学園の門にも貴族社会
リアムや屋敷の者に盛大に見送られながら、ミリヤとジークは馬車で学園へと向かった。
「大勢の人が馬車で向かって混まないのかしら?」
前世の通学・通勤ラッシュを思い出す。
さらに前世と比べ、貴族には徒歩という選択肢がないため、全員が馬車で来たら、それだけで半日が潰れそうだ。
ミリヤが「大丈夫かしら?」と心配をしていると、前に座っていたジークが笑い出す。
「あはははは。大丈夫ですよ。そこらへんは国も対策をしていて、学園には8箇所出入り口があります。登校時間も学年毎に分けられているので、そんなに混まないと聞きました」
「いつの間に、そんな情報を仕入れたの?」
「ノア様から聞きました。ルーク様からは学食の美味しい物ランキングも……」
ルークの所で苦笑いになるジーク。
それに釣られてミリヤも苦笑いになる。
「ルークらしいわね……」
「ちなみに1番のオススメは秘伝のデミグラスソースがかかったハンバーグオムライスらしいです」
朝食を食べたのにお腹が空いてくる。
「それでは、初めて食堂で食べるときは私もジークもハンバーグオムライスを頼みましょうか」
ミリヤの提案にジークも食べたいと思っていたのか何度も大きく頷いていて、瞳もキラキラと輝いている。
ルークからどれだけオススメされたのか、その様子だけで伝わってくる。
ミリヤがクスリと笑ったのと同時に、ジークが窓の外を指差し知らせてくれる。
「ミリヤ様!もうすぐ学園が見えて来ますよ」
ご飯の話ばかりしていたら、いつの間にか馬車は学園の側まで来ていたようだ。
窓から外を覗いてみると、流石王都の学園だけあり治安も良さそうな場所に建てている。
しかし前後を見ても馬車はほとんど見かけず、今日が本当に学園初日か疑ってしまうほどの静けさにミリヤは若干不安を覚えた。
「ジーク?今日が学園初日で合っているわよね?他学年とは通学時間が分けられているとはいえ……静か過ぎない?」
リアムが確認してくれているため間違っているとは思えないが、一台も馬車がいないのは不思議でならない。
「大丈夫ですよ。8箇所出入り口があるとお伝えしましたが、ミリヤ様の使用する南西門からは基本的にミリヤ様とローズ様、他何名かの侯爵家子息の方しか利用しません。早く着く事はあっても遅れる心配はありませんね」
使用する門も爵位によって分けられるのかと、貴族社会の厳しさを感じる。
「それでは凄く混む門もあるという事よね?」
子爵・男爵位になると一気に貴族の数が増える。それだけ数えても相当数いるのに、そこに商会の子まで来るとなると……何時に家を出なければいけないのかと考えてしまう。
「北門や北東・北西の門は混みますが、徒歩で来る生徒もいるようなので、学園に遅れるほどではないみたいですよ。南門が学園では1番広いですが、次に広いのが北門ですし」
南門から続く一本道を真っ直ぐに行くと、たどり着く場所はただ一つ。王城。
「南門は王家専用なのかしら?」
「一応、他の者も使用して良いとなっていますが……王族の方が学園にいない時に限りという感じですね。ときおり器が広い王族の方がおり、使用しないのは勿体無いと使用許可をくれる方もいるようですが……」
2人同時に思い出すのはディアルガン。
あの我儘王子が許すはずはない。
「リディオン様だけの許可では無理そうね……」
器の大きさでいったら、ディアルガンの100倍、いや……比べるのですら烏滸がましいほどの差があるリディオンを持ってしても、彼だけの許可では他の者は使用できない。
腐ってもディアルガンはまだ王族であり、彼の許可は必要不可欠である。
「聞いている限りディアルガン様は権力を振りかざすのが好きそうな方なので……王族のみの特権にしそうですね」
「嫌な王子様ね……」
2人のため息が重なった時、学園への到着を告げる声がした。




