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エンドリア物語~天才召喚魔術師は問題児。厄災を招き不幸をもたらす。おもにオレに~  作者: あまみつ
第2章 Village With Stone <古代遺跡と教団と>
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ルゴモ村の夜

 ルゴモ村へ向かったのは、オレ達が教会に呼ばれた翌日だ。

 朝霧がたちこめる早朝の旅立ちとなった。

「ムー、しっかりつかまっていろよ」

「はい、でしゅ」

 メンバーは、教会の護衛2人と、ムーとララとオレ。

 一刻を争う事態だというので、街道が通っているルゴモ村までは馬で行くこととなった。

 馬に乗れないムーは、オレの馬に同乗。

「ペトリ殿、よろしければ私の馬に」

 教会からの護衛は、オレを捕まえたロビン・ドレイファスと女司祭のクリスティン・ショア。

 ドレイファスは剣だけでなく、魔術も使えるらしい。旅のスタイルも、騎士らしく、長剣に鎧にマントだ。

「ありがとう、ドレイファス。でも、ウィル・バーカーは、長いつきあいで私のことをわかっていますから」

 普通に話すムー。

 長くなどない。卒業試験の期間だけだ。

「ペトリ様は、バーカー殿を信頼されているのですね」

 クリスティン・ショアが、ムーに微笑みかける。

 神聖魔法と白魔法を使えるクリスティンは、20歳だというのに司祭という高位についている。

 よほどの使い手らしい。

「シュアさん、バーカー殿はやめてください。ウィルでいいです」

「わかりました。そのかわり、私のことも、クリスと呼んでいただけます?」

 輝きのある青い瞳が、楽しそうにオレを見る。

「わかりました。クリス」

 ドレイファスが、馬の首を巡らせた。

「ペトリ殿、そろそろ出発しませんと…」

「そうですね。それでは、出発」

 ムーの合図をうけて、オレ達は馬を走らせた。

 先頭は、道を知っているというドレイファス。

 次にララ、オレ、最後尾に、クリスティン。

 ララはいまだに不満らしく、馬を走らせながらもブツブツと文句をいっている。

「なんで、あたしが護衛なんてしなくちゃいけないのよ。あたしは、暗殺者よ。護衛をされているヤツを殺すのが仕事なのよ」

「いい加減、あきらめろよ、ララ」

「わかっているわよ。でも、この仕事だけはイヤなの」

「護衛も、これからの勉強になるだろ」

「違うわよ」

 ララが鼻息も荒く断言した。

「ムーが雇い主っていうのが、許せないのよ!」

 オレの背中に張りついていたムーが「うぴゅぴゅ」と笑った。

 次の瞬間、ムーが弾け飛んだ。

「あれぇーーーーーーでしゅーーー」という長い悲鳴は、道脇の雑木林に消えていった。

「ペトリ殿!」

「ペトリ様!」

 ドレイファスとクリスティンが、慌てて馬を止め、探しに行った。

 ムーを鋼線で飛ばした犯人は、そのまま、ゆうゆうと馬を走らせ、

「ルゴモ村で、待っているわね」と、先にいってしまった。


 オレ達がルゴモ村についたのは、夕刻を過ぎていた。

 ルゴモ村には宿がないということで、空き家を一軒、教団が借りていておいてくれる約束になっていた。

 村の名を刻んだ門を抜けると、ドレイファスは懐かしそうに見回した。

「前に来たことがあるのですか?」

 クリスティンが聞くと、ドレイファスはうなずいた。

「十年ほど前だ。あの頃に比べると、さびれたものだ」

 陽はまだ西の空にあるというのに、人影はない。

 木でできた小屋が、点在して建っているが、

 小屋のほとんどは半壊しており、住んでいる様子はない。

「この村がさびれた原因は、あの事故ですか?」

 クリスティンが声を潜めてドレイファスに聞いた。オレ達に聞かれたくないのか、囁くような声だったが、村の静けさがオレの耳にしっかりと声を届けた。

「…知らぬ。私はあれ以来、きたことがないのでな」

 やはり、小声で返すドレイファス。

 事故とやらについては、オレ達に説明する気はないようだ。

 ひとけのない村を、ぐるりと見回したドレイファスは、馬の手綱を握ると、

「ペトリ殿、教団が借りました家は、こちらのほうにあります」と、先に立って歩き始めた。

 ドレイファスに案内された家は、村のほぼ中心に建っていた。家というよりは大きめの小屋といったところだ。屋根と外壁だけで、窓も床もない。

 クリスティンが荷物から出したロウソクに火を灯すと、部屋の隅にうずくまっている影が照らし出された。

「ララ!」

「ウィル。もう、着いたの?」

「どうしたんだ、そんなところで」

「なんでもないわ」

 すくっと立ち上がると「水をくんでくるわ」と、小屋の外に出て行った。

 オレとクリスティンは荷物から夕食用のパンと干し肉を用意し、ドレイファスが火をおこしたところで、ララが水の入った水筒を片手に戻ってきた。

 肉とパンと水で簡単な食事をしたオレ達は、明日に備えて寝ることにした。

「見張りだけど、誰が最初にする?」

 ララがオレとドレイファスを、交互に見た。

「オレがやろうか?」というと、ドレイファスが「ちょっとよろしいですか」とさえぎった。

「村の中ですから、襲われる危険はないと思われます。万が一ということもありますから、私がドアの前で寝るということで、どうでしょうか?」

 ムーは、ドアを見て、オレを見た。

 それから、ドレイファスを見た。

「ドアのところに眠られると、他の者が水を飲んだり、外に出たくなったときに不便でしょう。

 ドレイファス殿にはドアの右側に寝ていただき、左側にはウィルに寝てもらいましょう」

「ですが、ペトリ殿」

 ムーは、毛布を抱えると、

「それでは、先に眠らせていただきます」

 奥の方にトコトコといき、ゴロンと横たわった。

「あたしも、寝よーーー」

 ララがその隣に寝て、そのとなりにクリスティが「では、わたくしも」と、横になった。

 しかたなく、オレはドアの左横に横になり、毛布を掛けた。

 一日、馬を走らせた疲れで、オレはすぐに眠りに入った。

 

 夜もふけた頃、オレは動いた空気に、目が覚めた。

 扉から、影が出て行く。

 燃えるように赤い髪を、月明かりが映しだした。

 右腕に丸めた毛布を抱えている。

 オレは、壁にもたれて寝ているドレイファスをみた。

 気づいている様子はない。

 オレはドレイファスを起こさないよう、音をたてないよう外に出た。

 家の陰から陰へと走るララを追っていくと、村はずれにでた。

 井戸端に立つ木の陰に、ララの姿が消えた。

 オレは足音を忍ばせて近づいた。

「待っていたわ、ウィル」

 足元に毛布を置いたララが、幹に背をあずけていた。

「どういうことだ」

 詰め寄るオレに「ちょっと待って」と、言うと毛布を広げた。

 ゴロリと、ムーが転がり出る。

 熟睡しているらしく、起きそうもない。

「おい!」

「待ちなさいよ、ウィル」

 手でオレに座るようにうながす。

 渋々と座ったオレの横に、ララが腰を下ろした。

「このまま3人で、エンドリアに帰らない?」

「おまえ、まだ、ムーに雇われたことを、こだわっているのか?」

 ララが手を振って、否定した。

「まさか」

「だったら、なんだよ」

「おかしいと思わない?」

「なにが?」

「もし、教団の言うとおり、この遺跡の異次元通路が開いたとしたら、その処理はダイメンの魔法局か、ダイメンの聖神殿が行うはずよ」

 ララの言うとおりだ。

 オレもそのことは、考えた。

 そして、答えらしきものもみつけていた。

「穴を閉じられるのは、ムーだけと聞いたぜ。ムーがストルゥナ教団にいるから、教団がやることになったんだろう」

 ララがあきれた顔をした。

「ウィル、気づいていないの?」

「何を?」

「ムーの服をみてごらんなさいよ」

 無地の水色の上着、水色のズボン、卒業試験と同じだ。

 違ったところといえば、銀の短いマントだが…。

 ストルゥナ教団で、水色の服も、銀色のマントも着ていた者はいなかった。

 誰もが白い僧侶用ローブを着て、それに肩掛けや鎧を着ていた。

「ウィル。面白いこと教えてあげる」

 いたずらっぽい笑みを浮かべたララが、銀のマントをつまんだ。

「問題です。魔術師でこれを持っているのは?」

 そう言われて、思い当たった。

 銀のマントが、教団に関係するものだと思っていたオレは、考えもしなかった。

 だが、魔術師のマントとすれば、簡単すぎる問題だ。

「ルブクス協会賞の受賞者を示すマントだ」

 ララがニッコリとした。

「正解」

 ルブクス大陸の魔術師を統べるルブクス魔術協会が、優れた魔術師を選んで年に一度、褒賞としてマントを授ける。それは魔術師が個人的に属する教団や学園などは関係しない。また、賢者や聖者などという尊称とも違う。単純に魔術を極めた者や、すぐれた研究をして、それによって成果を得た者に贈られる、金のマントと銀のマントの、銀のマントだ。

「でもなぁ」

 オレが気づかなかった理由は、教団関係だと思っていたからだけじゃない。

「あたしも、本当に着るやつがいるとは思わなかったわ」

 トロフィーや賞状と同じ褒賞のひとつだ。ガラスケースに入れて飾るか、防虫剤と一緒にタンスにしまっておくか、が、普通だ。

「なあ、ララ」

「なによ」

「ムーが教団関係者じゃないことは、わかった。

 だったら、なぜ、ムーはストルゥナ教団といるんだ。

 なぜ、この村の遺跡の穴を閉じに来たんだ」

 ララが頬杖をついた。

「ひとつは、わかっているわ。

 この近辺で異次元の穴を閉じられるのは、ムーしかいないわ。これは間違いないわ。

 わからないのは、なぜ、ムーがストルゥナ教団との関係よ」

「直接、聞いてみるか?」

 答えを知っているムーは、足元でスピスピ寝ている。

「それでもいいけど、もし、このまま帰らないなら起こす前に、いくつか話しておきたいんだけれど」

「帰るかは、あとで話し合うとして聞いておくよ」

「そうね」

 ララは膝をたてると、膝の間に顎を乗せた。

「あたしが気にしている点を、順番にあげるわ。

 まず、なぜ、ムーがストルゥナ教団にいるのか?

 次に、なぜ、今回の異次元の穴ふさぎをストルゥナ教団がやるのか?

 ムーは、なぜ、ウィルとあたしを、今回のメンバーに加えたのか?」

「オレを加えたのは、夢をみたからだと言っていたぞ」

「それは事実かもしれない。

 でも、それにしてもムーのやり方は強引だわ。

 なにか、あたしたちに隠していることがあるのかもしれないわ」

「ああ、あるかもな」

 ムーがオレに頼んだときの真剣さは、異常ともいえるほどだった。

「まだ、気になっていることがあるわ。

 あたしたちが今夜泊まったあの小屋。

 村長に場所を聞いて、あたしが先にはいったんだけど、

 そのとき、毒の空気が充満していたの」

「えっ!」

 驚きの声をあげたオレの口を、ララの手がふさいだ。

「静かにしてよ」

 オレがうなずくと、ララは手を放した。

「わるい」

「気をつけてね」

「それで、大丈夫だったのか?」

「すぐに気がついたから、ドアを開け放したの。

 窓もないし、空気を入れ換えが終わったのは、ウィル達が着く少し前よ」

「オレ達を殺そうとしているやつがいるということか?」

 ララが「ええ」と、答えた。

「毒はあの家の土に巻かれていたわ。

 揮発性の毒を巻いて、犯人は小屋から出る。

 時間と共に毒は蒸発し、致死量の毒がただようことになる、っていうわけ」

「ひでーことをするな」

「あたし達は、ここに穴をふさぎに来ただけでしょう?

 命を狙われる理由はないわ。

 それなのに、命を狙われている」

「全員、殺そうとしたとは限らないだろ。

 オレ達の中のひとりを狙ったのかもしれないだろ?」

「もしそうなら、考えられる標的はムーなんだけど」

「そうだろうな」

「ムーが狙われてるとしても、相手も理由もわからないわ」

「ストルゥナ教団とムーとの繋がりについて、手がかりには何もないのか?」

「いまのところ、見つかってないわ。

 ムー自身、ストルゥナ教団を含め、宗教関係の団体に所属したことはないわ。

 ムーだけでなく、ムーの両親や祖父母、親戚関係まで調べたけれど、

 ペトリ一族でストルゥナ教団に入っている者はいないわ。

 魔術団体や宗教団体で働いているものも、ひとりもいないわ」

「そんなことまで、調べたのか」

 ララが髪を、バサッと手でかき上げた。

「当たり前でしょ、あたしは暗殺者よ。

 ターゲットについて調べるのは、当然の事よ」

「ターゲット、って。今回の仕事は、護衛だろ」

「細かいこと言わないでよ」

「他に調べたことは何かあるのか?」

 ララは「あとは…」と、少し考えたあと、

「ウィルは、ムーがいま、何をしているかは知っている?」と、聞いた。

「いや、知らない」

「家の手伝いよ」

「ムーの家は、店でも開いているのか?」

「ううん、農家。ペトリ一族は、エンドリアの由緒ある富農なのよ」

「チビのムーが、クワもって耕しているのか?」

「そこまでは調べなかったけど……」

 何かが引っかかった。

 話の中の、何かに引っかかったのだが、それが何だかわからない。

「ウィル、どうしたの、黙り込んで」

「いや、なんでもない」

 ララが立ち上がった。

「間もなく、夜が明けるわ。これから、どうする?」

「時間もないことだし、手っ取り早く、答えを知る方がいいんじゃないか」

「やっぱ、ウィルもそう思うわよね」

 うれしそうなララが、寝ているムーの耳をひっぱった。

「起きて、ムー」

「…あしゃ、でしゅか???」

 寝ぼけ眼をこすりこすり、ムーが起きあがった。

「…お陽しゃま、ないでしゅ」

 ばったりと倒れると、また、スピスピと寝息を立てている。

「このぉ…」

 ララの手が、ムーの口をふさぐと、耳をギューーーと引っぱった。

 ムーは目をパッチリと開いた。

 手に覆われた口からは、押し殺した悲鳴がもれる。

「ムー、素直に答えれば、痛いことはしないわ」

 ムーが、コクコクとうなずく。

「聞きたいことは3つ。

 ムーとストルゥナ教団の関係。

 今回の異次元の穴ふさぎを、なぜ教団がやるのか?

 なんで、ウィルとあたしを雇ったのか」

 口から手を静かに放した。

「ボクしゃん、教団から金貨200枚でお仕事でしゅ。

 穴ふしゃぎが教団なのか、知りましぇん。

 ウィルしゃんは、夢で教えてもらいましゅた。

 ララしゃんは、バシバシでしゅ」

「なによ、そのバシバシって」

「ボクしゃん殴ると、ドレイファスとクリスティンに叱られましゅ」

「あ、そういうこと」

 パンと、ムーの頬が鳴った。

「ララしゃん、痛くしない、言ったのに……」

「言ったけ?そんなこと」

 罪を微塵も感じていない声でいう。

 オレは目をウルウルさせているムーに、毛布を掛けてやった。

 毛布にクルリとくるまると、また、地面に横になった。

「ララ、情報は出そろったみたいだぞ」

 すべてが真実かは、わからないが。

「うーん、いまいちだったわね」というと、

紐を取り出して、長い髪を襟足でひとつに縛った。

「ちょっと、出かけてくるわ」

「おい、もう陽が昇るぞ。そしたら、出発だ」

「三時間、三時間で戻るわ。それまで、出発を引き延ばして」

「必ず、戻るな?」

「戻るわ」

 真っ直ぐにオレの目を受け止めるララ。

「わかった」

 ララが走り去る直前に言った。

「ウィル、頼んだわよ」

 足元のムーは、眠りの世界にまた入っている。

 スピスピと気持ちよさそうな寝息。

 毒が撒かれた。

 敵は近くにいる。

 ドレイファスも、クリスティンも、敵か味方かわからない。

 あと三時間。

 オレひとりで、ムーを守りきらなければならない。

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