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エンドリア物語~天才召喚魔術師は問題児。厄災を招き不幸をもたらす。おもにオレに~  作者: あまみつ
第2章 Village With Stone <古代遺跡と教団と>
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嵐の前の嵐

「いやぁ、つかれたでしゅ」

 ハーウッド司教に「私から説明するから、隣の部屋で待っているように」と、部屋から追い出したとたん、いつもの幼児語の戻った。

「それよりも、説明しろよ。どういうことなんだよ」

 ムーは舌をレロレロと動かして、

「なれない話しゅ方をしゅたから、舌がイタタでしゅ」と、また、舌をレロレロさせる。

「……ムー、さっさと話せよ。

 オレはこれからバーウェル交易商会に戻って、明日の旅支度をしないといけないんだ」

「あー、そのことでしゅたら、もう、終わりっしゅ」

「お前、まさか…」

「さっきのデブしゃんに頼んで、ごめんしたでしゅ」

 ハーウッド司教が、デブしゃん。

 オレのおっさんより、悪い。って、問題はそこじゃない。

「ごめんって、もしかして…」

「お仕事、なしゅにしてもらいましゅた」

「なんで、そんなことをするんだ!オレの都合は考えないのか!オレは旅に出るのを、楽しみにしていたんだぞ」

 ムーは両手をそろえて、ぺこりと頭を下げた。

「ウィルしゃんには、ゴメンでしゅ。でも、一緒に来てもらいたかったんでしゅ」

「オレは…」

 言葉に詰まった。

 いまから、バーウェル交易商会に戻っても、ストルゥナ教団からの頼みがあったとなると、旅に連れて行ってはくれないだろう。

「ウィルしゃん。お願いでしゅ。ボクしゃんと一緒にきてくだしゃい」

 ムーの声が真剣だ。

 いまさら、ジタバタしても、オレがバーウェル交易商会に戻れる見込みはない。

「ウィルしゃん」

「…とにかく、理由を話せよ」

「はい、でしゅ」

 ムーの短い指が、ルゴモ村を指した。

「知られてましぇんが、この村には、古代文明の遺跡がありましゅ。この間、誰かが、イタズラしたでしゅ」

「やっかいなことが、起こったのか?」

「はい、でしゅ」

 考える時間は0.001秒も必要なかった。

 オレは席を立つと、礼拝堂に続く扉を開いた。

「元気でな、ムー」

 部屋を出ようとしたオレは、入ってこようとする人影にぶつかった。

 ドレイファス分隊長が、ズカズカと部屋に入ってきた。

「さあ、来るんだ!」

 手に持った鎖をひっぱると、全身を鎖で巻かれた影が転がった。

「ララ!」

「ウィル!これは、どういうことよ!」

 鎖の間から、黒い眼がオレをにらんでいる。

「オレじゃない!」

「あんたじゃなければ…」

 ムーが、鎖巻きララの側にかがみこんだ。

「ボクでしゅ」

 鎖が跳ねた。

 まるで、生きているかのように、ムーに襲いかかる。

 キィーンと金属と金属がぶつかる音が響いた。

「邪魔するんじゃないわよ!」

 ララの鎖攻撃を、ドレイファスが剣に巻きつけて防いでいる。

「このドレイファスがいるかぎり、ペトリ殿にかすり傷すらつけさせはせぬ」

「あたしとやろうっていうの」

 ララの眼が、剣呑に細くなっていく。

 ドレイファスは自分の腕に自信があるようで、落ちついてララの出方を見ている。

 ララは学校にいるときから、先生達も舌を巻くほどの暗殺の技量をもっていたが、それより、卑怯で手段を選ばないという、恐ろしい技がある。

「戦うつもりはない。ペトリ殿を怪我をさせるわけにはいかないだけだ」

「それが、邪魔だっていうのよ!」

 ララの身体に巻き付いていた鎖が、一瞬でほどけた。

 ドレイファスは、すぐに自分の背中でムーをかばったが、自由になったララの身体は、壁を足がかりにして高く飛び、宙を一回転した。

「死ね!」

 細かい針が、部屋中に降り注ぐ。

「オレを巻き込むな!」

 間一髪で礼拝堂に転がり出たオレは、ハーウッド司教が逆の扉から入ってくるのを見た。

 全身針ねずみになって倒れているドレイファスに気づくと、青い顔でロッドを掲げて呪文を唱えた。

「いたぃーー!」

 頭を押さえたララが、苦しそうに床にうずくまった。

「誰か、誰か!」

 ハーウッド司教が呼んだ警備兵が、苦しんでいるララと針だらけになったドレイファスを連れて行った。

「すぐに戻りますので」と、ハーウッド司教も礼拝堂をでていき、残ったのは、オレとムーの二人だけ。

「ええと、どこまででしゅたっけ?」

「ルゴモ村の遺跡に、誰かがイタズラしたところまで」

 やけくそになっているオレの態度に気づかず「そうでしゅた」と言い、

「異次元に繋がる通路を、開けちゃったんでしゅ」と、話を続けた。

「そこで、異次元の穴をふさげる、お前が行くことになった」

「はい、でしゅ」

 話の筋は通っている。

 ムーと卒業試験を一緒に受けなければ、オレも納得しただろう。

「ムー」

「なんでしゅか?」

「お前、忘れていないか?」

「なにをでしゅ?」

「お前、異次元の穴をふさぐのに、よく失敗するといっていなかったか?」

 ムーが首をフルフルと横に振った。

「ちがいましゅ、ウィルしゃん」

 胸をグィとはると、

「穴をふさぐのに失敗しゅると、別のモンスターが来るしゅ、と、いったんでしゅ」

「同じだろう」

「ちがいましゅ」

「ならば、聞くが、成功と失敗とどっちが多い?」

「もちろん、失敗っしゅ」

「じゃ、元気でな」

 礼拝堂の出口に向かおうとしたオレの足に、ムーがしがみついた。

「ウィルしゃん、最後まで、聞いてくだしゃい!」

「オレは死にたくない!」

「お願いでしゅ、急がないと異次元モンスターが、遺跡から出てしゅまいましゅ!」

 涙声でムーが訴える。

 卒業試験の期間、長くはなかったが、短くもなかった。

 その間、ムーがこれほど必死になったのをオレは見たことがなかった。

「わかった。話は最後まで聞く。護衛を引き受けるか決めるのは、そのあとだ」

「ありがとうでしゅ」

 涙を袖でグイとぬぐうと、ムーは続きを話しはじめた。

「召喚魔術師が少ないのは、知ってましゅよね?」

「聞いたことがある。エンドリアの国中で十数人しかいないらしいな」

「はい、でしゅ。

 このエンドリアと隣国のダイメンと合わしぇても、異次元空間をふしゃげるのは、ラダミス島の賢者カウフマンとダイメンの北のハーン砦の賢者ダップとボクだけでしゅ」

「他のふたりが行った方が、無難なんじゃないか?」

「賢者カウフマンは、ゴールド・ドラゴンの長が来るとかで、ダメなんしゅ」

 そうなった原因は、ムー、お前だけどな。

「賢者ダップは、健康体操で腰を痛めたとかで動けないんでしゅ」

 無理するなよ、爺さん。

「それでお前しかいない、ということか?」

「はい、でしゅ」

「そこまでは、わかった。それで、なんで、オレを護衛に指名した?」

 ムーの大きな瞳が、パチパチと瞬きした。

「夢、でしゅ」

「夢、って、夜に寝ているときにみる、あの夢か?」

「はい、でしゅ。

 昨日の夜、ボクしゃんは、夢を見ましゅた。ウィルしゃんが、誰かと戦ってましゅた」

「そいつが、予知夢だから、一緒に来いというのか?」

 ムーは横にコクと首を倒した。

「わからないでしゅ」

「念のために聞くが、予知夢の能力があるのか?」

「いままでは、なかったっしゅ」

「だったら…」

 卒業試験のあと、オレは気になって召喚魔法について少しだが勉強した。

 召喚魔法には膨大な魔力が必要らしい。

 この世界にいるモンスターを呼び出すのだけでも、大型のファイヤーウォール、炎の壁を出現させるほどの魔力を使うらしい。さらに上級魔法の異次元召喚にいたっては、どれほどの魔力を使うのか計り知れないと本には書かれていた。

 莫大な魔力を使う異次元召喚を、ムーはホイホイとやってみせ、そのあとも「呼びましゅか」と、オレ達に何度も聞いている。それだけ莫大な魔力を内蔵しているムーならば、本人が自覚していなくても予知夢を見る力があるかもしれない。

「ウィルしゃん。ボクしゃんが見たのは未来じゃないと、思いましゅ」

「はぁ??」

「誰かが教えてくれたんでしゅ。ウィルしゃんを連れていくように、しゅ」

「誰がだ?」

「わかりましぇん。でも、ウィルしゃんが必要なんでしゅ」

「人か?それとも、神の啓示、ってやつか?」

「わかりましぇん。でも、ウィルしゃんが…」

「必要だって言うんだろ」

「そうでしゅ」

 バーウェル交易商会の仕事を失った。

 ムーの側は危険だ。

 危険だが、金貨20枚だ。

「ムー」

「はい、でしゅ」

「送り届けるだけでいいのか?」

「遺跡の穴を閉じて、遺跡からでるとこまで、しゅ」

「帰りは護衛しなくてもいいのか?」

「はい、でしゅ」

 悪い仕事じゃない。

 だが、ムーの依頼だ。

 チェックは念入りに、だ。

「穴を閉じるのは、すぐに済むんだろな」

「はい、でしゅ」

「遺跡は大きいのか」

「この教会しゃんくらい、しゅ」

 礼拝堂は大きいが、隣の部屋は小さかった。

 回廊があったとしても、2,3時間もあれば回れるだろう。

「よし、わかった。引き受ける」

 ムーの顔が、ニコニコと笑顔になった。

「ありがとう、でしゅ」

 オレはそこで、ひとつ聞き忘れたことに気がついた。

「なあ、ムー」

「はい。でしゅ」

「ララも、夢で見たのか?」

「ちがいましゅ」

「別の理由で、ララを呼んだのか?」

 ムーがフフフッと笑った。

「どうしたんだ、ムー?」

「復讐、でしゅ」

「復讐?」

「ララしゃん、この間、ボクしゃんをバシュバシュたたきました」

 殴っていたな、何度も。

「雇い主になって、ララしゃん、あれしてっしゅ、これしてっしゅ、やるんしゅ」

「ようするに、お前は、ララに命令したいんだ」

「はい、しゅ!」

「その為に、ララをひっぱってきて、護衛につかせたのか?」

「そうでしゅ」

「ムー、相手はララだぞ。わかっているのか?」

「ララしゃんとウィルしゃんの他に、教団から護衛しゃんが2人つきましゅ。護衛しゃん、ボクしゃん大事だから、ララしゃんから守ってくれます。ララしゃん、いじめてくれます」

 ムーは、フンと、胸をそらした。

「ボクしゃん、頭、いいでしゅ」

 オレは間違っていると思うぞ、絶対に。

 

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