視線が見つめる先
リディオンの代表挨拶を聞きながら、周りをソッと見渡せば多種多様な反応を示す者達が目に入る。
1番多いのは輝いた瞳で見つめる令嬢達。
次に多いのが憧れに混じった中に嫉妬を隠せていない子息の姿。
そして……憎しみを隠すこともせず睨みつけるディアルガン。
ミリヤが更に周りを確認しようとすると、痛いほどの視線を感じた。
グレン家で痛ぶられ続けた故か人からの視線……特にミリヤに対して良く思っていない視線には敏感に感じ取る。
今感じているのは、グレン家の頃によく感じた視線。思い当たるのは1人しかいない。
視線を感じている方へゆっくり視線を動かせば……目が合ったのはアリア。
(怖っ!なんで誰もあの瞳を見ている人がいないのかしら)
ディアルガンよりも憎しみのこもった目でミリヤを見ている。
しかし視線が合ったのに気付くと、すぐに笑顔を見せるが……目の中は笑っていない。
そして……聞こえないけど、確かに聞こえたのだ。
「ミリヤのくせに」
そう呟いたアリアの声が。
ミリヤの手に力が入ったのを見ると、アリアの視線はすぐに外された。
(ミリヤのくせにね……久しぶりに聞いたわね。でも不思議……怖くないわね)
力の入っていた手をグーパーと動かしてみる。すんなり動く手に、思ったより怖さは感じていないのだと安堵する。
記憶が戻ったミリヤ自身は恐怖よりもアリアへの怒りの方が大きいが、グレン家で体の髄まで痛ぶられた記憶を体が覚えている。
(少しずつ……慣れていけそうね)
暖かなオリエーヌの家で過ごした日々はミリヤの心の傷を癒してくれていた。
その事が嬉しくてつい頬が緩むと、今度は棘のない視線を感じる。
今日はよく見られる日だと、そちらへ顔を向け夢と、舞台の上から微笑むリディオンと目が合う。
王子様の微笑み。
正にリディオンのためにあるような言葉。
笑顔を見た令嬢達は挨拶の途中というのも忘れ「キャーー」と黄色い声をあげている。
しかしご令嬢の声も届いていないかのようにミリヤだけを見つめるリディオン。
キラキラした笑顔に騙されそうになるが、彼はリアムが認めた王の器。
(助けてもくれたし悪い人ではないけれど……油断もできないのよね)
今学園内でミリヤが信用できる者はローズと
ジークのみ。
けれどそのままではいけないのはミリヤも分かっている。
増やしていかないといけない。
リアムから貰ったレティアの形見のネックレスに触れ、ミリヤは自分に言い聞かせる。
(どんな時も笑うのよ。お母様のように)
まるで蕾が開くように……大輪の薔薇のような微笑みだったと、後にリディオンから伝えられる微笑みだった。
リディオンは気付いていないだろうが、彼が初めて人に見惚れた瞬間でもあった。
一瞬言葉を失ったリディオンだったが、すぐに立て直すと挨拶を最後まで読み切る。
「輝かしい学園生活を送る事を誓います」
リディオンが言い切ると、拍手が会場中から巻き起こり、それに合わせるように鐘が鳴る。
(祝福の鐘だといいわね)
ミリヤの期待を裏切るように、波乱に満ちた学園生活が始まる。




