ、十年前のこと、詳しく話してくれない。ドレイファスさん」


 息詰まるような数秒後、ドレイファスは苦笑いを浮かべた。

「なぜ、私に聞くのだ?」

 ララはナイフの刃の切れ具合を試すかのように、親指でなぞった。

「この遺跡はストルゥナ教団の聖者メイジャーが指揮を執った異次元通路の研究に使われていたわ。

 10年前に、事故が起き、教団は遺跡は閉鎖したわ」

「そのとおりだ」

「死者50人を越すと言われている大事故の真相は、この扉の向こう死者と共に封印されたわ」

 ドレイファスが剣を構えた。

「きさま、なにがいいたい!」

「友達の盗賊が、教団の極秘資料から調べだしてくれたの。

 あの事故で、扉の向こうにいながら、たったひとりだけ生き残った人物がいることを」

「それが私だとしたら、どうだというのだ」

「どんな理由なのか知らないけれど、

 あんたには、この部屋に入りたかったんじゃないの?ドレイファス」

 ララがナイフを指でクルリと回していた。

「でも、この部屋の秘密を知っているあんたは、自分だけでは入れないことも知っていた。

 最近になって、あんたはムーの存在を知った。

 ムーを利用すれば、扉の向こうに入れる。

 そこで、あんたはいもしない異次元モンスター騒ぎをでっち上げ、

 教会にムーと自分を派遣するようにしむけた」

「おもしろ話だ。

 すべて、きさまの想像だがな」

「そうなのよねえ。

 証拠がないのよ、証拠が。

 異次元モンスターを見たという村人も、倒したという 教会魔術師もどこかに消えちゃったのよ。

 あんた、知らない?」

「私が殺したとでもいいたいのか?」

 ララが肩をすくめた。

「まさか」

 ララの唇から、笑いは消えない。

 ドレイファスが、剣を握りなおした。

 両刃の剣を、ララの真正面にすえられる。

「うるさいぞ、暗殺者。さっさと、そこをどけ!」

「あら、やろうっていうの?」

「おとなしくどけば、見逃してやる」

「あんた、忘れたの?

 教会で、あたしに針ネズミにされたのを」

「あのときは油断したが、今度はそうはいかない」

「今度も同じよ」

「行くぞ、暗殺者」

 ドレイファスが、けさがけに斬りつけた。

 ナイフで受けたララは、そのまま、ナイフの刃で剣を滑らせる。

「甘い!」

 ドレイファスが、剣を返した。

 上へと跳ね上がった剣を、ララは長針で受けた。

「本気で、切ろうとしたわね」

 ララが唇を、ペロリとなめた。

「邪魔する者は切る!」

 剣が長針を、はじき飛ばした。

 オレの上着を、小さな手がひっぱった。

「なんだ?」

「ララしゃん…」

「大丈夫だ」

「でも…」

 ムーは、大きな目を不安でいっぱいになっている。

「口ほどにもないな、暗殺者!」

 長針を失ったララの手に、剣が振り下ろされた。

 間一髪で新しい長針が、現れる。

 キィーンと、高い金属音が響く。

「安心しろ。ララは殺されたりしない」

 ムーの首がフルフルと横に振られた。

「違いましゅ」

「なにが、違うんだ?」

 ドレイファスが、一歩下がった。

 剣を頭上高く掲げた。

「終わりにしてやる、暗殺者」

 ドレイファスは、高くジャンプした。

 全体重をのせた剣が、

 ララの頭上にめがけて、振り下ろされた。

 ガツンという衝撃音が、部屋に響いた。

「ララ!」

「ララしゃん!」

 4番目の扉に刺さっている、ドレイファスの長剣。

 床に身体を滑らせて、剣をさけたララの足が、

 ドレイファスの股間に、食い込んでいる。

「なに考えているのよ、このボケ!」

 ララの暴言に、いいかえそうとしたドレイファスだが、

 苦しそうに体を折ると、股間を押さえて丸まった。

「本番は、これからよ」

 うれしそうなララ。

 両手に、ずらりと現れた長針。

 とめる間もなく、ドレイファスの身体に突き刺さった。

「あー、やっちゃった、しゅ」

「なんか文句あるの、ムー?」

 ララの手に、再び現れている長針。

「ドレイファスしゃん、お話、途中でしゅ」

「いいのよ、あとで聞けば」

「ララしゃん、殺してましぇん?」

「麻痺針を打っただけよ。

 手も足も動かないけれど、痛みも、意識もあるわよ」

 ムーがホッと胸をなぜた。

「よかったでしゅ。

 ララしゃん、暗殺、お仕事でしゅから、

 殺しちゃったかと思いましゅた」

「殺すわけないでしょ」

「そうでしゅよね。ごめん、しゅ」

 ムーが、ペコリと頭をさげた。

「当たり前でしょ!」

 きっぱりと言った。

「殺しは、別料金よ!」

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