3人とリディオン
入学の挨拶が終わると、各々教室へと移動するよう教師から声がかかる。
移動時も優遇されるのはSSクラスからなため、ミリヤはまだ講堂に残る者たちの視線を浴びながら移動した。
SSクラスに入る者は基本的には高位貴族が多いため、生徒たちが見たくなる気持ちも分からなくもない。
「ミリヤ様、お疲れではないですか?」
「なんで教師の話ってのはあんなに長いんですかね?」
ローズはミリヤの体調を気遣ってくれるが、ジークはただの文句である。
クスリと笑うと、ジークの背中を軽くポンと叩く。
「ローズ様ありがとう。私は大丈夫ですわ。ジークは周りに人がいる所でそういう事は言っちゃダメよ」
「申し訳ありません。今後は人がいない所で言います」
ローズは「言わないという選択肢はないのね」と呆れた目でジークを見ているが、ミリヤには気にした様子はない。
3人で目を合わせ笑っていると、後ろから笑い声が聞こえて来た。
「君達は仲が良いんだね」
先ほどまでミリヤたちの周りは遠巻きにされており、人はいなかったはずだが……いつの間に来たのかリディオンが立っている。
ジークも気付かなかったようなので、気配を消して近付いてきたようだ。
ディアルガンの婚約者だった頃の方が関係としては近かったが、あの頃は近付いてもこなかったのになと苦笑しそうになるのを堪え、笑顔で振り向いた。
「あらリディオン様。素晴らしい代表挨拶でしたわ」
「その割にあまり聞いていなかったように見えたけど?」
悪戯っぽく笑いながら追求してくるリディオンにミリヤの顔がピシリと固まる。
(よく見てらっしゃる……)
リディオンのような食えないタイプには、何を言っても揚げ足を取られると第六感が告げる。
ミリヤは貴族の令嬢らしく人形のような笑顔を浮かべ無言を貫いた。
リディオンも挨拶の時のことを掘り下げて聞く気はないのか、それ以上の追及はされなかった。
その代わりに、もう一度同じ言葉がかけられる。
「3人は仲が良いね。それに3人揃ってSSクラスとは、優秀でもある。仲良くしてもらえたら嬉しいな」
差し出してくれる手を誰が取るか、一瞬3人の視線が混ざり合ったが、この中では1番爵位が高いミリヤが代表して手を握る。
「こちらこそ仲良くしてもらえると嬉しいですわ」
周りからの視線が突き刺さるのを感じる。
遠巻きのまま近寄ってはこないが、ミリヤとリディオンのやり取りを一言も聞き漏らすまいと聞き耳を立てているのは空気で分かる。
クラス発表の時のやり取りと合わせ、ミリヤの実家オリエーヌ公爵家はリディオンにつくと思った子息令嬢が多いだろう。
そして……リディオンもそう思ったからこそミリヤといる事を選んだと推測する。
ディアルガンは王太子を外れたとはいえ、廃嫡されたわけではない。
どれだけ馬鹿王子でも王妃が産んだ第1王子に変わりはないため、返り咲く可能性も残っている。
リディオンが王太子になるのに必要なものは後ろ立て。オリエーヌ公爵家を取り込めばリディオン側にとってメリットは大きい。
そこまで考えるとミリヤは小さく息を吐き出し、チクチクと刺さる視線に知らぬフリをしながらリディオンの手をギュッと握った。
(エスコートしてもらった時も思ったけど、リディオン様の手は見た目に反してゴツゴツしてるのね。剣を扱う人の手だわ)
ジッと手を見ていると、ローズが時計を確認したようで声をかけてくれる。
「リディオン様、ミリヤ様。注目をこれ以上浴びる前に教室へ急ぎましょう」
「ありがとう。そうよね。初日から遅刻は頂けないわね」
貴族らしく優雅にを心がけながら、ミリヤたちは少し早足で教室へと急いだ。
後ろの方から聞こえてくるヒソヒソとした声に、生徒たちは家に帰宅した後、今日のことを話すのだろうと察する。
学園は情報収集の場でもある。
子供から聞いた親は果たしてどちらにつくのだろうかと、足を緩めないままミリヤは1人考えた。