前世の親友と今世の妹
「ミリヤお姉様、紅茶にしますか?それともフルーツティーにしますか?」
床に跪いたミリヤを見ながら、アリアは普通に話しかけてくる。
ミリヤにとっては紅茶でもフルーツティーでもどちらでも良かった。何故ならどちらを選んだとしても、ミリヤが飲む事はいつも叶わないのだから。
黙ったままのミリヤに、メイド長から叱責が飛ぶ。
「アリアお嬢様が聞いてくださっているのに、返事もできないのですか?」
何度繰り返したか分からないこの流れ。
毎回毎回飽きないのだろうかと疑問に思うが、ここで聞く勇気はミリヤにはなかった。
「良いのよ。お姉様が私と口を聞いてくれないのはいつものことですもの。それでも私はお姉様と仲良くしたいから、お茶に来て頂いてるのよ」
「アリアお嬢様……」
メイド達の目に涙が浮かび、そしてキツい視線がミリヤを襲う。
しかしミリヤが怖かったのはメイド達の視線ではなかった。
アリアがミリヤを見る視線。それが前世でミリヤを裏切った親友をとてつもなく思い起こさせる。
「私ね、ずっと思っていますの」
ゾクリ。
ミリヤの背を冷たい汗が伝う。少しだけ視線が揺れたが、アリアは気付かなかったようで、言葉を続ける。
「お姉様の事が心の奥底から大好きよ。過去現在未来、ずっとお姉様の幸せを願っているわ」
あの時と言葉は違う。だがミリヤは確信した。
(この子……アキだ……)
そう。前世でミリヤを裏切った女が目の前にいた。
顔も声も何もかも違うのに、向けられる視線と言葉が、彼女はアキだと訴える。
アリアがアキだった頃の記憶があるかは分からないが、例え記憶があったとしても、ミリヤがみぃだとは気付いていないだろう。
(私がみぃだと気付いていたら……もっと直接的に嫌がらせしてきそうなのよね……)
何故裏切られたか、未だにミリヤは分からないままだが、それでもあの時みぃを見つめたアキの視線は憎悪に揺れていた。
あの憎しみがそう簡単に消えるとは思えない。
ガタガタと震えそうになるのを必死にミリヤは堪える。ここでアリアにミリヤがみぃだと思わせるわけにはいかない。
ミリヤが何の反応も示さないのを見ると、アリアは明らかに顔を悲しそうに、メイド達はさらに視線をキツくした。
「アリアお嬢様がミリヤ様の幸せを願ってくれているのに」
「アリアお嬢様は天使のような方だから、ミリヤ様にも優しくしてくださるのに」
口々に聞こえて来る嫌味、しかしそれを気にする余裕はミリヤにはなかった。
(……アリアに気付かれる前に、一刻も早くこの屋敷を出ていかなければ……)
ミリヤが固く意思を固めたと同時に、アリアが口を開いた。