初日から火花散る②
「アリアは未来の王妃になる身だぞ」
ディアルガンは確かにそう言い切った。
黙って様子を見ていた生徒達にも響めきが広がる。
入学初日からこんな場面に巻き込まれ可哀想にとミリヤは心の中で同情してしまう。
「お兄様……頭大丈夫ですか?アリア様が王妃になるには……」
ハッとしたようにアリアを見るリディオン。
そこには紫色の瞳をしたアリアが、ジッとリディオンを見ていた。
「アリアが王妃になるにはなんだ?リディオン言ってみろ」
勝ち誇ったように笑うディアルガン。
一度は王太子から落ちたが、アリアがいればもう一度王太子に返り咲き、自分が王になると信じて疑わない様子は正に暴君そのもの。
見ていて気持ちのいいものではない。
ミリヤがチラリとリディオンを見れば、今度はリディオンが手を強く握りしめている。
(助けてもらったのに、恩を返さないわけにはいかないわよね……)
本当なら面倒事に首を突っ込みたくはないが、この先もアリアがいる限り勝手に突っ込んでくるのは目に見えている。
だったら戦うしかない。虎の威を借る狐作戦でになるが。
「リディオン様。お父様がリディオン様はとても素晴らしい方で、王の器を持っているととても褒めていましたの。今回の入試もトップでしたのよね?お父様からリディオン様が入学の挨拶をすると聞きました。楽しみですわ」
入学の挨拶は毎年入試トップの者がすると決まっている。そこだけは王家の忖度が効かないとも聞いた。
そのため、リディオンは正真正銘実力でその座を勝ち取ったという事になる。
「リ、リディオンが……トップだと……」
(あらあら、誰からも聞いていなかったのかしら)
ディアルガンの驚き様にミリヤも驚くが、少し考えメイドや従者は伝えたら絶対に八つ当たりされるのが目に見えているため言わなかったのだろうと察した。
学園に行けば知る事なのだから、わざわざ嫌な役目を引き受ける必要もない。
「ありがとうございます。ミリヤ様も大変優秀な方だとオリエーヌ公からお聞きしています。同じクラスのようですし、よろしくお願いします」
「あら、お父様ったら。お父様の私への評価は本気にしちゃダメですわ。だいたい過大評価ですので」
ふふふと笑うと、リディオンにも笑顔が戻る。
「オリエーヌ公にとってミリヤ様は目に入れても痛くないほど可愛い娘ですからね。でもSSクラス入りはミリヤ様の実力だと思うので、過大評価というわけでもないと思いますよ」
目に見える形で可愛がってくれるリアムの存在には離れていても助けられると実感する。
実際にリアムの名を出しただけで、ディアルガン優勢だった空気が一気に静まり返った。
けれど空気が読めないのは変わっていないようで、ディアルガンは大きな声で話に割って入ってきた。
「オリエーヌ公がなんと言おうと、第一王子は私だ!!リディオンも調子に乗るな!ミリヤ、お前もだぞ!!」
「ディアルガン様。先ほどからミリヤミリヤと名前を呼び捨てにしておりますが、もう婚約者でもないので呼び捨てにするのは辞めてください。それとアリア。私はもう貴方の姉ではないのでお姉様と呼ぶのはやめてちょうだい。今の私はミリヤ・オリエーヌですから」
ミリヤから反抗されると思っていなかったのか、アリアとディアルガンはギッと睨みつけてくるが、昔のように怯えてばかりだったミリヤではない。
周りには仲間だっている。
2人から追撃されるかと身構えていたが、その前にリディオンが動いた。
「ミリヤ・オリエーヌ様。教室までエスコートする権利を私に頂けませんか?」
恭しく手を取られ、甲に口付けが落とされる。
あまりの甘さにミリヤは現実逃避をしかけたが、ご令嬢達が「キャーー」と言ったのが聞こえ、これは現実に起きている事だと理解する。
しかしこの好機を逃しては騒ぎは治らないと判断し、リディオンへと頷いた。
「えぇ。よろしくお願いしますわ」
だからミリヤは見ていなかった。
アリアがどんな瞳でミリヤを見ていたのかを。
その瞳にどれほどの憎しみが宿っていたのかを……ミリヤは知らない。




