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贈り物に込められた願い①


「これは……お母様の?そんな大切な物を私が貰って良いのでしょうか?」


宝石箱ごと抱きしめながら、ミリヤはリアムを見た。

リアムはミリヤの涙を手で掬い上げると、片方の手で頭を撫でてくれる。


「それは私がティアに送った物でね。学園に通っている時、ティアは毎日付けていてくれたんだ」


懐かしむように目を細めるリアム。

その目には在りし日の母レティアがいるのだろう。


「お母様は……大切だから置いて行ったのね」


ミリヤの頭の中にはグレン伯爵家で過ごした日々が蘇る。

もしレティアが嫁入り道具として持参していたら、今頃はアリアの首でネックレスは輝いていた可能性が高い。

ミリヤが何を思い出しているのか、その場にいる全員に伝わったようで、顔が曇り気遣わしげにミリヤを見ていた。

最初に動いたのは、やはりリアムだった。


「ミリヤの言う通りだよ。手紙が残されていてね。大事な物で、私の青春全てを見ていた思い出のネックレスだからこそ、お父様が選ぶような嫁ぎ先へは持って行かない。お兄様に持っていてほしいと…そしてもしいつか、また会える日が来たら、お兄様の手からもう一度渡してほしいと……」


一度言葉を切ると、宝石箱を持つミリヤの手にリアムの手が重なる。


「ティアとの約束は叶わなかったが、ミリヤに手渡せた。ティアも絶対に喜んでいるよ。私とティアからのプレゼントだと思って受け取ってほしい」


長い年月を経て、レティアの想いの詰まったネックレスはミリヤへと託される。


「あ、ありがとうございます。大切にします。そして、私もお母様と同じように学園に毎日に付けて行きたいです」


ミリヤの答えにリアムの顔が嬉しそうに綻んだ。


「お礼を言うのは私の方だよ。ネックレスを受け取ってくれてありがとう」


あるべき場所に戻ったネックレスを見て、リアムもようやく一つの区切りがついたように感じた。


「ローズ様、ジーク見て!すごい綺麗なネックレス」


「私の方も見てください。本物の薔薇のような髪飾りですわ」


「私のは古いですが、両親が残してくれた物です」


三者三様に喜び、お互いの宝箱箱の中身を見せ合う姿は、いつも見せている貴族の息女や騎士の姿とは違い年相応に見える。

3人の興奮が落ち着くのを待ち、リアムは話し始めた。


「もう一つ、君達に伝えておきたいことがある。まず、ミリヤとローズ、君達に渡したネックレスと髪飾りには一度だけ望んだ場所へと転移できる魔法が込められている。」


ミリヤとローズは話を聞き、同じタイミングで視線を宝石箱へと移す。


「このネックレスや髪飾りに、現在魔力が込められているのですか?」


ジーッと見てみても、普通のネックレスや髪飾りにしか見えない。

魔術師なら気付くのかもしれないが、魔力がないミリヤやローズには何も感じなかった。


「本当は何度も転移できるようにしたかったけれど…そうするとネックレスや髪飾りが魔力に耐えられないみたいでね。使用できるのは一度だけ。できれば危険が迫った時などに使ってほしい」


(学園は危険な場所ということよね……)


穏やかな場所で愛され過ごすことのできた半年が、終わりを告げるのだと痛感する。

貴族が王都の学園に通うのは義務であり、ベッドから起き上がれないなどの酷い病気でない限り通わなければいけない。

通わなければ貴族社会から締め出されるのだ。

ミリヤの事を溺愛しているリアムが、学園入学を止められないのは、王との法律で決まっているから。

そうでなければ領地へ連れ帰り、外には出さず己の目の届く範囲でミリヤを守っていただろう。


現実が目の前に差し迫り、ミリヤは怖くなる。


「一度だけ……危険な時に……ですね」


学園にはアリアやディアルカン、彼女達に付き従う者達が、久しぶりに表舞台に出るミリヤを待ち構えているだろう。


「そう。使用できるのは一度だけ。その代わり、どれだけ遠く離れていても、望んだ場所へ行けるように組み込まれている。上手く使ってほしい」


リアムの瞳を見つめれは、そこに映るミリヤの姿はとても不安そうで、こんな姿を見てはリアムが心配を加速させてしまうと、心の中で己に喝を入れる。


(私はミリヤ・オリエーヌ。誇り高きオリエーヌ公爵家の娘。大丈夫。絶対に負けはしない)


その場にいた全ての者が、ミリヤの表情が変わったことに気付いた。

決意を固めたミリヤの姿はリティアにそっくりで、リアム達が余計心配になってしまった事を、ミリヤは知らない。




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