それぞれへの入学祝いと思い
ミリヤの気持ちを嘲笑うように、日々はあっという間に通り過ぎた。
学園入学を翌日に控えた現在。
ミリヤとジーク、リアムの側近にローズまでもが呼び出され、客間へと集まっている。
「さて、明日はもう学園への入学だが……」
葬式のように皆の顔が暗くなる。
入学とは新しい日々の始まり。本来なら誰もが心浮かれて待つべき日のはずなのにだ。
「閣下。念のためお聞きしたいのですが、ディアルガン様は急な病などにはかかられてないのですか?」
ローズの質問は、客間にいる全ての者の願いでもあった。
リアムは机を指でコツンと鳴らすと、残念ながら現実をつきつける。
「残念ながら、誠に残念ながら、あの馬鹿王子は風邪一つひかずに元気だ」
バカは風邪ひかないというのは本当のようだ。
客間の空気が重くなりそうだったが、そこはリアムが上手に切り替えてくれた。
「馬鹿の話はここまでにして、今日君たちを呼んだのは渡したい物があってね」
控えていた執事に声をかけると、トレーをミリヤ達の目の前に運んでくれる。
トレーの上には3つの宝石箱が乗せられており、おそらくだがそれぞれ瞳の色の宝石が埋め込まれている。
紫色はミリヤ、ブラウンはジーク、黄緑がローズのものだろう。
「もう気付いたようだね? 宝石は君達の瞳の色を使っているんだ。さぁ、呼ばれた子から取りにおいで」
3人とも何を貰えるのかと期待に胸を弾ませた。
「そうだね。最初はローズ。君からにしよう」
名を呼ばれたローズがリアムの前へと向かう。
普段の堂々とした姿に比べ、少し緊張しているのが伝わってくる。
「ローズ。君にはその名に相応しい薔薇の髪飾りを送ろう」
宝石箱の中からでてきたのは真っ赤な薔薇の髪飾りで、ピンクゴールドの髪色を持つローズにとても似合っている。
「あ、ありがとうございます。毎日付けますわ」
感動で涙目になっているローズは髪飾りの素晴らしさに、しばらくの間見入っていた。
次に呼ばれたのジーク。トリがミリヤのようだ。
「ジーク。長らく待たせて悪かったね。約束通り、これを君に返そう」
リアムの言葉から、まだ見ていないミリヤもジークの宝石箱の中身が何かを悟る。
ジークも同じだったようで、宝石箱を開ける手が震えているのが、離れていても分かった。
「こ、これは……」
「君のご両親が君に残した懐中時計だ。何人かの手を渡り歩いてしまい、少し傷もついてしまっているが…‥正真正銘、君のものだ」
返された懐中時計を手に取った瞬間、ジークの目から涙がボロボロと流れた。
「閣下……ありがとうございます。何度伝えても伝え足りませんが……本当にありがとうございます」
頭が床に着くのではないかというほど、頭を下げるジークの姿を見て、ルークが「良かったな」と体を支えてやっていた。
涙が止まらない様子で戻ってきたジークにローズがハンカチを手渡すと、ジークの涙が少しだけ止まった。
「最後はミリヤ。おいで」
前の2人の時とは格段に違う甘い声でミリヤを呼ぶリアム。
「これを君に」
宝石箱を持って見れば、思った以上に重みがある。
落とさないよう丁寧な手つきで宝石箱を開けると、中から出てきたのは……。
「綺麗……」
紫色の一粒ネックレス。
ミリヤの瞳を取ったように、同じ色をしている。
チェーンの部分はピンクゴールドのようで、細く繊細だがキラキラと輝き、高価な物だと一目でわかる。
「それはね、パープルダイヤモンドが使われているんだ。この国でも1つしかないものであり……」
リアムはそこで言葉を切ると泣きそうな笑顔を浮かべた。
「ティアの物だ」
ミリヤの目からも涙が溢れた。




