贈り物に込められた思い②
「使用する機会がないなら、それに越した事はないからね」
願いを込めるように発せられたリアムからの言葉に、ミリヤとローズは頷いた。
(本当に……転移魔法を使うことなく学園を卒業できればいいな……)
ネックレスを見ながら、ミリヤは願った。
そしてふと1つの疑問が浮かぶ。
「お父様。ジークの懐中時計には魔力は込められなかったのですか?」
リアムがミリヤとローズのみなどの差別をするとは思えない。
隣でジークは「懐中時計を貰えただけで十分」と言っているが、それはあくまでも3人に1個ずつ渡されたプレゼントであり、魔法はまた別の話だと思う。
リアムも聞かれると予想していたのか、聞けばすぐに答えてくれた。
「それも話さなければいけないね。そうだね……結論から言えば、ジークの懐中時計にはノアが魔力を込める前から、魔力が込められていたんだ」
皆の視線がジークの懐中時計に集まり、ジークは少しだけ肩をピクっと動かしていた。
ミリヤは少し身を乗り出し、懐中時計を確認する。
「魔力が込められていると、他の方の魔力は込められないのですか?上書きするような感じとか……難しいものなのでしょうか?」
魔術については無知なミリヤからしたら、上から更に魔力を込めればいいのではないか?と思ってしまう。
「それはノアから話してもらった方が早いかな?」
餅は餅屋という言葉があったなと思いながら、ミリヤがノアの方へ体を向けると、ジーク達もミリヤに倣いノアの方へと視線も体も向けていた。
「それでは私の方から説明させていただきます。まずミリヤお嬢様が仰ったように他者の魔力が込められていても、上書きする事は可能です。ただその場合は上書きする方の魔術師の力の方が、最初にかけた魔術師より強くなくてはいけません」
強くなければ魔力の上書きは難しいという事を理解する。
(より強い者が勝つ。魔術師の世界も大変ね……)
ミリヤが「続けてちょうだい」と伝えると、ノアは皆の顔を見渡してから続けた。
「ジークの懐中時計は私の力でなら上書きする事は可能です。懐中時計も力に耐え得るため、魔術をかけるという点では簡単な作業になります」
チラリとジークの方をノアは見ると、まるで兄が弟を見るような慈愛のこもった瞳で微笑みかけた。
「ジーク。その懐中時計には君が15歳の誕生日を迎えたら発動する守りの魔法がかかっている。それは君のご両親が君のためを思いかけたものだろう」
ジークの両親はジークが18歳を迎える誕生日までに自分達が亡くなる事など想定していなかったはずだ。
そのため、ジークが成人を迎える18歳以降の事を思い、魔法をかけたのだろう。
(ジークのためを思ってよね)
成人を迎えた息子をいつまでも両親が守る事はできない。そんな事をしたら馬鹿にされるのはジークだ。
だから側にいられない自分達に代わりに、ジークを守ってくれる物を用意しておいた。
親の愛とは偉大だなと改めて感じる。
「両親が……僕のためにかけてれた……」
今日は涙腺が崩壊しているのか、またもジークの瞳には沢山の水がはっている。
「そうだね。ジーク、君はご両親にとても愛されていた。それが私が魔力を上書きなしなかった理由だよ」
涙腺が決壊したジークは、人目を憚らず涙を溢す。
ここにはジークが泣いた事を揶揄うような者はいないため、思う存分泣いてほしいと思った。
懐中時計を胸に抱きしめ、声を上げ泣くジークの背中を優しくトントンと叩くミリヤ。
「大切にしなければいけないわね。ジークのご両親の想いを」
「はい。生涯大切に思いながら生きていきます……」
しばらくの間、涙が止まらないジークをミリヤ達が励まし、やっとジークの涙が止まるのを確認し、リアムが口を開いた。




