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学園初日の朝


バルティナ王国には国から認められた学園は1つしか存在しない。

そこに通える者は貴族の子息息女と莫大な入学金が払える裕福な商人の子のみである。

ときおり、魔術の力に秀でた者が平民から出る事もあり、そういうった子供は国からの補助で学園に通える例もあるが、ごく稀であり5年に1人いるかいないかと言われている。

学園での王族貴族の割合は9割にも上り、ほぼ貴族のために存在すると言われても過言ではないのがバルティナ学園である。


「お父様。変ではないでしょうか?」


学園では制服が決まっており、クラス分けにより女子はリボン、男子はネクタイの色が変わってくる。

リボンのない制服姿を見るのは今日が最初で最後だ。


「とても似合っているよ。制服も私達の頃と変わっていないから、ティアの時を思い出すよ」


格式ある学園の制服を簡単には変更できないのだろう。

でもそのおかげでレティアと同じ制服を着ていると思うと心が躍る。


「ふふふ。お母様と一緒は嬉しいです。それに刺繍も鮮やかで、惚れ惚れしてしまいますわ」


「刺繍はね。銀糸が使われているだろう?これは公爵家にしか許されていないものなんだよ。ミリヤは気にする必要がない立場だけど、平民や貴族社会に慣れていない商会や男爵位の子供達は学園に入学する前に叩き込まれていると思うよ。金糸は王家、銀糸は公爵家、藍色の糸は侯爵家の者だから、無礼は決して働かぬようにと」


伯爵家以下は多いため、ひとまとめに貴族は朱色の糸を使用するよう決まっていると教えてくれた。


「学園では身分は関係ないと聞きましたが、最初にきちんと線は引かれるのですね」


「勘違いする者が毎年一定数いるが、身分が関係ないのは学園の中のみであり、学園から一歩外に出れば通用しない」


身分社会はそこまで甘くないという事を改めて実感する。

学園の中でのみ許されている無礼講を、外に持ち出した瞬間にその者は社会から抹殺される。


(私も気を付けなければいけないわね……)


ミリヤより地位が上なのはディアルガンとリディオンだけだが……ディアルガンが問題だ。

学園で足を引っ張られないよう気を引き締め直す。


「脅かしてしまってばかりではいけないね。ミリヤ。確かに身分の違う者と仲良くなる場合は気を付けなければいけない。でもね、生涯の友を得る可能性があるのも学園のみだよ。大丈夫。ミリヤなら上手くやれるよ」


生涯の友というフレーズにミリヤの心はチクリと痛む。

前世では、生涯の友と思っていた者に裏切られたのだから……。

気持ちが落ちそうになるのを、これではいけないと自分に言い聞かせ顔を上げる。

目の前には誰よりも頼りになるリアムがいる。

それだけで誰にも負けないと思えるのだから、人の力とはすごいと思う。


「ありがとうございます!私なりに楽しんでみます。それにローズ様やジークがいれば怖いものなどありませんわ」


ミリヤが告げれば、傍に控えていたジークが照れ臭そうに、けれど嬉しそうに微笑んだ。


「あぁ。そうだね。ジーク。君にはミリヤを守るためにもう一つある物を用意したが……また今度ゆっくり話そう」


ある物とは?とミリヤとジークは顔を見合わせるが、リアムが今度と言葉にしたからには、今聞いても教えてもらえないだろう。


「はい!ありがとうございます」


この数ヶ月で騎士の姿に慣れたジークは、リアムへと礼を取った。

チラリとミリヤが時計を見れば、そろそろ屋敷を出る時間に差し迫っている。


「お父様。それでは行って参りますわ」


「ミリヤと話していると時間が過ぎるのが早いね。離れ難いが仕方がない。せめて馬車まで送ろう」


リアムがサッと差し出した手にミリヤも慣れたように己の手を重ねる。


「それではエスコートをお願いしますわ」


ミリヤが頼めば「仰せのままに」と恭しく頭を下げるリアム。

2人は同時にふふと笑うと、馬車までの短い親子のデートを楽しんだ。

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